月光
庸平を救急車に乗せ、5人はあるお寺の前にいた。そう、晶仁の実家である。境内にずらりと並べられた人形達が、興味なさそうに自分達を見つめている
「どうされましたか」
奥から坊主頭の男が顔を出した。
「親父…ヤバいことになった。」
晶仁は、坊主頭の男を見るなりかけより、今までの経緯を説明し、ミカを紹介した。
「お嬢さん、お立ちなさい。一応お祓いしてみましょう。」
晶仁の父親は、一瞬深刻そうな顔をして、やがてミカを呼んだ。
ミカは、解放されたことへの安心からか、足に全く力が入らない。
晶仁達の手を借り、立ち上がったミカは、泣きじゃくる早苗、千夏、香織と共に煙りの立ち込める部屋へと移動し、じっと経に耳を傾けていた。
二時間後…経が終わり、何枚かのお札と御守を渡された一向は、ミカと晶仁を除いて庸平のお見舞いに向かい、離れに通されたミカと晶仁は、晶仁の父親から話を聞いていた。
「…その人形は止める事が出来ないかも知れない。
普通なら人形に霊が入り込んで感情や人格を持つものだけれど、彼女は違う。自身で人格を持ってしまった。
ミカさん、貴方に対する念が物凄く強い。間もなくここに来るだろう。
でも、安心してください。彼女はこの部屋には入れない。
具体策を考えてきます。
晶仁、しばらく一緒に居てやりなさい。いいね?」
「あぁ…」
「ありがとうございます」そういって深々と頭を下げるミカを、晶仁は不思議な気持ちで見つめていた。
俺が守ってやらなきゃ、と。何故かそう思ったのである。
「寒くないか?」
上着を脱ぎ、ミカに手渡しながら問う晶仁に、ミカは少し驚いていた。晶仁は今までミカに対して冷たく接していたから。
でも、目が優しい人だなと思った。
そしてミカは、今までの過去を晶仁に洗いざらい話していた。途中涙が止まらず言葉を詰まらせたミカを晶仁はそっと抱きしめ、静かに耳を傾けていた。
話し終えた時はもう、笑顔になっていたミカは、
「早苗に怒られるよ」
と言い、晶仁が
「そうだな」と返した途端、部屋が揺れはじめた。
晶仁はミカを抱きしめながらじっと耳を澄ましていた。『あきちゃん』の声を聞いていたのだ。
『………返せ…』
『………返せ…』
『………返せ…』
『………返せ…』
『………返せ…』
何かがおかしい…声の主が一人じゃない…何十、いや、何百はいる…!
まさか…
『あきちゃん』はこの寺に納められていた人形全てを率いていた。ミカにも聞こえているのか、耳を塞いで首を左右に振っている。
どうする…?この部屋が負けるのも時間の問題かもしれない…
鍵も掛かっていないドアがどんどんと叩かれている
晶仁は御守りを怯えるミカに握らせ、固く抱きしめていた
何時間経っただろうか
揺れは無くなり人形達の気配も消えている。
晶仁は腕の中で小さくなっているミカをもう一度強く抱きしめ、静かに唇を奪った
赤い月が、離れを煌々と照らしている。