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勇者の初期装備は3D  作者: 無捻無双
2 戦士起つ。(偽装)
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2-27 村程度が救われたであろう戦果

 ゴブリンロードの直接戦闘能力は、あらゆる進化種の中でも最低クラスと言っていい。もちろんそれでもリスクがないわけではないが、リターンは十分に大きいと言える。そんな獲物と一対一になれる機会を逃す手はないだろう。

慎重になるのは重要だが、幸福を掴むためには決して臆病なだけになってはいけない。せいぜい欲に駆られて判断を誤らないようにしたいところだ。

腰のポーチから取り出した煙玉を行く手を阻むゴブリンの群れに叩き付け、撹乱しながら強行突破を図る。小鬼どもの足並みを乱せれば新人連中への援護にもなるはずだ。


(まあそっち行くよな。)


ロードの選んだ逃走経路は枯れ木の立ち並ぶ大きめの林だった。敗戦を受け入れて冷静さを取り戻したその判断は正しい。通常、視界を遮ることは逃走する側に極めて有利に働く。

だが追走する側が半径千メートル以内の生命体を、正確に探知して来ることは想定外であろう。


(よし、足並みが鈍った……。)


ロードは追跡を撒くため、速度よりも痕跡を残さないことを優先したようだ。

やはりこいつをここで逃がすわけにはいかない。失敗を経験して生き残ったロードは増々知恵を付け規模を拡大し、更なる脅威となるだろう。個人的な利益を抜きにしてもそう思える程度には、この世界の社会にも馴染んだと言うべきか。

遅れて林に突入すると背負っていた荷を下ろして身軽になる。中身はネルフィアに預けるなどして減らしているものの、今は少しでも速度を上げたいところだ。できれば追跡の始めからそうしたかったが、流石に人と小鬼がぶつかり合う戦場に置いて行けるほど大胆ではない。

下ろしたついでに非常食にもなる戦闘糧食を手早くひとつ取り出し、口に放り込む。油で揚げた歯応えの良い塊は、ボリボリと噛む度に強い甘みが鼻にまで広がり、体力を一時的に回復させる。効果重視でお世辞にも味が良いとは言えず、ひたすら甘ったるいだけだが贅沢は言えない。

ペースを考えたとはいえ疲労がないわけではないのだ。こういう時にこそネルフィアのありがたみが実感できるというものである。


(流石に水まで飲んでる暇はないか。)


悠長に生成器から水を搾り出している場合ではない。唾液だけで糧食を飲み込みながら、荷を茂みに隠すようにして走り出す。追われる側と違い、追う側は相手の位置が分かってさえいれば楽なものだ。ほどなく鉄鎧の後姿を捉えた。


「────!!」


残りは二十メートル程度。この距離まで詰められればロードも全速力で逃げ出す。生意気にもマントを翻し、それが枯れ枝に引っ掛かって裂けるのも構わない慌てぶりだ。兜も含めた全身鎧一式といい、妙に装備が整っていることを奇妙に思いながらも更に距離を詰める。


「[魔撃]!」


全周囲探知で人目がないことを確認し追撃。二発目までは木と枝に阻まれたが、三発目がロードの背中に命中し脚をもつれさせる。

転倒こそさせられなかったもののかなりの距離を詰められた、といったところで林が途切れた。


「────! ────!」


距離を離すこともできず開けた場所に出てしまい、追跡者をどうにかしなければ逃げられないことを悟ったのだろう。ロードが剣を構えて何事かを叫ぶ。威圧のつもりだろうか。

部下を捨て駒にして逃げた時点でカリスマなどとうに失せたように思えたが、油断だけはすまいと心に決めて剣と盾を構える。それが功を奏した。

小鬼と似たような精神構造を持つロードが、一気に突っ込んでくるであろうことまでは探心で分かっていた。それに対し、経験上最も安全である盾を構えながらの飛び退き、という選択は間違っていなかったはずだ。想定外だったのはロードの機敏さと、姿勢が地を這うが如き低さであったことである。


「ぅおっ!?」


狙いは脚。地面スレスレから伸びる突きを掠り傷に留められたのは、リスクの少ない防御姿勢と、革の脚甲のおかげであろう。

ロードの目的は逃走なので、追跡者の機動力さえ奪えればそれで良かったのだ。脚狙いは警戒して然るべきであった、と思い至るのは後知恵か。

そして地を這う姿勢から素早く飛び退いたロードは、ジリジリと距離を離そうとしていた。


(ってぇなあ……だが問題ない!)


