二つの憎悪
二人は、お互いの気持ちに気付き始めていた。
「…何してるの?」
パサっ…
その声に驚き、二人はすぐに体を離した。その声の先には、一人の女性が居て、果物などが入った買物袋が落ちている。
「早苗…いや…」
「何してるのよ!!!」
いつもの大人しい早苗が嘘のように、髪を振り乱し声を荒げている
唐突に、晶仁が口を開いた
「ごめん。別れてくれないか?」
「えっ?」突然の事に早苗とミカはとても驚いた。だが、我に返ったミカが早苗に弁解する。
「ちょっと、別れる必要なんてないよ、早苗、違うんだよ!怖がってた私に優しくしてくれただけなんだから!」
「…怖がってた私に優しく?」
早苗のドスの効いた静かな声にミカは怯んだ
「優しさのどこからキスが出てくるのよ?」
「え……」
ミカはもう何も返す事が出来なかった
「もういい」
「早苗!」
バン!
激しくドアを閉めた早苗。その頬には一筋の涙が流れていた。
二人はしばらく放心していたが、先に立ち直った晶仁が言った。
「俺、謝ってくる。」
「待って!」
そう言って走り出そうとする晶仁の手をミカは思わず掴んでいた。
「行かないで…私の傍に居て…」
泣きそうな目で見詰めてくるミカに愛しさが募る。
「ミカ…好きだ!」
抱きしめ、晶仁は叫んでいた。
この出来事がまた、新たな恐怖を生み出してゆくことになる
※
恋人に捨てられた。意味がわからなかった。大した喧嘩もしていないし、それに晶仁はミカの事を嫌っていたはずなのに…どうして…
乗り換えられた現実に頭が真っ白になってゆく。
そんな時、早苗の背後から不気味な声が聞こえてきた
『ねぇ、どうしたの?』
「誰!?」
振り返ると、そこには目が飛び出、身体がよじれてはいるが、見覚えのある人形がいた。
そうだ、ミカの家にあった人形だ。でも、不思議と怖い感じはしなかった。
「あきちゃんだよね…?」
こくん、と頷いた『あきちゃん』は、
『お姉さんも裏切られたの?ミカが憎い?』
と無表情で聞いた。泣き崩れ、
「憎い、憎い」と叫ぶ早苗を見て、ニヤリと笑い、
『じゃあお姉さんの復讐、手伝ってあげる』
と言いながら『あきちゃん』は早苗の目玉に手を伸ばした。
グチャっ…
「ぎゃあああ!」
嫌な音と共に早苗の叫びが静かな夜に響き渡る。
その場で倒れた早苗はもうピクリとも動かなかった。