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プロローグ


「まさか私が、君ほどの危険因子を見落としていたとはね」

 

 それは、とても同じ人間が発しているとは思えないほどに重苦しい声だった。  

 映画やドラマでラストシーンに流れて来そうなセリフ。ここで敵役の男は拳銃を構え、俺の眉間に照準を合わせて引き金に指を掛ける。

 しかし、現実ではそんなことは起きない。せいぜい、今の状況のようにヘビのような目つきで睨まれるぐらいだ。

 どうして睨まれているのか? 知らないし、知りたくもない。少なくとも好ましい状況ではないことだけは断言してもいい。

 なにしろ、この場所はある意味俺たちにとっては『地獄』と言っても過言ではないからだ。

 俺たち――つまり高校生。健全な高校生ならば、ここに来たくないというのが普通のはずだ。

 ――この『生徒指導室』には。


「俺、何かやりました?」

「身に覚えがあるだろう」

 

 机一つ分の距離を置いて、腕組みをしながら俺を睨んでいる男――担任に聞いた。

 四角い眼鏡を掛けていて、黒髪のショートカット。全身から、真面目という名のオーラがにじみ出ているような人物。

 身に覚えがある……ね。結論だけ言えば、身に覚えはあった。

 それでも、認める訳にはいかない。認めるわけにはいかない理由がある。

 話は変わるが、俺は優しい人間であることをモットーに生きている。間違ってもクラスメイトに暴力を振るったり、陰口を叩いたりはしないのだ。

 だから――。


「全く身に覚えはありません」


 はっきりと言い切った。


「ふむ……」


 担任は、怪訝そうに俺を見て。そして続けた。


「とぼけても意味はないけどね。……まあ、それが君という人間だから仕方がないのかもしれないけど」


 そう、仕方がない。俺は、そういう人間なんだから。


「それで、俺の処分はどうなるんですか?」

「君には、ある部活に入ってもらう。これは強制だ」


 処分にしては、かなり甘い。少なくとも停学、最悪退学を覚悟していた。それだけのことをやったと思っている。認めるつもりはさらさらないが。


「部活って……。運動部のマネージャーにでもさせてこき使おうと?」

「何を言うんだね。それじゃ、君が喜ぶだけじゃないか」

「俺をなんだと思っているんですか」


 まるで人を、働いて喜ぶ社畜か、ドMみたいな言い草だ。生憎、俺にそんな性癖はないので誤解しないで欲しい。


「安心していい」

「今の流れでどう安心しろと?」


 すると、担任は苦笑しながら。そうじゃなくて――。と言った。


「部活の話だ。そこまでハードじゃないから安心していい」

「そっちですか」


 なら良かったが。でも、それだと尚更疑問が残る。処分が甘すぎるのだ。


「君に入ってもらう部活は、『社会適合部』だ」

「なんですか、そのやばそうな名前の部は」

 

 やはり裏があったか。さすがにそうは上手くいかない。

 それにしても、初めて聞いた名前だった。うちの学校にそんな部があっただろうか。


「君は、その部の部員を全員――無事に卒業させて欲しい」

「……は?」


 いや、思わず声が漏れたが。なんだその条件は、拍子抜けにもほどがある。


「分かりました。それぐらいどうってことないですから」

「ほう、頼もしいじゃないか」


 にやっと口角を吊り上げる担任。するとどこから取り出したのか、入部届とペンを渡してきた。


「早速書いてくれ。後から、やっぱり無しというのは認めんぞ?」

「分かってますよ」


 スラスラと自分の名前を記入し、提出する。それが、本当の地獄への片道切符だとは、思いもしなかった。


  入部届


部活名 社会適合部

2年 A組  三谷 優


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