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勇者の初期装備は3D  作者: 無捻無双
2 戦士起つ。(偽装)
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2-41 工事で壊せない壁

 ゴーレム馬に直接騎乗する場合、背面上部にあるハンドル的なものを使って操作する。感覚的にはバイクの運転に近いか。

どういう仕組みかは分からないが、この首無しの馬は地面の状況を自分で判断して適切に走ってくれるので、高低差などが激しい悪路でも多少揺れるが問題ない。高い踏破性能を備えていることは、車両にはない利点だろう。

そして生きてる馬とは違って疲労しないのも便利だ。長期間乗っていればメンテナンスなりが必要になってくるとは思うが。

乗用馬なら[回復]が使えるとはいえ、餌を与えて水を飲ませたりする必要もあるところで、その点でも手間いらず。

地球で長距離走が最も速い生物は人間だったらしいが、ゴーレム馬の巡航速度はそれを軽く上回る。もちろん成長による身体能力の向上及び[加速]を加味した上でだ。

この二台だけで乗用馬が軽く五頭は買えてしまうが、決して高い買い物ではなかったと言えるだろう。

とりわけカイン的に嬉しかったのは、荷物を持つ必要がなくなったことだ。今まで身体能力に任せて結構な量を常に運んでいたが、その必要もなくなると非常に楽である。

荷物持ちも体力作りの一環になっていたので、決して無駄ではなかったと思うが、慣れてしまえばもうゴーレム馬なしではいられなくなる気はした。




 堕落を実感しつつもゴーレム馬購入の翌日から狩りを再開。半日と掛からずロンリーウルフの森に着けてしまうのだから、やはり購入は正解だ。

ゴーレム馬に乗ったまま森を行けば、今まで引っ掛からなかった枝が邪魔になったりはするが、足元は気にしなくていいので自分で歩かない分は楽になっている。


「……馬じゃこの辺までだな。」


ただし一匹狼に接近する際は、騎乗したままでは二百メートル程度までが限界だ。それ以上は足音の大きさでバレてしまう。最終的には歩きでこっそり行くのだし、そこまで行けるだけでも御の字か。

そして今回は接近するための工夫をひとつ用意してきた。目だけ出してすっぽりと身体を覆える迷彩柄のマントだ。マントには細かく切れ込みが入っており、そこに草や葉を挟み込んでカモフラージュ能力を高められるようになっている。

ギリースーツほど上等ではないが、これのおかげで最後の二十メートルを詰めるのがかなり楽になった。少々暑いのが欠点か。

これで透明化の魔法を使う機会をかなり減らせたので、より難しい条件の時には躊躇いなく使える。より安全に効率の向上が図れた。

そうして狩りの初日から順調に奴隷二人が成長を果たし、数日が過ぎた頃には


「本当に上がらんな……これが十五の壁、か。」


その成長が止まっていた。

十五回目の成長には壁があるのだという。今までのペースに比べて明らかに成長に必要な魔素の量が莫大になる。何故そうなるのかは不明だが、一説には人間としての生物の限界を超えるからではないかとされている。

魔素による成長を全く経なくとも、人間は鍛錬によって身体能力を伸ばすことは可能だ。戦士などで言えば、その限界を超えた文字通りの超人的能力を得られるのが、十五回目なのだとか。

試しにちょっと走り幅跳びをしてみたところ、軽く八メートルぐらいを跳ぶことに成功。全力でやれば十メートル超えも狙えそうだった。

地球だと走り幅跳びは九メートル前後が世界記録だった覚えがあるので、それから考えると確かに十四回の成長でトップアスリート級の身体能力を得ているのだろう。世界記録超えはこの世界での運動で鍛えた分があるからか。

これからは一度の成長に対しての必要魔素量と共に、能力の上昇幅も大きくなるらしいが、特に十五回目はそれ以降に比べても多量の魔素が必要となる。一般的な冒険者が安全にその量を稼ごうとすれば、数年単位での狩りが必要になるのだという。

