序章
「ミカ…ゴメンだけど、あたしたちもう帰るね?」香織が申し訳なさそうに言う。
既に日は落ちている
ミカは、
「うん…ねえ、本当に誰の家も泊まれないの?」と二度目のトライを試みる
「ごめん。マジで今日は無理なんだ。また明日、大学で、な?」ミカの頭に手を置きながら謝罪する庸平。だが心の中では早くこの場を立ち去りたくて仕方が無かった。
「わかった…じゃあ気をつけてね」
「うん、じゃあまた明日ね」
※
「ミカの顔、嘘言ってる風には見えなかったよね…」
「…だから言ったんだ。あいつには関わんなって。きみわりぃ。
思ってたんだけど、俺あいつ嫌いなんだよ。早苗、もうあいつと関わんのやめろ」
「うん…」
晶仁はタバコに火を付け、訝しげにミカのアパートの方を見上げた
※
あ〜あ…
「本当に帰っちゃった…」
早苗、千夏、香織、晶仁、庸平が帰ってしまい、狭い部屋は途端に広く感じた。そして、ミカはゆっくりと『あきちゃん』の方を見る
「髪…」
相変わらずの無表情だが、明らかに髪の毛が伸びている
…気持ち悪い。ミカは、左右に2センチメートルほど髪が伸びた人形を段ボールの中にもう一度しっかりとしまい、ガムテープでとめ、眠りについた…
その晩
吹き出す汗にあまりにも寝心地が悪く、ミカは目を醒ました。すると、ぼやけた意識の中、部屋の隅からビリッ、ビリッという音が聞こえている。
夢うつつだったミカの頭は一気に冴え、横たわったまま体が硬直した。唯一動く瞳で、その暗い部屋の隅をじっと見つめる。
やがて暗闇にも目がなれ、段ボールの蓋がゆっくりと開かれ…そして中から、ピョンとナニかが飛び出してきたのを確認した。カラクリ人形のようにカクカクした動きでゆっくりと歩いてくる『あきちゃん』に身のすくむ程の恐怖を感じるが、身動きは取れない。
ベッドに飛び乗ってきた『あきちゃん』はミカの顔を覗き込む。そしてミカの瞳を捕らえた人形は、目と口の形をニタァと変えた。