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勇者の初期装備は3D  作者: 無捻無双
2 戦士起つ。(偽装)
93/115

2-39 溢れ出る魔素とか感謝とか

 テントで目を覚まし、身体を伸ばす。昨夜は存分にメルーミィたちと心などを重ねられたのもあって、実に快適な目覚めだ。やはりしっかり睡眠を取れると違う。

部隊メンバーが三人になったので、この森に来る途中のテント泊では交代で夜警をしてみたのだが、これは今ひとつな結果に終わった。

睡眠時間は単純に三分の二になるし、寝る直前の運動で力尽きて起きられない、なんてことになってもいけないのでいつもより余計に気を遣う。

おまけに真夜中に降った雨のせいで警報が鳴ってしまい、寝ていたメンバーも叩き起こされてしまったのはなんともタイミングが悪かった。

結局魔物に襲撃されるようなこともなかったのだし、それはそれでいいのだが徒労感は否めない。直ちに影響はなかったものの、おかげで昨日は少々寝不足にもなったし。


(まあ状況次第だよな。)


これからも夜警をするかについてはその場によるが、とりあえず今は不要だろうと判断した。前日までロンリーウルフの縄張りの中心だった場所なら、他の魔物もおいそれとは近付くまい。

直前の運動時間を睡眠に当てればいいのではないかという説もあるが、それはそれで別の不具合を生むだろう。

この世界で生まれ育った奴隷二人は娯楽の少ない暮らしに慣れているが、それでも日々を頑張れるのは潤いがあればこそ。

仕事上がりのキンキンに冷えたビール。人によってはそんなささやかなものが人生のモチベーション足り得るのだ。

そんな感じでこのちょっとした運動は、奴隷たちにとっても間違いなく娯楽のひとつとして受け入れられている面がある。

何より苦痛も弊害もなく生物の三大欲求のひとつを満たそうというのだ。それを全く許容できない者などまずいないし、個人の性質によっては積極的に受け入れさえするだろう。程度の差こそあれ、部隊のメンバーは全員後者と言えるので幸いである。

奴隷たちの生活に責任を持つ主人としては、手を抜けない部分なのだ。

理論武装が完成したところで後はテントの性能を信じるしかない。




 入浴できない環境での清拭魔法の便利さを実感しつつ、今日から本格的な一匹狼狩りの開始だ。それはこっそり近付いて首を落とすだけの簡単なお仕事、とは残念ながらいかない。

探心で発見は容易だし、眠らせてさえしまえば後はどうとでもなる。難しいのは接近してから[冷眠]の射程距離までの最後の二十メートル強を、如何に詰めるかだ。

一匹狼が動かないでいてくれれば楽だが、動き回っていることは普通にあるし、森とはいえ遮蔽物が少ない場所もある。場合によっては正面から戦うよりも時間が掛かることもあった。

透明化の魔法を使うことをメルーミィから提言されたが、使えるタイミングが限られる上に三人に毎回は無理なので、条件的に接近が難しい時だけに使用することにした。

メルーミィのみが透明になって単独で接近し、[冷眠]で眠らせるという策もあったがこれは却下。一匹狼に気付かれれば向こうの方がスピードが速いので、カバーが間に合わない公算が大きいからだ。流石にそのような危険は看過できない。

結局、二日目の狼狩りのスコアは八匹といったところ。

時間を掛けて慎重に接近したので発見されることはなかったが、二回ほど狙いを違えて首を切断できず、戦闘にもつれ込んだ。ただし大剣による一撃は脊髄を損傷させることには成功しており、動きが鈍った狼を危なげなく撃破できたので問題はない。

この日は全員が一度の成長を果たせた。強力な魔物は魔素も相応に豊富であり、三人で取得できるにしては破格の量である。

だが進化種のそれほどではないようにも思える。絆の腕輪で魔素はきっちり三等分されているが、それとは関係なく若干少ないのだ。強さの割に得られるものが大きいという意味でも、並の進化種はおいしい獲物なのだろう。

