完璧な王子様は変態でした。
煌びやかで繊細な部屋。明らかに高級だとわかる机を囲む四つの人影。
線が細く、吹けば飛びそう、触れれば折れそう、妖精だ精霊だと言われても、思わず納得しそうな美しい顔立ちが二人。
どこぞの世紀末から抜け出してきたかのような、筋骨隆々でいて、濃い顔立ちが二人。計四人。
線の細そうな二人は、流麗な眉を困ったように八の字にし、頬に手を当て、首を傾げている。
世紀末な二人は、腕を組み、目を閉じ、眉間にしわを寄せている。
四人全員が困っていた。
「……これを、どうするか」
世紀末なうち、そこそこ渋い年齢に達していそうな方が声を上げた。
顔を裏切らず、ずっしりとした雄々しい声だ。とても困っているようには聞こえない。しかし、彼はとても困っていた。
机の上には、あからさまに高級な羊皮紙。それだけなら問題はない。問題は、差出人とその内容。
差出人は第一王子。内容は、未だ決まっていない婚約者として、公爵家令嬢エモリー・レイトンを打診したい、というもの。しかも、熱烈なラブレター付きで。
幾度読み返しても、第一王子からエモリー・レイトンへの熱い、暑すぎる、滾った想いを書き綴ったラブレター付の、是非我が妃に、と希う命令書――打診という体裁をとっているが、王子の文章は明らかに熱烈希望で、こうなると最早断るのが不可能なので命令と言っても過言ではない。
通常、貴族は幼いうちに婚約者が決まる。だが第一王子にも、エモリーにも婚約者はいなかった。
第一王子二十七歳。エモリー・レイトン二十五歳。互いに婚約者がいないし、年も合う。問題がないと言えば問題はない。
「……私が直接話しましょう。おそらく第一王子は私と兄上を逆だと思っているのでしょう」
声を上げたのは、渋い年齢に差し掛かっていない方の世紀末。
とても女とは思えない低い声。しかし、それにだって理由がある。彼女、エモリー・レイトンは、国王直属近衛騎士隊の一人。しかも、常に国王の側に控える、国王の懐刀ともいえる超花形エリート五人組の一人なのだ。
その地位は、けして金で買えるものではない。
長く辛く過酷な鍛錬の日々を経て、真の実力と、忠義をもって、初めて任命される。国王お墨付きの、一騎当千の英雄達である。
もともとエモリーは確かに女性の中では声の低い方だった。だが厳しい鍛錬の果てに、完全に喉が枯れ、今では声を聞いて女性だと気づく者がいないほどの声となってしまった。勿論、国王に忠誠を捧げている本人は一切悔やんでいない。
「でもね、エモリーちゃん……仮に、仮によ? 第一王子が嘘つくな、不敬罪だーって言ってきたらどうするの?」
「母上、流石にそれはないかと……」
美しく儚い容姿で、ドレスを着た女性が声を上げれば、同じく美しく儚い容姿で、フリルシャツとズボンを着用した男が声を上げる。
女性の方がエモリーの母親、ケイシー。男性の方が兄のエリシャ。エモリーとは似ても似つかないが間違いなく血がつながった家族である。
「しかし困りましたね。今までもこういうことがなかったわけではなく、むしろ我が家のことは有名なはずなんですがね……」
女性よりも遥かに美しいエリシャ。彼もまた、婚約者どころか恋人さえいない。
彼の美しさは男女問わず魅了するが、自分より美しく、男を魅了するような男の隣に立ちたいという猛者は存在しない。
雄々しい公爵。美しい公爵夫人。公爵夫人生き写しの息子。公爵生き写しの娘。人呼んで、子の世代でバグった残念公爵家。今では社交界でいろんな意味で大変有名な一家。王家が知らないとは思えないが、知らないんだろうな、と白目を剥きたくなる書状が、確かに存在している。
「なんにせよ、私が会いに行って、現実を理解していただくのが早いと思います。近衛騎士団長に保証人になってもらえば、流石に第一王子も疑ったりはされないかと」
「うむ、それがよかろう」
