もう一つの愛
『わぁ!ぴったり〜』
『あきちゃん』は早苗の目を自分の失われたそこに入れ、満足げに笑った。
そして、香織の家に向かう。
香織――――
―
香織は今、庸平のお見舞いに一人で来ていた。花瓶の花を替え、そっと未だ目を開かない彼のベッドに座り込んだ。
手術は無事成功し、庸平は一命を取り留めたのだが、未だに意識は戻らない。
沢山の管が繋がれた庸平の手を握り、彼の顔を心配そうに見詰めていた香織だったが、やがて立ち上がり、鞄から取り出した手紙をそっと枕元に置き、病室を出た。
家に帰り、化粧を落とし、今日あった信じられない出来事達を思い出す。
学校へ来ないミカを心配し、家に行き、庸平が刺され、そして早苗が死んだ。
水の滴る音
床が軋む音
野良猫の声
そんないつもは気にも欠けない様々な音が、今日に限っては何か別の物のように感じてしまう。
怖くなり、ベッドに入った香織は、布団を頭まで被り眠りに入ろうとした。
が
薄れゆく意識の中、
ズゥー…ズゥー…と何かを引きずる音に加え、
『ねえ。起きてよ』
という声を聞いた。
再び
『ねえ。起きてってば』
という声を聞いたとき、彼女は完全に目を覚まし、体を震わせていた。
『震えてるね?怖いの?』
『あきちゃん』が面白そうに笑っている。
『だったらさぁ、『あきちゃん』の事見てよ。多分もっと怖いよ』
そういって『あきちゃん』は布団を引き剥がす。香織はその姿を見てさらに怯えた。取り調べの際髪の毛が伸びている、とミカから聞いていたが、今ここにいる人形の髪は2メートルはあるだろう。
その間から覗いた瞳がやけに生々しく血を滲ませている。
よじれた身体でフラフラと近づけて来る。
「いや…来ないで!いや!」
ひたすら首を振る香織。
『ウフフ…』
笑いながら、庸平が愛用していた灰皿で香織の顔を潰していく
「いやぁー!!!!!!」
泣き叫ぶ香織の声も、頭が割れ、脳みそが飛び出たと同時に途絶えた。
『ミカに近づかないでね?』
『あきちゃん』はそういって最後、顔面に赤黒く染まった灰皿をたたき付けた