覚醒
ビーッビーッビーッ。
耳をつんざくように鳴り響く、警告音。
一年に一回、鳴るか鳴らないかの。壊れてるんじゃないかと疑ってやまない警報装置。
それが今日、鳴った。
回転椅子の背もたれに深くもたれかかり、うとうとと舟を漕いでいた男、颯タクト(はやて たくと)は、砂浜に打ち上げられた魚のように、身体をビクビクッと二度、揺らしてから飛び起きた。
「なんだよもお……」
年中ボサボサの、癖のある頭を引っ掻き回しながら、ショボショボとしてまだはっきりしない目で、モニターを凝視する。
「んー……っと。おやあ、誰か起きようとしてんのか?」
タクトはよいしょと立ち上がると、システムの端末が置いてある管理室へ、覚束ない足取りでよろよろと走った。
「ちょっと待て。あー、寝起きは頭が働かねえ」
管理室の中へ入ると、目に飛び込んできたのは、『warning』。これでもかというくらいに大きく表示されている。
赤字で縁取られたその文字の、かなりの緊急色がタクトを焦らせる。
「あー、待て待て。悪夢でも見ちゃったのかあ?」
端末を叩いて調べると、たくさんのリストの中から調査票がピックアップされてきた。背後にあるイスにそろっと尻を乗せながら、タクトはキーボードを叩き回した。
「えっとお……大人しく、おねんねしねえのは誰だあ? ……これか⁉︎ 東洋人、黒髪、ブラックアイ……おん、女っ‼︎」
いつもの癖もあり、『女』の部分で声のテンションが上がる。
「ちょい待ち……十六歳……はあっ⁉︎ 女子高生だとっっ」
さらに上がっていくテンションを落ち着けるため、側に書類としてプリントアウトしファイリングしてあるポッドの修復履歴を確認する。
それを見て、タクトは顔を青くした。
「おい、……こりゃマズいぞ」
端末のキーボードを素早く叩く。
「ウソだろ、この前修理したばかりの地区だ」
警告音は続く。そのあまりの大音量が、ちょっとしたパニックを引き連れてくる。
タクトは、ここへきてようやく、その音が耳の中の鼓膜をビビビッと振動させていることに気づいた。少しの痛みと不快感。それでもそんなことに構っていられない事態なのだ。
「くそっ、俺、なんかミスしちまったのか? ……待てよ、まだだっ、まだ起きるなっ」
予備の凍結装置を動かす設定をマニュアル通りに進めていく。
「もう少し眠っててくれねえと、こっちが困るんだよ」
ダカダカと忙しなく、キーボードに指を打ちつける。最後にエンターキーをタンッと叩くと、タクトは息をついた。
「はああああ。よっしっ、と。これで、間に合っただろ」
予備のモーターが回り、半解凍の女子高生はすでに再凍結されているはずだ。
アラームが突然、鳴り止む。間に合ったか、とタクトがほっと胸を撫で下ろした瞬間。
さらに甲高い警告音が鳴り響いた。
ビーーーッと、長く続く音。
「うそ、……だろ、おい」
今度は急いでシャットダウンの手続きを進めていく。じわりと嫌な汗が、額に滲み出る。
「……やめてくれ、シャレに、なんないぞ」
モニターには。
『Awake』の文字。
「……ハル、」
タクトは、そろりと声を上げた。側にハルの気配はない。
けれど、タクトはどうしていいのかわからず混乱しながら、相棒であるハルの名を呼んだ。
「ハルっ‼︎ 大変だっ‼︎ 女子高生が起きちまったぞっっっ」
タクトは、モニターをバシンと叩くと、管理室を慌てて飛び出した。