話がまとまると、全員から重苦しい溜息が零れ落ちた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
高級な羊皮紙を手に、本日何度目かわからない重い溜息を零す。
「もうっエモリーちゃんったら! 溜息つくと、幸せが逃げちゃうんだからね」
すかさず野太い声が隣からかかった。
慌てて眉間の皺を揉みほぐし、相手へと顔を向ける。その顔に浮かぶのは申し訳なさ。
「申し訳ありません、エレン近衛騎士長」
「やぁん、アタシのことはエレンちゃんって呼んでよぉ! アタシとアナタの仲じゃなぁい」
世紀末も真っ青な筋肉の塊が、両手を頬にあて、くねりくねりと身をくねらせる。
異様なその光景も、この王宮内では日常の風景。誰もが一瞥さえくれず、過ぎ去っていく。
並みの男でも泣いて逃げ出す世紀末な見た目のエモリー。彼女をもってしても見上げる筋肉の塊こそ、エモリー所属する、国王直属花形エリート近衛騎士隊隊長エレン・マグリット。彼女は、身体こそ、ドラゴンをも片手でひねりつぶせる筋肉男でありながら、心は清らかな乙女なのだ。
筋肉だるまな事を差し置けば、世紀末的美形なので、そこそこ女性受けが良い顔の造形をしている。その顔に失礼にならない程度の化粧を施せば、まぁ、いろんな意味で迫力のある女性に、見えなくもない(本人談)。声が野獣のごとき野太さを誇っているが。
彼女は何故だか入隊当初からエモリーを気に入っていた。近衛騎士隊長なのに、騎士隊の訓練所に押し掛けては、いじめかと思うほどのしごきを次々に与える。そして愛情表現よ、と女神のように微笑む姿は度々見られ、実際、彼女のしごきによってエモリーは実力をつけたと言っても過言ではない。
「それじゃ、行きましょう。大丈夫大丈夫! たとえ王子様がなんと言っても、アタシたちは国王直属。ちょっとやそっとじゃなぁんにもできないわよ!」
上司に迷惑をかけた、としょげるエモリーに、エレンはばちこん、とウィンクする。長い睫毛がばさっと音をたてたような気がした。
眩しい笑顔に後押しされ、手にしていた書状を胸元にしまう。
真っ直ぐにエレンを見返し、はい、と頷いた。
エレンと共に、第一王子の執務室を訪れる。
先駆けを出し、予定した時間きっかり。扉をノックし、名を名乗る。すぐに入室の許可が下りた。
「失礼いた……」
「やぁ、エモリー嬢! 会いたかったよ!!」
扉の前で騎士の礼をとりながら名を名乗ろうとしたエレンと、エモリーを遮り、すっとんできた第一王子。
蜂蜜色の髪は光を浴び、きらきらと輝き、翡翠色をした瞳には喜色が浮かんでいる。
胸元にあてていた左手は、王子の両手に包まれていた。
「さぁさぁさぁ入ってくれ。ああ、こんな間近で会えるなんて、夢みたいだ!」
「「うっ」」
全力の笑顔。
王子スマイルは驚くほどの光を放ち、あまりの眩しさにエレンもエモリーも目を細めた。自分たちの仕える王も魅力的な笑みを浮かべる。しかし、こんな目に痛いほどの輝きはしていない。どちらかと言わなくとも精悍で、男らしい魅力に溢れた笑みを浮かべる。そちらに慣れていた二人は、真の王子様スマイルに、一瞬圧倒された。
一瞬引きかけた二人だったが、寸前で何とか踏みとどまる。
「だ、第一王子……」
「やぁ、僕の事はアマーリと呼んでくれたまえ」
「い、いえ、流石にそれは……」
「ええっと、第一王子、とりあえず、まず、中に入れてもらってもよろしいでしょうか?」
包み込んだ手をさわさわなでなでしながら、ぐいぐいと迫っていく第一王子に、エレンが常識的な言葉をかけた。
「ああ、エレン殿いらっしゃったのか。これは失敬。さぁ、どうぞ……やぁ、今日も本当に魅力的だね」
満面の笑みが、作り笑いに変わりかけ、すぐにデレっと崩れた。
エモリーの左手から手は離さないが、微妙に触れたそうに手がわきわきと動いている。魅力的、という言葉は本心からのものだとわかる。
