5.繋がり
勉強会も回数を重ね、時々他のパラメータのためにスポーツで遊べる複合エンターテイメント施設に行ったり、映画を観たりした。
週に三回は会う時間を作ってくれる静に、あかりは嬉しくなりながらも無理をしていないか不安になる。けれど毎回通常運転な彼を見ては無用な心配だったと安堵するところまでが定番になりつつあった。
ゲームではこの五月の連休中、最初のボスである巨大スライムを倒すことになる。
クラスで一番最初に話しかけてくれて、無愛想な静にも動じない、五十嵐蒼真。彼が静といる時に時間の停滞が起こり、異形が現れる。
対処しようとする静とは裏腹に、初めてその現象を経験した蒼真は狼狽し敵の目を引いてしまうのだけれど、襲われそうになったところを静が庇って助けてくれる。そのせいで怪我をし動けなくなった静を、自分が守らなければと強く思いレストアラーとして覚醒するのだ。
蒼真の力は治癒とバフ、サポートに特化していてこの先の戦いに大いに役に立ってくれる。
そうした本編ストーリーが控える静には連休前にあかりの方から予定があることを伝え、突然巻き込まれてしまう静が心置きなく戦えるように根回し済みだ。
ボスを倒したとしても蒼真への説明や仲を深めるイベントが待っているので、静も暇にはならなかったはず。
ただそう理解していても、あの日から一週間近く会わない日などなかったため、あかりは連休が終わるまでまだ日が残っているにも関わらず寂しさを感じていた。
そんなある日。
(嘘……)
見つからない。
枕の下にもたたんだ布団の間にも、ベッドの周りにも落ちていない。下の暗がりを覗いてもあの御守りの姿はなかった。
(落ち着いて考えよう。昨日寝る時はあったはずだから、何かあったなら今日のはず……)
あかりは予定があると言った手前静に聞かれた時に話ができるよう、五日ある連休中数日は遊びに出かけるつもりだった。
そのため一日は友達と、もう一日は姉と約束をし、そして最終日である今日は久々に休みが合った母と出かけた。
夜勤明けに車なんか乗ったら人轢くわ、という理由で車を持とうとしない母がレンタカーを借りて向かった先は会員制大型スーパーだった。
一日招待券を手に入れたらしく楽しそうに鼻歌まじりで運転する母を、二人暮らしと賞味期限のワードでなだめられるだろうかと悩んだ行きの道。
案の定買い込みすぎたものの冷蔵・冷凍系を抑えることに成功するというまあまあな戦果に二人とも大満足だった帰り道。
母は夕方過ぎから夜勤なのでレンタカーを返しに行ってから仮眠し、あかりがせっせと冷蔵庫に詰め込む作業を終えた。
そこから晩ご飯を振る舞い仕事に行く母を見送って、眠る準備までのルーティーンを終えさあ寝よう……となったところで、今に至る。
(昨日は、静くんとトークアプリでやり取りした後、会いたいなと思って御守りと一緒に寝た気がする)
そして問題の今朝は、突然母があと一時間で出かけるよ準備して!と宣言して部屋のドアをあけたものだから、驚いて手に持っていたはずの御守りのことを忘れていた。
ベッド周辺も机も散々探した。
洗濯物に紛れているのかと思ったけれど、母が朝あかりの知らないうちに済ませてくれていたらしく、先ほどあかりが入浴するために脱いだ分しかなかった。
洗った服はすでにたたまれ、クローゼットから取り出してポケットを探ってみてもやはり見つからなかった。
ここまで無いとすると、母が持っているかどこかに置いたままになっているかだろう。
あの日から御守りなしに眠るのは初めてだからなのか、胸騒ぎがする。
ひとまず母に見ていないかをメールで聞き、もう遅かったので返事を諦めて眠ることにした。
◇◇◇
朝、いつもより早く目が覚めた。
スマホのまだ鳴ってもいないアラームを止めるより先に、母からの連絡を確認する。
『洗濯物に紛れ込んでたから回収してた。でもポケットに入れたの忘れてて、間違えて持って来ちゃってたから帰ったらあかりの机のとこ置いとくね』
夜中の休憩中に送ってくれたらしい文に、ひとまず失くしていなかったと胸を撫でおろした。
(今日は放課後静くんと会う予定だけど、大丈夫、だよね)
いつもならとっくに来ているはずの静からの挨拶メッセージが入っていないことに気を揉みながら、あかりは学校へ行く準備をした。
(いない……)
静の学校の最寄り駅で電車を降りていく学生を目で追ったけれど、静の姿は見つけられない。
自分の通う学校に着いて、あかりから静へメッセージを送ってみるものの、それも既読にはならなかった。
まさか連休中のボス戦で何かあったのだろうか。
ゲームでならもし負けてしまっても何度でもリトライできる。けれどいくらゲームの世界だとしても、その中で生きている者にとってはリセットなんて存在しないのではないか。
「ね、暁桜高校って知ってる?」
昼休み、友達と弁当を食べながらしていた会話に気になっていたことを聞いてみた。
「きょうおう? この辺にある高校?」
「うん。電車で渋谷の方に何駅か行くとあるんだけど」
暁桜高校とは、ゲームの中で静が通っている高校の名前である。
「んー……知らないかな」
「あたしも知らない。そこがどうしたの?」
知らない。
確かに周辺にある学校をすべて把握しているかと聞かれれば、あかりもわからないと答える。それが数駅離れたところだとしたらなおさら。
だから、知らなくても何の不思議もない。
「ううん、なんでもない。あ、そういえばこの間ねーー」
その後も他愛のない話をしていたけれど、顔色の悪いあかりを友達が心配してくれた。それを笑って誤魔化して、学校が終わるのをじりじりと待った。
(やっぱり、いない)
いつもなら学校が近い静の方が早く着いてあかりを待ってくれているのに、いつもの店の二階にその姿はなかった。
奥の方ではなく、階段を上がってきた人からすぐ見える位置に座っておく。待ち時間に勉強はきっと進まないと自覚しながらも、目の前に何もないというのも落ち着かず道具を出した。
ちらちらとアプリを覗いては、連絡が来ていないか、送ったメッセージが既読にならないかと確認する。
けれど、三十分経っても一時間経っても、結局普段解散する時間になっても彼が現れることはなかった。
後ろ髪を引かれる思いで店を出て、帰宅ラッシュの帰りの電車の中で押し寄せる不安と戦った。
どうか、あの人が無事でありますように。
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