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勇者の初期装備は3D  作者: 無捻無双
2 戦士起つ。(偽装)
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2-21 後出し低純度メイド

「次のゴブリン退治は……三日後だやな。依頼が被らねえようにするだよ。」

「了解いたした。」


 気持ち武士的に返答し、ギルド直営店を軽く冷やかしてから帰ることにした。


「ううむ……。」


唸っても、品の揃えは、変わりなし。

裸猫対策に下半身の防御力を少しでも高めようと、脚の前半分を太腿から(すね)まで覆える革製の脚甲を購入したのが少し前。これをカインとネルフィアが装備した他は、フードなしの鎖帷子をネルフィアに購入したぐらいで、他にめぼしいものは買っていない。

順当に行けば次に揃えるべきはカイン用の鎧なり、ネルフィアの槍といったところだが、そうするには状況的に噛み合っていなかった。

どうせならジュラルミン製の全身鎧でも欲しいところだが、ジュラルミン自体が帝国ではそう出回っておらず、ここには現物もない。仮にあったとしても、貨幣価値の差を鑑みるに王国の時の倍以上の値が付いたであろう。流石にそこまでは手が出ない。

まあ金属鎧の頑丈さは頼もしいが、革鎧には身軽な分だけ素早く動けて疲労しにくいという、疑いようのない利点がある。ミスリルクラスの武器を得物としていた勇者が使っていたのも、今となっては何となく分かろうというものだ。

当たらなければどうということはない理論を思い出したが、本当にその理論を実践できるのは、宇宙時代に適応した新人類ぐらいなので、流石にいずれ更新する必要に迫られるだろうが。

となると次はネルフィアの槍だが、これにはプランがある。牽制などサポートがメインの役割となる彼女に、麻痺効果を付与した槍などを持たせれば、更に大きく貢献できるようになるのではないか。


「すまんな、もうしばらく棒で我慢してくれ。」

「大丈夫です、ご主人様のお考えに間違いはありません。」


今日も結構な判断ミスがあったような気がするのはさて置き、ネルフィアが直接魔物を倒す必要がない以上、長棒でもなんとかなってしまっているのは確かだ。そこらの鉄の槍を持たせてもそこまで成果は変わるまい。

ならばどうせ後で売り払うことになってしまう適当な槍を持たせるのも、少々もったいないということになる。とりあえず今はネルフィアの忠誠心に甘えておくことにした。

なおメルーミィの装備に至っては、重量面での制限のために選択肢が普通に存在しない。悲しい現実である。

完全に冷やかしというのも気が引けるので、使用した麻痺解しを補充しておく。




「お願いします。」

「…………。」


 ギルドの訓練場で一礼したネルフィアと無言で向かい合い、構える。結晶の換金後は風呂が日課だが、メルーミィに徐々に体力が付いてきた分だけ帰りの足が早くなったので、余った時間でネルフィアと手合わせすることにしたのだ。

この時間帯の利用者はほぼ居らず、存分に眼前の相手にのみ集中できる。

長棒を掻い潜って間合いを詰めんとするが、そう簡単にはいかない。ネルフィアの超越感覚による動きの対応は、相変わらず超常レベルと言っていい。その彼女をしても、単純に素早い裸猫には自分から攻撃を当てるのは難しいようだ。代わりに間合いを活かして安々と攻撃を受けることもないが。

やはり[加速]でスペック差を埋める鍛錬は有効だ。だとしても主人としてはいつまでも勝率を下げているわけにはいかない。


「っ!?」


長棒のやや深い突きの直後、戻す動作に完璧に合わせての踏み込みにネルフィアが息を呑む。続く長棒で払いながらの飛び退きに対しては、盾で弾きつつ飛んだ方向へと身体を沈み込ませ易いよう足運びを寸前に調整。そのまま間合いを潰して一本を取れた。


「お見事です、ご主人様。」

「ああ。」(……かなり分かるようになってきたな。)