エモリーとエレンは筋骨隆々で、どちらかというと対峙する相手を威圧してしまう。そんな二人を前にして、にこにこと嬉しそうに笑うアマーリは大物といえよう。
優雅に室内へとエスコートする姿は、誰もが憧れる王子様。
来客対応用のソファーへと二人を案内すると、腰かけた。何故か隣にエモリーを座らせて。というか、手を掴んでからここまで、一度も離さない。ずっと、さわさわなでなでと手を動かし続けている。放っておけば、手の甲から全身へと移動しそうな危険な動きをしていた。
「あの、殿下……御手を……」
不穏な気配に冷や汗をかきつつ、やんわりと手を引こうとするも、離れない。
ごほん、と大きな咳払い。
「殿下。未婚の女性の体にいつまでも触れているのは、いかがなものかと思います」
「ああ、そうだね。すまない、つい。私にとって彼女は理想的過ぎて……実は彼女の存在は私の夢で、手を離したら消えてしまうのではないかと思ってね」
うっとりと見つめる目。
ぞわっと駆け上がる悪寒に、エモリーは騎士服に隠れた部分に鳥肌立てるが、表面にはいっさい見せない。
「で、口では謝罪しつつ、けして手は離されないのですね」
相変わらずなでなですりすりと続ける姿に、呆れた声をあげる。けれどもアマーリは悪びれることなく、そうだね、と微笑んだ。
「彼女を知った時、絶対に妻にと願ったんだ。もう、今日、今すぐにでも、教会に駆け込もうかと逸る気持ちを抑えているんだよ? これくらい見逃して。じゃなきゃ今すぐ実行してしまいそうなんだ」
「「……」」
恍惚とした笑みと共に言われた言葉。二人はひきつった笑みを浮かべ、全力でドン引いた。
気持ち悪い。犯罪者一歩手前のやばい男がいる。それが二人の感想。素早く互いに視線を合わせ、ここからいかにして安全に撤退するか、意見を交わす。
手を振り払う。不可能。
言葉を尽くす。はたして言葉の通じる相手なのか。
実力行使。不可能。
次々案を出しては、無理だと却下する。
結局、大した案はなく、様子を見る、という無難な方法を選んだ。
「で、殿下?」
「なんだい、エレン殿?」
「殿下はその、エモリーの事を存じていらっしゃったのですか?」
「勿論だとも! あれは忘れもしない三年前のことだよ。私は運命に出会ったんだ。あの日私は久方ぶりに外交から帰ってきた……」
よくぞ聞いてくれた、そう言わんばかりの笑みで頷いたアマーリ。よどみなくエモリーとのなれ初め(自称)を語り出す。
アマーリは外交のため、一年の大半を他国での外交に費やしている。
婚約者がおらず、そのため不能という噂が立ち、王太子として立太子できないアマーリ。これ幸いと他国を巡っているのだと知っているのは、親である国王夫妻と、その忠実な臣である宰相くらいだろう。
三年前、新たな外交ルートの確立という成果を手に、帰国したアマーリ。彼の成果と、無事の帰還を祝う夜会。そこに乱入した不埒者。
よくある話。
よくあること。
いつもより人数が多く、手慣れていた不埒者達を前に、逃げ惑う貴族達――はいなかった。
襲撃者達には残念なことに、その場所には既に国王夫妻が居た。ということは、当然、国王の懐刀であり、国内外問わず有名な一騎当千の近衛騎士が、勢揃いしていた。
鎮圧は一瞬。
その時、アマーリは運命に出会った。
鎮圧自体は一瞬だったが、真っ直ぐに第一王子を狙った凶刃。それからアマーリを守ったのがエモリー。凶刃はエモリーが被っていた兜を弾き飛ばした。凶刃の主はその隙に意識を刈り取られていたのだが、兜を飛ばされる隙があった、とエモリーはエレンにこってり絞られた苦い記憶。
普段、近衛騎士は兜と鎧のせいでほとんど顔も性別も不明。有名人であるエレン以外は、全員体格が良い、くらいしか認識されていない。国王の側に控え、一言も発せず、必要なとき以外は彫刻のように動かない。身じろぎひとつない。
