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勇者の初期装備は3D  作者: 無捻無双
2 戦士起つ。(偽装)
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2-29 激戦、第二偽高等女子

 ネルフィアの裁縫の業前は中々のものだ。ちょっとした仕立て直しができるまでになったのは、新しい服が買えなかったから直すしかなかったという切実な理由が存在するが、何も言うまい。

その技術は今は亡き母親から伝授されたものであり、料理の腕がイマイチだった割には、裁縫に関しては結構なものを持っていたらしい。

思い出と共に受け継がれた技は、最近だとメルーミィのメイド服の胸部の仕立て直しに振るわれていた。サイズ的な問題でどうしても存在感は出てしまうが、服自体は自然な仕上がりである。


「そんなに裁縫ができるなら、あの小さい服も仕立て直せばいいんじゃないかな?」

「お気遣いありがとうございます。でもまだ着れますから。」


かつて王国から支給された地味服は、彼女の急激な身体の伸長でパツパツになったものの、未だに繕いながらローテーションで普通に着ていた。

メルーミィの場合は直さないと着れないので直すが、曲がりなりにも着れるようなら直さないという、ネルフィアなりの譲れないラインが存在するようだ。

そんな新しい服に飢えた暮らしを送ってきたからだろうか、数ある日常的なイベントで、安定してネルフィアを喜ばせることができたのは服を買った時だった。何かと彼女に服を買うことが多かったのはそのためである。

なおメルーミィは実用品以外の物を贈られるのを恐れ多く思うので、効果がイマイチだったりするのは余談だ。


「まあそれは好きにしていいや。少し遅いが風呂に行ってから飯にしよう。」

「はい、いつもありがとうございます。」


飲酒後の入浴は危険らしいが、今日は軽めにすればいいだろう。対外的には脚を負傷しているのでそれを理由にしてもいいか。奴隷二人に鎧を脱がせてもらいながら既に[治癒]で完治させてしまったが、偽装工作として適当な布を巻いておく。

出血の痕を見られた時に、奴隷たちに少々気苦労を掛けてしまったのは反省すべき点ではあったが。


「風呂の後はメルーミィのことが色々と楽しみだしな。」

「マスターにご満足いただければよろしいのですが……。」


材料は今日の買い物で揃え、午後を使ってかき氷用のシロップは一応完成したらしい。テーブルの上に置いてある氷室箱に入ってるとのこと。

氷室箱とは要するにクーラーボックスであり、本来は薬草の鮮度を保つためなんかに用いられ、普通にギルド直営店で売っているものだ。氷術師がいれば氷代はタダみたいなものなので購入。何かと便利に使っている。

他に新しく服なんかも買ったようで、入浴後に着替えてお披露目まではお楽しみにとのこと。正直なところ、どんな服を買ったかは探心でネタバレしてしまっているわけだが、まあ楽しみには違いない。


「ふう……。」


軽く汗を流してさっさと蒸し風呂から上がった。多少ふらついたがまあセーフだろう。

女湯の二人を待つ間、買った果実水に氷室箱から取り出した氷を入れ、涼みながら適当に脳内で暇を潰す。


(予め水を汲んでおくって手もあるか……。)


ふと思い付いた。水生成機があるとはいえ即飲めるわけではないし、出したばかりでは冷えてもいない。氷室箱に水袋でも入れておけば、冷えた水をすぐ飲めるのではないか。

水袋は革製のものでもいいし、金属製の水筒なんかでもいいだろう。ゴブリンロードの追撃時にもあれば、一口ぐらいは水が飲めたはずである。普段の狩りでも冷えた水が飲めればこの季節は快適だろう。

難点はその分だけ重量が増すことか。成長による身体能力の向上は、かなりの量の荷物を運ぶことを可能にはしているが、当然限度がある。今はネルフィアにもそれなりに任せられるだろうが、体力はともかく筋力的にはそれほどではないので、余り無理をさせたくないところだ。


(そろそろ上がるようだな。)


