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21.修学旅行

 九月下旬、あかりは修学旅行で関西・四国に来ていた。

 幸い台風には当たらず日程を終えることができそうで、生徒も先生もほっとしていた。

 ただ日数の割に範囲が広いため、自由時間が少なく移動が多いのが難点だ。


 あかりは関西では、鹿にせんべいをあげたり寺院を見学し、友達が絶対やりたいとスケジュールに組み込んだたこ焼き食べ比べでお腹を満たし、一時間と少ししかない自由時間で有名なテーマパークへ入った。ほとんど遊べなかったのは言うまでもない。けれど、雰囲気を楽しめたしアトラクションも一つは乗れた。

 バスで移動して、四国ではまず有名なうどんをみんなで美味しくいただいた。本当においしくて感動しながら、あかりは熱の時の味を思い出してしまった。それから渦潮を見るために足元が透明な道を通ることになり、正直高いところが得意ではないあかりにとっては夢に見そうなくらい怖かった。なんなら少し泣いたと思う。友達と手を繋いでなんとか歩ききった後、しばらく足が震えて動けなかったのが強烈な思い出だ。






「斎川さん、ちょっといいかな」


 あかりは最終日の前日、ホテルで晩ご飯からの帰り道に隣のクラスの男の子に呼び出された。

 内心困りながらも、一緒に歩いていたクラスの女の子たちに背中を押されて着いていくことになってしまう。いつも一緒にいる友達は、旅行の係の集まりでまだ宴会場に残っている。


「あの、さ。俺一年の時同じクラスだったんだけど……覚えてる?」

「うん、もちろん。どうしたの?」

「一年の頃からずっと、斎川さんが……その、好きだったんだ。良かったら、俺と付き合ってください!」


 修学旅行で異性に呼び出しをされたら、大抵の用事は告白だろう。あかりはそれほど動揺することなく返事をする。


「あの、ごめんなさい。好きな人がいるから、お付き合いはできないです」


 すでに一週間以上前に、静の言ったとんでもない冗談を経験しているあかりにとって、申し訳ないけれどその他の人からの告白はたいした衝撃にならなかった。


 部屋に戻ると、待ち構えていた女子が結果をわくわくしながら聞いてくる。

 あまり人に言いふらすような内容ではないのだけれど、そもそも人前で呼び出したのだから仕方ない。

 お断りしたと簡単に話すと、もったいないと騒がれた。


「はいはい、あかりにも好みってもんがあるの! あたしたちお風呂入るからじゃーね、おやすみ」


 今泊まっているホテルは、一部屋を三人で使えるようになっていて、いつもの友達二人が一緒だ。相変わらず頼りになる二人には、すでにこの数日全力であかりの恋愛事情を聞き出されそうになっている。