故に、その時初めてアマーリはエモリーを認識した。そして、運命を悟った。
この国は現在恋愛結婚を推奨している。多少の政略もあるが、それでも恋愛結婚を推奨してなお、揺るぎ無い国力を誇っている。そんなアマーリの婚約者がいない理由。それは、好みの女性がいない、ということであった。
年若い女性から、少々トウが立った女性まで、色々な女性と触れ合わせてなお、アマーリは首を縦に振らなかった。時折騎士の訓練所を眺めては溜息を零す姿に、男色や不能かと噂が立つほどに。
誰も知らなかった彼の好み。
彼がこよなく愛するのは、世紀末的な筋肉だったのだ。
理想の女性は、エモリーの父、レイトン公爵のような女性。
誰が予想できようか。
まるで物語から飛び出したかのような、理想的な王子。その好みが、世紀末的な筋肉を誇り、ごつい顔の女性など。両親たちでさえ、知らなかった。なぜなら、彼は知っていたから。自分の好みが『理想の王子様』ではないことを。だから誰にも言わなかった。それでも信じていたのだ。いつか、自分の理想の女性、運命の女性と出会えることを。
そして、出会った。
飛んだ兜。
シャンデリアの光の中、きらきらと、そこだけが輝いて見えた。
なんて美しい女性なのか。このままファーストダンスに誘いたい。そう思い、行動するより早く、エモリーは飛んだ兜を片手に、気を失った襲撃者を縛り上げ、小脇に抱えて立ち去ってしまった。
運命の女性に抱えられる襲撃者に強い嫉妬心を覚えつつ、ついでに拷問は一番酷い方法で頼もう、と心に決めつつ、父王に尋ねた。あの美しい女神は誰ですか、と。
その時初めて息子の好みを知った国王夫妻は白目を剥きかけたが、アマーリは気づかない。興奮に頬を染め、満面の笑みを浮かべる第一王子の姿に、夜会に参加していた女性の多くがあてられ、気を失った。だがそれも、アマーリの知ったところではない。
そして三年。
エモリーの身辺を調べ――国王直属の近衛騎士な為、殆ど一瞬で終わった――エモリーを認めたがらない者達を黙らせるためにあれやこれやと策をめぐらせ、黙らせ、満を持して今、求婚した、というわけだ。
「ああ、私の運命の人、どうか、イエスと。はい、と言っておくれ」
「「……」」
要約すれば、三年前の夜会で見初めた。身辺調査も済み、反対する貴族もいないので結婚してほしい。ただそれだけの内容を、一時間以上かけて語り、そのうえ、エモリーの美しさについて、を三時間以上語られた二人は、白目を剥きそうになるのを何とかこらえていた。常に国王の側に控えつつ、冷静を保ち、どのような状況でも主人を守るように、と鍛えられた鋼の精神に、今日この日より感謝した日はない。
そっと二人は視線を交わし、一つ頷く。
「殿下、この件に関しましては、私の一存で早々に応えるわけにはまいりません。私は現国王陛下直属の近衛騎士で、この職にある間、結婚ができても子を産むわけにもまいりません」
国王直属の近衛騎士。一騎当千の騎士。たった一人でも失うのは大きな痛手。勿論、子が力を受け継ぐことを期待し、結婚は推奨されているのだが、それは男性騎士にのみ。女性騎士の場合、出産により長期間休暇に入ることは望ましくない。出産育児の間に腕が鈍ることも懸念される。元の力を取り戻すまでにかかる時間と費用を考えると、割に合わないこともある。取り戻せないこともあるからだ。
女性騎士の場合、妊娠すると国王直属の近衛騎士職は辞さねばならなくなる。騎士職を続けるにしても、階級を落とし、騎士隊所属となる。故に、女性の近衛騎士の場合、結婚には国王からの許可が必要となってくる。
エモリーは既に現国王に剣を捧げた騎士だ。その誓いはエモリーの誇りで、人生そのものと言っても過言ではない。
「勿論、貴女がイエスと言ってくれるなら、私の方から陛下にはお話するよ」