とりあえず試してみる価値はあると結論が出た頃、奴隷二人の反応が脱衣所に移動した。分かっているだけに服を着る時間にさえ妙な待ち遠しさがある。

ほどなく女子高生ルックなネルフィアに続き、メルーミィが姿を表した。


「お待たせしましたご主人様。」

「どう、でしょうか……マスター。」

「そうきたか……! うむ、実に素晴らしい。」


驚いた振りをしながらネルフィアとほぼ同じ格好のメルーミィを褒めちぎる。そう、ダブルで湯上がり夏服女子高生ルックなのであった。

違いを挙げるならプリーツスカートがネルフィアは紺単色なのに対し、メルーミィのは灰色チェック柄なこと。リボンも何色か用意しており、今日はそれぞれ赤と青で無難にまとめている。そしてその青で彩られた胸元には圧倒的存在感が。


(うーん、なんということをしてくれたのでしょう。)


ネルフィア()の手で今日の午後に仕立て直されたばかりのシャツは、その下の双丘をしっかりと内包する形になっていた。要はエロゲなどにありがちな乳袋的デザインだが、この手の女性服はこの世界だと割と普通だったりする。

賛否はともかく地球でもこういう服は実在したし、その機能性が受け入れられたのではないか。もちろんカインとしては賛成票を投じざるを得ない。

メルーミィの胸部兵装の破壊力は主人のみならず大いに視線を集めていたが、実際に谷間を放り出しているわけでもないので、これが俺の所有物なのだと自慢したくなる感もちょうどよい。

総じて最高であった。


「ご主人さまにお気に入りいただけたようで何よりです。お好きですものね、これ。」

「……まあ、そうね。」


余りにもメルーミィばかり見ていたので、珍しく嫌味を突かれてしまった。

ネルフィアには手ずから選んで買った上に、あれだけがっついてればとっくにバレバレなのは当然として、それをメルーミィにも勧めたことはいい仕事だと認めざるを得まい。


「二人とも……なんというか本当にありがとう。」

「はい、もったいないお言葉です。」『喜んでもらえてよかった。』

「恐れ入ります……。」『気に入っていただけたようで良かった……。』


思わず三人で頭を下げあってしまった。

内心似たようなことを考えている奴隷たちであるが、実のところ明確な差異が存在する。ネルフィアが主人を喜ばせるのを主目的に置いているのに対し、メルーミィは『マスターに気に入られればもっといいことがある』という、どちらかと言えば利己的な傾向を抱いているのだ。

それも仕方ないのだろう。この関係で心からの愛情を受けるにはどうしたって時間がかかる。さもなくば「親の仇討ちを手伝う」みたいな強烈なイベントでもないと、短期間での関係構築が難しいのは間違いない。

結果的にではあるが主人を喜ばそうと前向きになってくれていることに、今は満足するべきなのだろう。

ということでゴブリン退治で起きたことを話したりしながら適当に夕食を済ませれば、早速「いいこと」を与えねばなるまい。

これは完全に主人の義務。誰になんと言われようと義務なのだ。


「はぁ……やっぱりいいなあ。」


あらためてメルーミィを眺めてみれば思わずため息が漏れる。金髪爆乳エルフ女子高生奴隷などという存在は、それこそフィクションであろう。少なくとも地球にいる頃に実在を信じることなどなかったはずだ。

まあ女子高生要素はコスプレだが、むしろそれを実現できている事実に謎のプレミア感を覚えずにはいられない。


()()が無駄ではないということも、しっかり教え込むからな。」

「お、お手柔らかにお願いします……。」


風呂の前にやることリストにこっそり増やした項目を消化するのは、まさに今この時。

昼に小鬼どもを薙ぎ払った分だけ精神的には昂ぶっている。どうせ何日かは怪我を理由に冒険者稼業を休む予定なのだ。今なら全てのリミッターを解除できる。激戦の予感がしていた。

睡眠を挟んだ翌朝も激戦となったのは言うまでもない。

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