遺伝
「なあ、ハル。フウのやつ、どこ行ったんだ?」
女子高生は、葛城 風と名乗った。
「タクトのへやはきにいらなかったようですね」
相変わらず今日も、タクトとハルは、手を止めずに作業を続けている。新しいチップは無限に造られていて、底を尽きることはない。ポッドの数と同じ数のはずだが、どちゃっと無造作に入れられていて山盛りのチップを見ると、途端にやる気が失せるので、タクトはハルの手元を見ないように努力していた。
「家出か? やることは立派な女子高生だな」
「もくてきがあるようです……タクトはかのじょになにもきいていないのですか?」
ガシャガシャと、ペン型の取り付け棒でチップを基盤にくっつける。
「聞いてねえ。だって、あいつあんま喋んないし。俺、嫌われてんのかもな。ブサイクだし」
「…………」
「おい、なんか言えよ」
「タクトは、ブサイクではありません」
「……取ってつけたように言うし」
「いえ、しんじつです。いでんてきに、ブサイクであるはずがないのです」
「そ、そうかな」
「そうですよ。せかいてきにもゆうめいなモデルだったリアーヌ=シュラン=ハヤテが、ははおやですよ。それで、ブサイクということはないでしょう」
「適当なこと言うなあ。親父がブサイクだったら、どうなるのかわかんねえだろ?」
「おとこのこは、ははおやににるといいます」
「根拠のない言い伝え的な」
「ちちおやのことはおぼえていませんか?」
タクトは作業の手を休め、ハルを見た。
「小さい頃に死んじまったから、覚えてねえよ」
「では、ははおやのいでんということにしておきましょう」
タクトがいつもこうしてハルと話す時間を大切にしているのは、自分の精神を保つという理由もあるのだが、AIであるハルの学習能力を伸ばすためでもあった。
けれど、そう言うとハルは決まって、「よけなおせわです」と言う。
どうやら、タクトとの会話はあまり役には立っていないのは真実のようだ。ハルは時々、大昔に流行ったインターネットの残骸へと潜りにいく。
「……家出娘をどうしていいやら」
はあっと大きな溜め息をつくと、タクトは止めていた手を動かし始めた。