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勇者の初期装備は3D  作者: 無捻無双
2 戦士起つ。(偽装)
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2-33 負けると普通にゲームオーバーになるタイプのチュートリアル

 襲撃者集団の大半の動きを[寒波]で封じた中、後方で味方を盾にしていたために軽傷で済んだと思われる二人が飛び出してきた。他の連中と同じように覆面で顔を隠しているが、間違いなく新人冒険者の内の二人である。


「くそっ、なんでバレた!?」

「いいから距離潰せっ!」


対術師においてとにかく接近するのは基本戦術である。

術師の強みは相手との距離を保ってこそだし、壁役の士職などに接近を阻まれるとしても、そうなれば術師としては味方と近接している分、敵だけを狙い難い。その程度のセオリーは分かっているようだ。


『防げっかよぉ!』


そう考えながら向かってきた男の、手甲に鉤爪を付けた独特な装備には見覚えがある。その技能の多くが掌を露出させる必要がある天職────闘士特有の武器。

探心で思い浮かんだ関連情報によれば、闘士が最初に覚える技能は掌で直に触れた物体に衝撃を伝える[発勁(はっけい)]だ。

この衝撃は内部に浸透する貫通的性質があるため、考えなしに盾や鎧で受けると痛い目を見る。今は普段着で鎧はないが、だからと言ってそのまま喰らえば内臓を破壊されるだけだろうが。

明らかにカインが盾を使うことを見越してのマッチアップであった。それにただでさえ成長で敏捷性が伸び、内臓を直接狙える闘士は対人戦の適性が高い。

もうひとりは青銅製の槍で、ネルフィアが自分の収納袋から取り出した長棒と打ち合わんとしている。


(……これは油断かな?)


戦いが始まってすぐ、集中しながら次の支援攻撃を準備していたメルーミィへ「支援不要」の合図をそれとなく送りながら、そんなことを思ってしまった。

というのも、余りにも力の差が歴然であるからだ。襲撃者の闘士は多少動けるが、その攻撃は盾を使うまでもなく余裕を持って回避できる。単純に成長回数に差があるのと、逃走しながら受けた[堅固]と[加速]がその差を一層広げているのだ。恐らくそれがなくとも探心があるので、まだまだ余裕があっただろう。

一方、ネルフィアの相手は[加速]を得たネルフィアよりも遅い有様であり、技量に関しては比べようもないのでそちらも不安要素はない。


「おらどしたぁ!」

(実戦で試してみるにはちょうどいいか。)


こちらが回避するばかりで反撃しないことを、己が優勢だと勘違いしている闘士を対象に行動掌握のスイッチを入れた。ほぼ常時展開していた全周囲探知が消え、闘士が次にどう動こうとしているかが手に取るように分かるようになる。


(あんまりギリギリでかわすのは危険だな。)


[発勁]はないと分かっている蹴りを盾で防ぎながら考察。

攻撃の軌道は見えてはいるが、実際のそれは多少ブレていた。闘士自身の技量がそこまで高くないために、攻撃には精密性が不足している。

新人枠でゴブリン退治に参加するぐらいだから、それも無理からぬ話ではあったが。

能力が三秒で切れ、五秒のインターバルを守りながら繰り返し発動。実戦試用を継続する。


(しかし速過ぎても駄目、か。)


仰け反って鉤爪を回避。

牽制として闘士に剣を突き付けると、それを回り込んで攻撃を仕掛けてくるのだが、余りに事前に攻撃の軌道上に剣を置いておくと、相手もそれを見て動きを変えてくる。

これは回避にも言えることで、やはり速過ぎては意味がない。相手が対応できる範囲を見極め、その内側まで引きつけてから行う必要があるのだ。


「くそっ……当たりさえ……!」


空振りを繰り返させたために露骨に回転が落ちてきた。

闘士の反射神経の領域を把握し、その内側に踏み込んで間合いを適切に保った結果だ。この程度の相手は完全に余裕を持って対処できるになったと言っていいだろう。


(ネルフィアの方はもう終わりそうだな。)