 あかりにも複雑すぎて説明しきれないので、まだ普通に会うだけだと誤魔化し済みだ。


「あ、あかり戻ってきた! スマホ鳴ってるよ!」

「はい、通話状態にしといたから、ベランダ行って!」

「え、え!?」


 三番目にお風呂に入って髪をある程度乾かして浴室から出ると、慌てた二人から自分のスマホを押し付けられる。

 画面を見れば、静からだった。


「も、もしもし」

『あかり、ごめん。タイミング悪かった?』

「ううん、大丈夫。ちょうどお風呂上がったとこです」


 カラカラ、とベランダに続く窓を開けて、スリッパのまま外に出る。体が火照っているからか気持ちのいい風を感じた。


「静くんはもう帰ってきたんだよね」

『うん、昨日』

「北海道どうだった?」

『東京よりずいぶん寒かった。夏よりは秋って感じかな』

「そうなんだ、服の調節大変そう……」


 静はあかりの学校よりも少し早く出発していた。北海道なので持っていく服はあかりに比べて長袖が多く、準備の時は荷物がかさばると言っていた。


『でも食べ物がおいしかった。海の幸とか、ラーメンとか』

「あ、あとジンギスカンだ。羊の」

「うん、そう。クセはあるけどおいしかった」


 そのままあかりのことも聞かれ、たこ焼きを五軒分食べたことや海の上で透明な床を渡ったことなどを話す。


 どのくらい話していたのか、あかりがくしゃみをしてしまい、電話を切ることになった。


『ごめん、もう切ろうか』

「うう……こっちこそごめんね。それじゃーー」

「最後にすみません、あかりの友達です! あかり、さっき隣のクラスの男子に告白されてましたから!」

「あと、修旅の前にもクラスの男子二人に告られてましたよー」

「え、な、なんで知ってーーあっ、の、おやすみなさい!」


 今一番話題にしてはいけないことをバラされてしまった。

 あかりは慌てて通話を切って、部屋の中からベランダを覗く二人を見て半眼になる。


「なんで言っちゃうの!? あとなんで知ってるの!」


 部屋に入って怒るあかりに、二人は目を見合わせてごめんと謝った。


「だってすぐ普通に付き合い始めると思ったのに、いつまでもあかりのこと待たせてるから。しかも思わせぶりな態度でさぁ……」

「隣のクラスの男子のことはさっきうちの子に聞いた。あとうちのクラスのはあかりがいない時に相談してるの聞こえた」

「キープしてるみたいに見えるから、ここは一発あかりの最近のモテ期をアピールして」

「例の男を焦らせようとしたってわけ」

「ふたりとも……」


 あかりのことを考えてやったことだったとわかり、怒るに怒れなくなる。

 けれどタイミングは最悪だ。


 あかりが東京に帰ったら、静と会う約束をしている。お土産を交換するために。

 その時にでも、忘れてくれるように頼むしかない。いや、むしろ何も言わないで忘れてくれるのを待った方が良いだろうか。


 最終日ということもあって疲れていたあかりは、まだテレビを観ている二人に先に休むことを告げて、布団に潜り込んだ。


(静くん……)


 二人に気がつかれないよう御守りを枕の下に忍び込ませ、その先に続く人のことを思い浮かべて目を閉じる。


 あの悪い冗談を言われた日から今日まで、静もあかりも今までと変わらない態度で過ごしている。いや、過ごそうとしている、と言った方が正しいかもしれない。


 そもそも静は本当に冗談だったらしく、あかりを好きな素振りはみせない。手を繋いだり不意にかわいいなどのセリフを吐くことはあるけれど、あかりのように照れたりすることはないのだ。

 あかりは変わらず静を前にすれば緊張と喜びで心臓が高鳴るし、好きだなぁと見惚れてしまうのに。

 ただ、勉強している時などにふと気がつくと、ぼんやりあかりを見ていることが増えた気がする。

 今までは目が合うと薄く微笑んでくれたりしたのに、この前からは目をそらすようになった。


 冗談だったのに態度に変化を感じて、さらにそれを隠しされているということは、どう考えてもあかりの反応に不信感を抱かせてしまったのが原因なのだろう。

 初対面で好きだの彼女にしてほしいだの言っておきながら、じゃあいざ彼女にすると言ったら青褪める。おかしいとしか言いようがない。

 もしかしたら、あかりが静のことを好きだという気待ちすら疑われているかもしれない。

 きっと静は気づかれていないと思っている。けれど、あかりは間違いなく静が好きなのだ。悲しい変化であればあるほどすぐわかってしまった。


 言い訳させてもらえるならば、あかりは本当に静に好きになってもらえるとは思っていなかった。紗南や理香子など、素敵な女の子がいることを知っていたし、他校に通う少し会うことが多い程度のモブですらない誰かを主人公が選ぶはずもない。

 だからあかりは安心して静に会いに行けたし、なりゆきとはいえ気持ちを隠す必要も感じなかった。

 あわよくば、静の笑顔を向けてもらえたら、くらいの浅はかな理由で。


 会えば会うほど以前とは比べ物にならないほど深く好きになって、後に苦しむことなんてわかりきっていたのに。

 今、あかりはその報いを受けていた。


(静くんのことを思うなら、すぐに消えた方がいい。でもそしたら静くんはすごく心配してくれちゃう)


 あかりは最近告白されることが増えた。


 そして気がついたのだ。

 静も、リンク相手と恋人になれる時期であると。


 心残りにならないように、フェードアウトする。

 それがあかりが目指すべき最終目標だった。

Copyright © 2020 雨宮つづり All Rights Reserved

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