黒髪
「それでいったい、げんいんはなんですか?」
ハルが移動しながら訊いてくるが、現時点では女子高生が勝手に目覚めたという事実しか、わかってはいない。
「知らんよ、俺だって、何が何だか……」
タクトもその横を同じような速度で走る。モーター付きのハルは、タクトの腰高ほどの大きさだ。ウィーンと唸り声をあげて、隣を並走する。
広大なドームの中に置かれた白いポッドを左右に見ながら、時々つまずきながら走る。
「F–35エリアだろ」
「もうすぐです」
ハルのロボットとは言っても、その丸いフォルム。
(……まるっこいなあ)
そう言うと、ハルがなぜか怒るので口に出しては言わないが、その丸みのあるボディに愛着すら感じている。
「タクト、よそみしていないで、ちゃんとげんいんをかんがえてください」
「考えろって言っても、どうしていいかわかんねえよ」
今回の女子高生の件では、タクトがどう頭をひねってもその原因は掴めない。
「お前が良い案出してこいよ」
「まるなげはやめてください。わたしはただのパートナーですから」
「いやいや、頭にパソコンついてるだろ」
F地区へと足を踏み入れ、タクトは歩調を緩くしていった。
「35、35、と。ここら辺だな」
白いポッドだらけのフィールドを、キョロキョロと見回しながら長い廊下を歩く。ハルがそれに習って、後ろからついてくる。
すると、すぐにドアが跳ね上がっている一台のポッドが目に飛び込んできた。
「……あれかっ‼︎」
廊下の手摺から、ひらりとフィールドに飛び降りると、タクトはポッドを避けながら、走り寄った。中を覗き込む。
「誰もいないぞっ」
大声を出して振り返ると、廊下にいるハルの隣に、一人の女が立っている。
「おわ、」
タクトが驚きながらも女を見る。女もタクトを、じっと見つめてくる。
「……東洋人、黒髪、ブラックアイ、女……本当に十六歳なのか? 本当に女子高生?」
女をそう形容し、タクトは呟いた。
「なんだありゃ……」
そして、手を握り込んだ。