相変わらずすりすりなでなでと手を撫でまわしながらも、王子様スマイルを向けるアマーリ。手つきが変態のセクハラのそれで、エモリーもエレンも内心うんざりする。
「殿下が私と兄を勘違いされていないことがわかりましたので、持ち帰り、家族と話し合いをいたしますので、今しばらくお時間をいただけますでしょうか」
「君と君の兄を勘違い? 何故だ? 君の兄君と言えば、氷花の貴公子エリシャ殿だろう? どこをどうしたら君と勘違いするんだい?」
きょとんと瞬く様子に嘘はない。
なるほど、と二人は頷いた。
外交に忙しい第一王子。一年の大半を外国で過ごす彼は、貴族図鑑の内容は頭に入っていても、レイトン公爵家の噂を知らない。
「殿下。我がレイトン家は男女を産み間違った、と揶揄されているのです。その理由が、昔から兄を私だと思い、私を兄だと思う者が多かったからなのです。デビュタント前はとくにそうでした」
「なるほど、貴女は幼い頃から美しかったんだね!」
「「……」」
あ、こいつアホかも、とエモリーとエレンの二人は、目だけで会話する。
「勘違いして求婚する者も多かったので、今回もそれかと思い、不敬は承知の上でお断りさせていただく予定でした。が、違うようですので、今一度家へと持ち帰り、後日正式にお返事させてください」
「そうか! 前向きに検討してくれるんだね!」
そんなことは言っていない。そう出てきそうな言葉を飲み込み、エモリーはそっと手を引き抜こうと動く。
「では、家へ帰らねばならなくなりましたので、失礼いたします」
「そうかい……残念だけど、貴女と結婚するためだからしかたがないね」
色々と言いたい言葉は飲み込み、相変わらずさわさわなでなでする手を、失礼にならない程度に強引に引き抜く。
失礼いたしました、とエレンと共に騎士の礼をし、第一王子の部屋を辞した。
「……何と言いますか、無駄なことにつき合わせてしまい、大変申し訳ありませんでした」
「あらん、いいのよ、エモリーちゃん。エモリーちゃんはなぁんにも、悪くないじゃない!……あのクソガキが……エモリーちゃんの良さに気づくなんて迂闊だったわ」
チッと聞こえてきた舌打ち。
ぼそぼそと呟かれた言葉は聞き取れず、首を傾げるが、エレンはにっこりと微笑む。
「じゃ、帰りましょうか。陛下に報告して、一度お家に帰りなさい。そうそう、エモリーちゃんが断っても大丈夫なように、陛下にはちゃぁんとお話ししておくから、安心して家族会議してちょうだい」
おほほ、と笑う声が低い。
ごきゃ、ぼきゃ、と手の骨が鳴っている。
お話合いというよりも、肉体言語のようだ、と思うが、まさか主である陛下相手にそのようなことはないだろう、と頭を振る。そのまさか、が行われるとは知らずに。
エモリーは知らない。というか、多くの貴族が知らない。
エモリーの上司であるエレンが、実は現国王の王弟だということを。エレンが名乗るマグリットという姓は、前王妃、皇太后の姓である。
一応、王弟は第一王子の誕生後、継承権を放棄し、一代限りの爵位を得、国王のために働いている、ということは誰もが知っている。しかし残念なことに、どこで、何をしているのかは知られていない。国王夫妻、エレン、宰相の全員が口をつぐみ、きっちり隠している。
エレンはエモリーに一目惚れし、傍に置くためにあの地獄の特訓をつけた。それで実力がついたので、エレン的に万々歳。部下にし、丁寧に懐柔している真っ最中。後から現れた甥に手を出され、怒り心頭なのだ。哀れ、国王。エモリーの事を教えた罪で、明日は見えないところが青あざだらけになることが決定した。
自分に異性が興味を示すなど、露ほども思っていないエモリー。この後、第一王子と王弟が自分を取り合うなど、知る由もない。
某世紀末なお話が好きです。
個人的にはハ〇ト様みたいな見た目も好きなのですが、今回はラ〇ウ様イメージです。
いつかハ〇ト様のような見た目の方のお話も書いてみたい。