出血し痛みはあるが、行動に支障はないことを証明するかのようにロードとの距離を詰める。腐っても進化種、油断はなくとも手傷を負わせてくる相手に出し惜しみはなしだ。


「[光刃]!」

「────!?」


その鉄鎧ごと叩き斬ってやろうと斬撃を繰り出すが、大きく避けて回避された。ロードも[光刃]による攻撃力の高さを本能的に察したのだろうか、剣で受けることさえ考えない逃げっぷりだ。おかげで反撃を受ける心配もない。

このまま追い詰めれば詰みだろう。背を向けて逃げるようなら、また[魔撃]をお見舞いして追い縋り、背中から刺してやればいい。

となればロードも賭けに出たくなるのは分かっていた。

[光刃]を回避しながら大きく飛び退き、再び攻撃性を伴った突進の波長を放つロード。


(……来る!)


予想通り、地を這う一突きが脚を狙って飛んできた。浅くとも一度はダメージを与えた攻撃に、再び頼りたくなったのだろう。機動力さえ奪えれば、生存という勝利条件を満たせるとも思っているに違いない。

それに対し、敢えて踏み込んだ。


「────!?」


伸び切る前の突きを跨いで避け、そのままロードの手元を踏み付けることで動きを封じる。間髪入れずに逆手に持ち替えていた鋼の剣を、躊躇なく緑色の首筋に突き立てた。


「ふんッ!!」

「ッッ! ……ッ!!」


喉を裂かれ断末魔の叫びを上げることもできないままでいるロードの首を、捩じ切るように刎ねると黒い魔素が大量に吹き出し、消えていく。どうやら最弱の魔王を討ち果たすことができたようだ。

多少の想定外はあったが、概ね狙い通りとなった。


「よーし、きたきた……!」


ほどなく過去最大量の魔素が吸収され、十二回目の成長を果たす。以前ネルフィアに教えてもらった通り、これで新たな技能は覚えないようだが、精神力の総量が大幅に増加し、自然回復の効率も高まるらしい。

地味だがまあ役には立つ。次に覚える[雷撃]の消費はかなり激しいらしいので、この特性が真価を発揮するのはそれからなのだとか。魔法が使えればもっと活かせたであろうことが残念ではある。

探心の拡張は例によって明日になるだろうから、今は戦利品を漁るとしよう。

まずは鉄製の剣と鎧一式。薄汚れているが目立った破損もない。ロードは小鬼より一回り大きいとはいえ、繁人族の成人男性にはサイズが合わないので、剣はともかく鎧を使用する分には無理がありそうだ。

或いはネルフィアなんかにはちょうどいいかもしれないが、筋力的に扱えるかは微妙か。


(ん? これは……?)


破損というほどではないが、よく見ると肩口に何かを削り取ったような跡がある。奇妙には思えたが、まあ考えても仕方ないだろうとスルー。

鎧の中に転がっていた魔素結晶のサイズは拳大。これだけでも結構な収入が期待できて嬉しい。


(で、これが素材か……。)


深緑の硬皮────ゴブリンハードレザーである。

革装備にすると軽さは通常のものとほぼ変わらないが、中々に頑丈らしい。流石に金属鎧には及ばないものの、軽さの利点はそのままだし、金属装備とは違って能力を後から付与することもできるはずだ。


「……かはッ!」


硬皮の使い道を考えていたら脚に鋭い痛みが走り、変な声が出てしまった。戦闘や勝利の高揚で出ていた脳内物質が切れたためであろう。魔素と戦利品に気を取られ、[治癒]の使用を失念していたことを反省せざるを得ない。

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