故に「壁」なのだ。これを突破できないままでいる冒険者は決して少なくない。

特に帝国冒険者ギルドでは三級の昇格条件のひとつにもなっているため、尚の事その意味合いは強かった。


「ご主人様ならすぐですよ。」

「明らかに異常なペースで上がってますからね……マスターならこれが当然なのでしょうけど。」


最近の急激な成長ペースに対する所感はネルフィアには『当然』だが、メルーミィは『納得』と『戦慄』が半々という感じか。

もちろんこれだけの効率は勇者パワーあってこそだが、少なからず知恵と工夫を凝らしていることも忘れないで欲しいものだ。

それに勇者でも一人ではこれだけのことはできない。[冷眠]はもちろんのこと、[回復]も何気に重要である。無防備な相手の首を刎ねるだけの簡単なお仕事とはいえ、毎回全身全霊を振り絞って大剣を振り下ろすのは、それなりに骨の折れる仕事であった。

結局、今回の狩りでは壁を乗り越えることなく撤収。

壁の突破までもうちょっと粘ってもよかったが、保存食以外の食材が尽きたので区切りとした。ゴーレム馬を持ってしてもテント泊が必要な距離ではあるが、やはり日帰り可能だと気軽だ。

そろそろ注文品が出来上がる頃だったというのもある。




「来たか、仕上がっとるぞ。」


 今回も控えめな換金を行ったギルドで言付けを聞き、革職人の元に足を運べば硬革の兜を受け取れた。

軽く叩いてみて伝わってくる衝撃、それだけで並の革防具よりも遥かに頑丈なことが分かる。艶のある絶妙な丸みは攻撃を滑らせ、並の斬撃や刺突から致命傷を防いでくれるに違いない。

サイズを測って誂えただけあって装着感もベストフィットだ。流石注文品はモノが違う。

唯一不満点を挙げるとするなら────


「これ塗装はできないんですか?」

「できるが生憎(あいにく)とウチじゃやっとらんの。」


非常に明るい黄色で目立つということか。ゴブリンレザーは鞣すと茶色くなるが、ゴブリンハードレザーは何故か黄色くなってしまう。

最初見た時、その色合いと形状で工事用ヘルメットかと思ってしまったほどだ。前部中央に緑十字が刻印されてたら完璧だった。

塗装に関しては別の職人を紹介してもらい、森で目立たない暗緑色に塗ってもらって事なきを得る。男子的には当初想定していたシュタールヘルム風なミリタリー感が出てお気に入りだ。

女子からは別に好評でもないが、可愛らしいピンクに塗られても目立つだけなので我慢してもらうしかない。

このヘルメットめいた兜の性能を実感したのは、翌日のことである。


「おおッ? ……こりゃ参ったな。」

「ありがとうございました、ご主人様。」『久々にいい一本取れた……。』


休日を利用しギルドの訓練場でネルフィアと手合わせすると、綺麗に一本取られてしまう。最近は身体能力差が顕著になってきたため、手合わせルールでもそうそう負けなくなってきていたのだが、それを覆す一手を打たれた。

頭部に向けての斬撃を、兜の丸みを利用して首の動きだけで逸らされ、そのまま反撃を決められてしまったのである。

これはカインがやるにしても有用な一手であった。頭部は最優先で守るべき急所のひとつであるから、狙われれば盾などを使って防ぐなり、念の為に大きく避けざるを得ない。

それを最小限の首の動きだけで防げるなら、対応の幅も随分と広がろうというものだ。


「うむ、こちらこそありがとう。」


更に成長を重ねればスペック差で勝率はもっと上がるのだろうが、それでもネルフィアから学べることはまだまだ多そうだ。

というか、兜があるからといって自分から頭で剣を受けにいく度胸も含め、依然として技量はネルフィアの方が上なので当然ではあった。

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