表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花鳥風月  作者: 三千
9/28

早暁

「くっそ、身体のあちこちが痛ってー」


ポッドの内側についている手すりを頼りに、なんとか起き上がった。ギシギシと軋む身体のあちこちを感じながら、ポッドから降りる。


何かの警告音が頭に響いていた気がしたが、今はそれどころではない。


相賀あいが つきは身体をふらふらとさせながら、他のポッドに手を掛け手を掛け、先に進んでいく。


ガンガンする頭。それに耐えるのは、偏頭痛持ちの宿命だ。


「あー、俺一体、何年寝たんだ?」


「こんな強制的に起こされるなんて、聞いてなくない?」


背後で声がして、ツキは振り返った。


「おおおっす、フウ。元気だったか? 久しぶりだな。ってか、久しぶりのはずだよな?」


ポッドに肘を掛けて寄り掛かりながら、ツキは片手を気だるそうに上げた。


「……うん、久しぶり」


もじっとフウは両方のつま先を握ったのか、靴の先が膨らんだのが見えた。


「俺ら、何年寝てたの?」


「よくわかんない」


「え、管理人いるだろう?」


「だって、不細工すぎて、話したくないんだもん。だから、なんにも聞いてない」


「はあ? なんだそれ」


ツキは、ぶらぶらとさせていた右手で、前髪を掻き上げた。


「とにかく、頭が割れるくらい痛い。なんか、薬持ってねえ?」


「も、貰ってくるっ」


急いで踵を返すと、フウは走り出した。白いポッドをくねくねと避けながら、中央を走る廊下へと向かう。すぐに見えなくなったその後ろ姿を目で追うのをやめ、ツキはその場に座り込んだ。


「はああ、今からこんな疲れてて、俺、どーすんだ。これからが仕事だっつーのに」


痛みを我慢するために目を瞑り、フウが頭痛薬を持ってくるのを、いつまでも待った。


✳︎✳︎✳︎


「お前なあ、彼氏とか連れてくんなよな。空気読めよ」


「タクトだって彼女いんじゃん。まあ、寝てちゃしょーがないけど」


「忍さんは彼女じゃねえって何度言ったら……ったくムカつく女だなあ」


「ははん、あんたこそ寂しい男だね……っと、ハルちゃんがいるから、寂しくはないのかー」


嫌みたらしいフウの言い方にブチ切れそうになりながら、タクトはランチにとチンしたピラフが乗ったスプーンを口に突っ込んだ。


「フウ、零すなよ。口についてるぞ」


ツキが、フウにティッシュを差し出す。


「あ、ごめん、ありがと」


差し出されたティッシュを受け取ると、慌てて口元を拭う。


「彼氏と俺に対する、この温度差っていったらねえ」


「そんなの当たり前でしょっ」


「お前のそのツンデレも気に食わんっ」


タクトは咥えていた空のスプーンを口から引っこ抜くと、フウに向かってビッと指した。


その二人の様子を見て、ツキが右の口角を上げてニヤと笑う。


「なんだかんだ、仲良いな、お前ら」


「なっ‼︎ そんなんじゃないもん」


「お前ら、って……ツキは幾つなんだよ、俺はもう28だぞ。お前の方が断然年下だろ。敬語くらい使えよ」


「俺は多分、ハタチくらいだ。その年齢くらいに、あのポッドに入れられたからな」


「ツキは本当は、入りたくなかったんだよね」


「まあなー。俺が管理人をやりたいくらいだった」


「どうして、二人とも、コールドスリープから起きたんだ?」


タクトの疑問に、皆が沈黙する。


「…………」


「……起きたっていうか、起こされたんだろ」


「まあ、目覚まし時計がセットされてたからなあ」


その後、タクトとハルが二人のポッドの内部を調べると、すぐに他のポッドとの違いを見つけることとなった。


目覚まし時計。


「アナログなのかデジタルなのか、いまいちわかんねえー」


時計の設定は、全人類のコールドスリープ完了の数年後、緩やかに『解凍』されるようになっており、目覚めの時がこの如月の月。


この惑星リアキアに四季はない。朝夕はあるが寒暖差が激しく、朝の数時間のみ外へ出ることができる。 そして空気は濃くなったり薄くなったり、日にちや場所によって変わるので、散歩に出ることもままならない。


それを防ぐマスクやスーツはあるが、タクトは面倒なので、会社と会社の寮からは出ないようにしていた。


ただ時々、ベランダに出て朝日を眺めることがある。


「おまえらの目が覚めたのは、それが朝だったから、みたいな?」


呟くとフウは、バカじゃないのと言って、隣の部屋へと行ってしまった。


「夜明け、か。案外そうなのかもな」


ツキはそう呟くと、そのまま部屋に残ってキッチンへと立つと、食べ終わった皿を洗い始めた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