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花鳥風月  作者: 三千
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目的

「どーいうことだー、ハル‼︎」


タクトはハルの両肩に手を置くと、ゆさゆさと前後に揺らした。いや、正確に言うと、ロボットの身体はそうは簡単には揺れないので、実際は「揺らした」というタクトの感覚だけなのだが。


「せつめいしますから、ちょっとおちついてください」


「揺らされた」という感覚すらないハルから、ウィーンウィーンと何やら考え中の音がする。


目の前にあるモニターの電源が入る。


『リアキア再生計画 概要』


「はっ?」


タクトは目を疑った。寝耳に水ということわざが、頭の中にぽんっと湧いた。


二の句が継げない。タクトは固まったまま、イスにどさっと座った。ギッと音がして、背もたれがしなる。


「サーフェイスしゃの、ほんらいのもくてきです。すこしまえにこのけいかくはつあんしょをみつけました」


「え、俺の会社? そんな会社じゃねえだろ?」


「タクトはぎじゅつしょくでしたから、あまりせってんはありませんでしたね」


「いやいや、そうだとしても薄っすらとでもわかるはずだろ? こんなことやってちゃ」


「ごくひでしたから」


「リアキアの自然治癒を待つんだとばかり……依頼者は誰なんだ? 政府か?」


「ちがいます。サーフェイスしゃのどくだんです」


「けど、このコールドスリープ計画は、政府からの要請だろ?」


「そうです」


「じゃあ、同時進行でこの計画を進めてたってことか?」


「そんなところです。『リアキアさいせいけいかく』は、かいちょうのしじです」


「会長? あんの狸親父め」


タクトは、この会社に入社した時と管理人に志願した時の、二度だけ顔を合わせたサーフェイス社会長のユアン=トラベーズを思い出した。


「本当にこの仕事を受けてくれるのかな?」


物腰の柔らかい、けれど貫禄のある男だった。


「はい、まあ」


その貫禄に気圧されて、タクトはちゃんと心に決めてきたのにな、と苦く思った記憶がある。


「人類の救世主と言えば聞こえはいいが、ただの貧乏くじとも言える」


「…………」


タクトが黙っていると、ユアン会長は目を細めてから言葉を続けた。


「皆が起きる頃、君はもうおじいさんだよ。つまらない人生を送ることになる」


「家族もいないし、もともとつまらない人生ですよ」


「恋人もいないね」


「ははは、まあそうですね」


頭を掻く。


「でも、好きな人はいる」


「ええ、まあ」


「その人と生きたいとは思わない?」


会長の言葉のどこかに引っかかりを感じた。サービスカウンターの忍を思い浮かべた。


「そこまで好きってわけじゃ……」


恋愛に疎いタクトにとって、ただ好感が持てるというだけで、心から欲しているわけではなかった。その想いが、正直に口に出てしまった形だ。


「そうなんだね。じゃあ、それは本当の恋ではないのだろうね」


「本当の恋って、どんなんですかね?」


会長は笑って、言った。


「本当にすまないとは思うが、私にはわかっている。本当の恋というものがどんなものかね」


そして、タクトはコールドスリープ計画の管理人となった。


「あんなこと言ってたし、会長にはそれこそ大事な恋人がいるんだろうなとは思っていたんだけど……その結果がこれか?」


大切な人を守るための、『リアキア再生計画』。


コールドスリープ計画とは、人々をコールドスリープによって眠らせておき、惑星リアキアの自浄能力によって環境が浄化されてから、人々を目覚めさせるという単純明快な計画だ。


環境が浄化されるのに、何十年何百年かかるのかはわかっていない。けれど、いつかは大気も安定し、綺麗な空気になり、そして綺麗な水、美しい植物、かつての地球のような環境に戻るということは、研究に研究を重ねた末に、当たりをつけることができたのだ。


要は、人間が生を営まなければ、汚くもならないし破壊もされない、ということ。


「でも、会長はそれを良しとしなかったんだろうな」


「きっと、はやくにそのこいびとにあいたかったのでしょうね」


「そーいうもんかねー」


棒読みのように言うタクトに向かって、ハルは言った。


「そんなわけで、あとふたり、めざめます」


「えっ、まだいんのかよっ」


「けいかくでは、ハナとトリがあといっかげつごにめざめます」


「もう女子高生は勘弁してくれよー。それにしてもなんなんだよ、その時間差は?」


「こんどフウとツキに、どうこうしてください。ふたりについていけば、そのりゆうがわかりますよ」


ハルが珍しく勿体ぶって言うので、タクトはもやもやとした気持ちを持たされて、不服に思った。

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