ちなみに素で強さの割においしい魔物もいるにはいるが、大抵は国や貴族が抱える軍隊などに占有されているものだ。その手の魔物の発生地付近への立ち入りは禁止されており、見つかれば密猟者として処分されるだけである。

どこの世界でも利権を押さえる者こそが社会的強者、ということなのであろう。閑話休題。

十二回目の成長で二人は新たな技能を身に付けたようだ。


「ご主人様、[剛力]を覚えたようです。」


賦活師の[剛力]は、使用した相手の筋力を一時的に増強させる効果がある。増加量五割増しの持続時間三十分は[加速]とほぼ変わらない感じだが、待望の物理攻撃バフである。

今のメンバーでは特に勇者に効果が大きいだろう。実際、[剛力]を得てからは眠り狼の介錯に失敗しなくなったのは確かだ。

おかげで一匹狼狩りでは『[加速]で早く歩くぐらいしか役に立ててないかも』などと気にしていたネルフィアの気持ちを、和らげられたことに胸を撫で下ろす。

昨日はメルーミィばかりを誉めることになったが、ネルフィアとて常に主人の役に立ちたいと想ってくれている。実にありがたい話だ。


「私めは[凍線]を覚えました。」


氷術師の[凍線]は、手からビームが出る。……いや本当に。的確に一言で表現するならそうとしか言えない。

収束した冷凍光線とでも言うべきものが対象にダメージを与えつつ氷結させる技能で、三百メートル程度の長射程と三秒程度の照射を可能とする。

薙ぎ払うような使い方もできなくはないが、一点を照射し続けた方がダメージ・凍結効果共に大きくなるのだという。

今の狩りでは出番があるかは微妙なところだが、手札が増えたことは素直に喜ぶべきだろう。


「うむ、二人ともよくやったぞ。」


二人まとめて抱き締めて惜しみない感謝を伝えよう。

感謝が溢れ過ぎた余り、思わず夜もテントの中でたっぷり感謝を注ぎ込んでしまったが問題はない。ないのだ。

予定していた狩りの最終日となる三日目は、ステルスで接近するノウハウが培われたこともあって二桁を超えるスコアが出たものの、慣れによる油断があったためか一度発見されてしまったのは反省すべき点だ。

一度だけあった直接戦闘でも[剛力]は有効に働き、元より一匹狼に効果の薄い[凍線]は今ひとつというのは予想通り。

行動掌握で一匹狼の爪を見切り、回避しつつ爪とは逆方向に斬撃を置いておくように振ったカウンターで、前足に長い深手を負わせてから仕留めた。

一気に決められないならまず敵の機動力を奪うのはやはり有効な戦術だ。

動きが鈍った後はネルフィアも狼の気を引いて迫り来る牙を回避しつつ、逆に狼の片目を槍で潰したりしていた。


「流石にあの牙に噛まれたらヤバいと思うし、無理はせんでいいぞ?」

「大丈夫です、あれは少し動くだけで避けられますから。お気遣いありがとうございます。」


危険だろうとそれとなく諌めたがスルーされてしまった。

確かに牙はかなりの威力だが、噛み合わされなければならないだけに、爪に比べれば攻撃範囲は狭くはある。まあ今更深くは突っ込むまい。

とりあえず狼の気を引くのは動きが鈍ってからにするように、とだけは言い含めておく。

そして接近時に地味に役立ってるのが、メルーミィの事前集中の特性だ。

隠れて最接近までに集中が完了していれば、一匹狼を射程に収めた時点で[冷眠]の発動が可能であることは、ほんの数秒の差だが割と大きい。接近しないわけにはいかないが、接近すればするほど逆説的に発見される可能性が高まるからだ。手早く済ませられるに越したことはない。

この日は全員がほぼ同時に成長を果たした。これでカインは十四回目、他の二人は十三回目ということになる。

急激な上昇具合だとは思うが、色々とチート(ずる)をしているのだから、これだけの効率が出るのもある意味当然と言えた。

実戦経験的には考えものだとは思うが、上げられる時にがっつりレベルを上げておくのも間違いではないはずだ。

翌日は依頼の薬草を規定量摘み終えてから帰路に着き、翌々日には予定通りケイデンへと帰還した。

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