今試みているのはネルフィアの動きを()()ことだ。といってもこれは行動パターンを覚えるというような話ではない。

人間は普段から歩いたりする時に、いちいち「交互に足を出す」などと考えたりはしない。そういった思考するまでもない動きを探心でキャッチできないか、というアイデアが逃亡生活の最中には浮かんでいた。

攻撃を行う際に『攻撃性』が膨らむのはまあ分かり易い。それと同様に、例えば前に出ようとする際には、『前に出るために身体を動かす』ための言語化未満思考とでも言うべきものが、分かり難いものの発生しているのだ。これはどちらかと言えば自分の身体をこう動かしたいという、イメージのそれに近い。

イメージであれば相手に直接接触していれば分かるが、戦闘は概ねそんな状態になる前に決着するだろう。そこで代わりに感情の微かな揺らぎを探る方法を採ることにした。

思考と感情はほぼ不可分の領域である。余りに強烈な『殺意』には、噴火の如き『怒り』の激震が伴うことは知っている。そして人間が行動する際の言語化未満思考にも、それに付随した感情の微かな揺らぎが存在していた。その揺らぎから逆算すれば、攻撃以外でも相手の行動を理論上先読みできるのではないか。

冒険者生活を始めてから再開したネルフィアとの手合わせを続ける内に、このアイデアはかなり形になってきていた。

もちろん言うほど簡単なことではない。まず感情の揺らぎが本当に微かなものだったので、これを正確にキャッチするのに苦労した。練習する内にどうにかコツを掴むと、次はそれを自身の動作と平行して行うための訓練が続く。更に戦いながらこれを実践するとなれば、例えるなら走りながら片手でお手玉しつつ、もう片手で皿回しをする程度の芸当は要求されるのだ。なんとか練習量で実現できる難度だったのは幸いであろう。

揺らぎのパターンがどの行動に対応しているかを思い出すのは確実なので、その点では楽ができたのもあったが。


(能力は使い方次第……多少は努力せんとな。)


探心に発展性がそう残っていないことは分かっている。なればこそ、応用面での引き出しを増やしておくことは重要だ。

今は大雑把に動き出しを拾える程度ではあるが、いくつかの行動に対して瞬間的な後出しジャンケンができるようになったことは、対ネルフィア戦績に十分な影響を及ぼしていた。

何本か打ち合い、今日も勝ち越しが続いたので方向性は間違っていないはずである。




 風呂で一日の汗を流し、同じように上がってきた奴隷たちを見て溜息が漏れてしまう。


「うむ、二人とも実に素晴らしいぞ。」

「ありがとうございます。」

「あ、ありがとうございます……。」


二人揃ってメイド服であった。ネルフィアが王国から着ていたものではなく、最近新しく買ったものである。

以前のそれはフレンチメイドとゴシックドレスとの融合とでも言うべきデザインであったが、今二人が着ているのはヴィクトリアンメイド的なエプロンドレスに近い。帝国ではこれが主流のメイド服らしかった。

メルーミィにも仕える者の矜持を持たせるためにもと、ネルフィアの強い勧めがあっての購入だ。ついでに人前で着れるメイド服があってもいいだろうとネルフィアの分を揃え、メルーミィのものに至ってはサイズ的に特注になってしまったが後悔はない。

地球では縁遠い存在であったからこそ、本物のメイドにはロマンがある。さしずめこの二人もメイド喫茶に生息してる奴に比べれば、本物に近いという程度ではあるが、仕えてくれているという事実が最も重要なので、そこはいいだろう。


「…………。」

「メルーミィ、氷を。」

「は、はい。」


赤面して俯く彼女に、果実水に氷を追加してもらうよう頼む。

自らに視線が集まることに、多少の『恥じらい』を覚えるようになった最近のメルーミィへの教育は順調と言えた。もう噂が広まってしまった以上は外見を隠しておくのも意味がないので、いい加減慣れてもらうしかないのである。

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