表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花鳥風月  作者: 三千
28/28

相思相愛


「『これからだって幸せだよ』……だなんて、無責任なこと言っちまったかなあ」


苦味がせり上がってきて、タクトは持っていたコーヒー缶をぐいっとあおった。


「けどなあ……」


見ちまったからな、『花鳥風月』を。


そして、自分も思ってしまった。


愛し合いたい、と。





「お前らも、ちゃあんと起こしてやるからな」


プログラムを正常に発動させれば、ほぼ一年ほどで最後のグループまで完全に目覚めるはずだ。


(忍さんが目覚める時……その時、俺は一体どうするんだろうな)


漠然とした不安に、襲われそうになる。タクトは慌てて顔を横に振った。


「そんなことより、リアキア再生計画だ……」


気合いを入れて、ハルのプログラムに沿って、追加のプログラミングをこなす。


斜め後ろで見ていたハルが、大丈夫ですか? と問う。


「さっきから挙動不審ですね。でも気持ちはわかります。人類全員を起こすんですものね。それにしても『花鳥風月』まで起こしちゃっていいんですか?」


「なんか心配事でもある?」


「はい、またみんなを眠らせちゃうかも」


「あはは、それはないんじゃねえかな。あいつらも、わかってると思うよ」


「人はひとりじゃ生きられないってことを?」


「そうそう」


「タクトもそう思いますか?」


「ああ。そうだな、……そう思うよ」


はあああ、と盛大に息を吐きながら、タクトは両腕を天に突き上げ、伸びをした。


「……いい加減、俺も諦めねえとな」


ハルが、目の前にあるモニターを凝視している。


「忍さんを、ですか?」


「まあね」


「私がこんなことを言うのもあれなんですけど、諦めちゃっていいんですか?」


「ははは、そうだな」


「…………」


「……もう十分だ」


まとめ上げた髪を揺らしながら、ハルがタクトを見る。タクトは薄っすらと笑みを浮かべながら、そして言った。


「もう十分なんだ。十分、愛した……ってな」


タクトのはははと照れた顔。キーボードから離した手で、恥ずかしそうに頭を掻いた。


そして、モニターを見る。モニターには数え切れないほどの数字がびっしりと並んでいる。


数字の、カウントが始まった。一度始まれば、あっという間にその数字は時を刻んでいく。


このコントロール室からは実際目で確認はできないが、その数字と連動したポッドが、ひとつひとつ眠りから覚め、息を吹き返していくだろう。


モニターの様子をじっと見ていたタクトは、ははっと声を上げて笑うと。


ハルへと顔を向けて、さらに笑った。


「はは、だからさ、今度は愛されたいんだ」


「……タクト」


「何人もの中のひとりじゃなく、……俺だけを、な」


「……知ってたんですか? 忍さんの本性……」


「本性てっ‼︎ 言い方っ‼︎ ……まあなあ、男性社員の間でも、男グセの悪さ、有名だったから」


「そうだったんですね」


「……なあ、ハル。やっぱり、津田さんって呼んでいい?」


ハルは、くしゃっと顔を歪めて笑う。


「……良いです、よ」


その答えを聞いたタクトは、キーボードに置いた手の、指先に力を込めて、二つの英単語をゆっくりと打ち込んでいく。


すると。


「タクト、やっぱり津田さんではなく、朋花ちゃんって呼んでください」


ハルがにこっと笑いかけてくる。


タクトは途端に顔をほんのり赤く染めると、


「いやいやいや、それはハードル高えー」


と、笑った。




『mission complete』




✳︎✳︎✳︎


「なあ、おっさん、その話まじ?」


「ツキ、お前、相変わらず口わりいー。おっさんってなんだ、俺はまだそんな歳じゃねえ。タクトさんと呼べ」


「あんたのママが、あのモデルのリアーヌ=シュラン=ハヤテとはなあ」


「おい、ガン無視か」


「遺伝って、恐えぇ」


「…………」


「んで、その超絶美人のママさん、サーフェイスの会長にモーレツアタック受けてたんだろ?」


「モーレツて⁉︎ 古っっっ。まあ、俺のかあちゃんは、このコールドスリープ計画よりずっと前に、死んじゃってるからなあ。そうは言っても、他にも好きな女いたんじゃねえの、あのタヌキおやじ」


「そのタヌキおやじにな。タクト、あんたの面倒をみてやってくれって言われてるんだ」


「はあああぁ???? 何言ってんだ、そりゃこっちのセリフだっつーの」


「あんたの面倒を見るってことは、このリアキアの面倒を見るってことだろ」


「そりゃそーだ。俺がこの政府機関『環境保全委員会』略して『惑星リアキアを住み良くしていこうの会』の責任者だからな。ばんばん仕事させるからな、ツキ、覚えておけよ」


「略してねえし。でもまあ今度の出張、フウも連れていくからな」


「おいー⁉︎ これは仕事だぞ。お前らのいちゃいちゃ旅行じゃ経費が出ねえだろ」


「そこ、なんとかしろよ、おっさん」


「タクトさんと呼べ」


「フウと一緒じゃないと、仕事しない」


「わ、わかったわかった。フウも助手ってことで連れて行ってもいい」


「じゃあ、フウの分の出張の申請書、朋花さんに渡しといて」


「おい、そこは津田さんと呼べ」


「いいご身分だなあ、お偉いタクトさんは。秘書なんかつけてもらってよ」


「まあな、もっと羨ましがれろ」


「ぶは、おっさん、ダサ」


「それより『花鳥風月』揃って呼んでくれ。二日後にでかい仕事が待ってんぞ」


「わかった」


「頼んだぞー」


「ああ、俺たちに任せてくれよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