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花鳥風月  作者: 三千
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永遠


惑星リアキアが再生していく。


ツキによって、引力が生まれ、潮の満ち引きに沿って、生命が育まれる。

フウによって、淀んだ空気が清浄化され、風通しの良い環境になる。

トリによって、小動物や鳥類が創られ、そしてその動物たちは生命力に満ちている。

ハナによって、植物が育ち、それによって空気も保たれる。


その力は少しずつ広がり、循環し、生長する。


ほどほどに整えてやれば、環境というものはほどよく保つことができる、それを目の当たりにしたものだ。


(ほえー、えらい変わったなあ)


環境を整えるまでに、半年もかからなかった。


(すごい力だ)


なぜ、こんな力を有した四人なのだろうか。


タクトは疑問に思った。


「だからさあ、あの四人何であんな力があるの?」


声をひそめて訊く。


「そこまでは、しりょうにありません」


ハルのそっけない言葉。


「そうなの⁉︎ そこが一番重要なのにかっ」


「ないものはしかたがありません」


「あっそ」


タクトがプイッと顔を戻して、作業に戻る。古いチップを取って、新しいチップを取り付ける。その繰り返しだ。


「しのぶさんまでは、まだまだですね」


ハルは新しいプラスチック入りのチップを取り上げた。


「……そうだな」


忍さんのポッドの順番が回ってきた時、自分はどうするだろう。会社の受付で忍の笑顔を見てから、随分と長い年月が経過している。その間に自問自答を繰り返してはきたが、まだ答えは出ない。


(俺はまだ、忍さんを好きなんだろうか)


永遠のような時間の中で、それすら疑うような危いもの。


悲しくなった。悲しくて、仕方がなくなってしまった。


自分の永遠と、忍の永遠。確かだったものが、不確かになるはざまの恐怖。


「タクト、つぎにすすんでもいいですか?」


ハルが、後ろからパネルのボルトを差し出してくる。


「ああ、いいよ」


それを受け取ると、ボルトを穴に差し入れて回す。


(ハルの永遠は……いつ終わりを迎えるのだろう)


その日は一日中、物悲しい気持ちで作業を進めた。


✳︎✳︎✳︎


「考えてなかったんだけど、リアキア再生計画、いつ終わるの?」


「タクト、あんた色々とユルいな」


ツキに(正確にはツキに付属してくるフウに、だ)問うとケンカになるため、トリに訊いた。けれど、予想通りのいつもの気だるそうな返事。


「終わりなんて決まってない」


「でも再生が完了したら、みんなを起こしていいんだろ?」


トリと目が合う。トリが唇を引き結んだのがわかった。


すると、トリ以外の三人も、タクトをゆるりと見た。


「……それは、どうだろうな」


ツキは言葉を選ぶようにして、ゆっくりと話し始めた。


「……人類を目覚めさせて、元のような生活を始めりゃあ、結果また同じ末路が待っているんじゃねえの」


「っじゃあ、このまま永遠に冷凍保存ってわけか⁉︎」


タクトは予想外の返事に、動揺を隠せなかった。『リアキア再生計画』には、人類の未来を託していると思い込んでいたからだ。


「俺らが人口を増やせばいいだろ」


タクトは慌てて、「おい、問題発言やめろ」


「花鳥風月は一応ペアになってんのー。けどそうなると、タクトがひとりぼっちだあー」


ハナの言い方が鼻について、タクトは舌打ちしたい気持ちになった。


「……いいよ、俺は一生独身で」


「寂しー」


「…………」


年齢が離れているからだろうか、交わす会話が思うように丸く収まらない。


(ジェネレーションギャップってやつか? それにしても、なんだろう。四人とも、性格がストレート過ぎるだろ。ちょっとはオブラートに包めっての)


若者四人は自分のことをおじさんくさいと評している。フウなんかは、それを面と向かって言ってくるので、正直ムカついてはいる。


けれど、祖母によって育てられたタクトは、自分でも自分自身のことを物の見方や捉え方が少々古臭いかも、とは思っていた。


例えば、この四人が指にしている指輪。


「あ、ちょっとおー」


タクトは、ハナの腕を掴んで、指にはめられているリングを見た。シルバーのシンプルなものだが、幅があってオシャレでつけるものとはデザイン的にもずれている。


若者の間では、こういうシンプルなリングが普通なのか?とは思うが、タクトにはどうしてもそれが軍の認識票のように見えて仕方がない。


それを「花鳥風月」は、いつの時にも決して外さないのだ。


右手の中指。


(……仲良しこよしなことだな)


掴んでいたハナの手首を離すと、ツキの視線に気がついた。タクトはその視線に自分の視線をわざとぶつけてそのままじっと見ていると、ツキが先に視線を折った。


「なんかほんと、うさんくせえ」


小さく呟くと同時に、ツキが部屋を出ていった。

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