行動掌握の対象には元より視覚を用いる必要もないので、ネルフィアの様子を普通に見て確認する余裕さえある。

間合いはほぼ互角だが、ネルフィアの攻撃は当たるのに相手の攻撃はまるで当たらないという、一方的な様相を呈していた。

ネルフィアの得物が木の棒なので、相手は致命傷こそ負ってはいないようだが動きは鈍い。顔にも痣が無数に浮かび、かなり打ち据えられたことが見て取れる。

相手が開戦直前には『棒なんかに負けるわけねえわ』という余裕の顔だった覚えがあるが、もはや見る影もない。

相手と同じ得物を持たせていれば、とうに勝負はついていたであろう。相変わらずこの奴隷は盗賊に容赦がなかった。


(そろそろ終わらせるか。)


能力の試しはもう十分だと判断し、本格的に闘士を仕留めに掛かる。

空気が変わったのを感じたのか、闘士も一旦攻撃をやめて構えた。


「うりゃあ!!」


闘士が半身となって腰を落とし呼吸を整え、長い踏み込みから繰り出した渾身の掌底。それは間違いなくこの男が繰り出した中では最高の一撃だった。


「ふッ!」


行動掌握によって完全に捉えたその一撃を、対応できないタイミングで避けながら、伸び切った身体の中心に鋼の剣を突き立てる。


「ぶげっ……!」


革鎧を貫き、心臓に刃が届く。この世界に来てそれなりに人の命を奪ってきたが、この感触にはまだ慣れない。だがこれも必要なことなのだと割り切るぐらいはできる。

そしてネルフィアの方もほぼ同時に決着したようだ。


「お見事です、ご主人様。私の相手にもとどめを刺しましょうか?」

「いや、俺が一人仕留めたし無力化できてればそれでいい。」


なんとなく止めたものの、ネルフィアにボコられた相手は放っておいても死にそうな具合である。まあその時はその時だ。


「他はどうするかな……よしメルーミィ、[冷眠]が効くか試してみてくれ。」

「かしこまりました。」


念の為に[氷弾]の集中を維持していたメルーミィに技能を切り替えさせ、あらためて[冷眠]を発動させる。

新人冒険者二名の他は、それに輪をかけて成長回数の少ないチンピラ揃いのようで、[寒波]のダメージだけでほぼ動けなくなっている有様だったが、這いずって逃げようとしていた数名がすぐに眠りに落ちた。

この手の魔物相手には限定的な状況でしか効かない状態異常も、人間相手には比較的通る。状態異常効果が付与された装備の作成に、一定のランクが必要な理由のひとつだ。


「拘束の手間は省けるな。ネルフィアは衛兵を呼んできてくれ。死人が出たことを伝えるのも忘れないようにな。」

「分かりました、死術師の方をお呼びするのですね。」


ネルフィアが衛兵を呼びに行く間、残りの襲撃者たちを眠らせて完全に無力化した後、武装を解除していく。

武装といっても大したものはそうない。ネルフィアの相手の青銅の槍が一番マシで、他は状態の悪い刃物が何本か。大半は投げるのに手頃な石が何個か転がっているぐらいだ。網や分銅付きの縄を持ってる奴もいたが、投石と併せてあわよくばこちらを拘束するつもりだったのだろう。


(囲まれて石とか投げられまくってたらちょっと危なかったな。)


武装解除しながら襲撃者たちの記憶を探れば、予想と概ね合致する。数的不利もあるし、事前に襲撃が分かっていなければ苦戦は免れなかっただろう。

やはり先手を取れることは重要だ。瞬間的な回復手段がない以上、ダメージはそのまま戦闘力の低下に繋がって不利となる。奇襲を察知できることのイニシアチブの大きさを、あらためて実感せざるを得ない。


(スラムで集めたチンピラと強盗、か。)


新人冒険者の二名がこの計画を主導し、まだ生きてる槍使いの方を記憶を探るに動機は普通に金だ。面白みはないが、盗賊の行動原理にそんなものを求めても仕方あるまい。

先手を取られて[寒波]を食らった時点で逃げ出せばよかったと思うのだが、この二人にはカインがゴブリンロードを討ち取れたのは、まぐれか何かだという甘い想定があったようである。

この二人にとって、ゴブリン退治前半でカインと一緒の組になることがなく、後半のロードとの総力戦でも目の前の小鬼どもを倒すのに必死で、カインの戦い振りを直接目にしなかったことは不幸であった。

欲望は人を発展させるが滅ぼしもする劇薬だな、などと考えていると、ネルフィアと一緒に何人もの人間が近付いてくるのが分かる。ほどなく衛兵たちが現着した。

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