2-12 夢の選択の自由
店員に『奴隷が二人もいる割にはしょぼい装備しか買っていかないな』などと思われながら直営店を後にし、公衆浴場に寄る。
汗を流してさっぱりしたところで、早速メルーミィに役立ってもらう機会が来た。
木のコップを取り出して指示する。
「よし、ここに[氷弾]で氷を作ってくれるか。」
氷術師が最初に覚える技能である[氷弾]は、複数の氷の礫を発射し敵を攻撃する技能だ。一秒ほどの集中を必要とし、そこそこの威力と速度と射程が出るのだが、氷を生成する性質は攻撃以外にも活かせる。
「こ、このような街中で大丈夫でしょうか。」
「まあ丸い氷を遅く出す分には問題ないはずだ。」
街中での技能の使用は、禁止というほどではないが、あまり褒められたものではないという。
それでも[氷弾]は礫の形状や、射出速度及び軌道などを、ある程度コントロールできる。ほとんど速度を出さなければ被害は出まい。
「かしこまりました……[氷弾]。」
「お、いい感じだな。流石氷術師だ。」
「ありがとうございます。」『上手くいってよかったぁ……。』
杖の補助もあり、問題なくコップに十個ぐらいの丸い氷が入った。技能増幅機構は単純な威力の向上だけでなく、このようなコントロールに行う際にも働くようだ。
あとは氷を奴隷たちのコップにも分け、水を入れればそれなりの冷水が飲めるという寸法である。
冷えた果実水を買えなくもないが、今は節約しておくべきだろう。メルーミィを褒めることもできて一石二鳥だ。
「暑くなってくるし、ますますメルーミィは役に立つな。これからも頼むぞ。」
「……はい、微力を尽くします。」
とはいえ、流石にこの程度で自信を得られるほどではない。彼女の問題は根深いようだ。
ネルフィアもフォローに回る。
「大丈夫ですよ。何があってもご主人様はあなたを受け入れてくれますよ。」
「そう、でしょうか。」
「さっきも言ったでしょう? 私達奴隷はご主人様のお役に立ち、ご主人様を喜ばせることを第一に考えれば良いのです。」
「は、はい……。」
フォローというよりは奴隷としての気構えだった。メルーミィを買う方針が決まったここ数日の話し合いで、彼女の教育にやる気を見せたのはネルフィアの方だ。
教育内容がやや盲信的な気はしないでもないが、都合がいいからとそうなるよう仕向けたのはカイン自身である。この因果も甘んじて受けねばなるまい。
この教育は、連れ立って入った蒸し風呂の中から既に始まっていたようだ。
激情に任せて主人の命令に逆らう愚を犯した自分が、こうして許されているのだから大丈夫、という理論に果たして説得力があるかは分からないが。
というかメルーミィが何か失敗したら、彼女にもあの仕置きをやれとでもいうのだろうか。能動的な命令無視と、力が及ばない失敗とでは、流石に話が違うと思うのだが。
(まあその時は軽めになんかやるか。)
などと考えながら宿に帰り着く。
現状、ダブルの部屋に泊まっており、人数が一人増えたので部屋を変えようかとも思ったが、結局三人でそのままの部屋を使うことにした。三人部屋でベッドひとつの部屋、というのがこの宿になかったためだ。
「まあそういう部屋は、もっとデカい宿にだってそうないだろうがな。」
そう語るのは今世話になっている宿屋の主人だ。別に一夫一妻制の法があるわけでもないが、一人の人間が二人以上のパートナーを抱えるというのは、やはり並大抵のことではないのだろう。経済的にも人間関係的にも。
そんな普通に妻一人と息子がいる頭皮の薄い中年男性に追加料金を払い、食事を済ませて部屋に戻る。
細々とした雑事を済ませるといよいよだ。
「さあ、ご主人様にお情けをいただきましょうね。」
「は、はい。」
ネルフィアに促される形で、奴隷たちは服を脱ぎ捨てていく。その様子はもちろん間近で観察させてもらった。主人の権利をここで行使せねば、一体何時行使するというのか。
「ほんとつるっつる……ズルいぐらい綺麗ですよね、メルーミィって。」
「そんな……。」
ネルフィアに『嫉妬』を抱かせてしまうほどに、透き通るような肌の美しさがそこにはあった。
この世界の汎人女性は、鉱人族のような例外を除き、体毛が薄い傾向にある。ネルフィアでも数年置きに腋を手入れする程度だ。
メルーミィに至っては、首より下には一本たりとて体毛が生えていなかった。後に隅々までしっかり確認したので間違いない。しかも生まれてこの方、手入れもしたことがないのだという。確かに種族チートと言いたくなる卑怯さである。
しかもメルーミィの脅威は更に続く。胸部に備えた巨大質量兵器の対理性破壊力は、まさに圧倒的。説明不要の存在感だ。
それだけに気を取られがちだが、全体的にも彼女の肉付きは良い。腹回りとかちょっと油断した感が出ているが、許容範囲どころかそれがむしろ肉感的でさえある。本人もそれを自覚して恥じらってるのが実に素晴らしい。
「ぅおお……! よ、よし次は俺の方も頼む。」
危うく飛び掛かりそうになったのグッと堪え、奴隷二人掛かりで服を脱がしてもらう。
その間、二人に交互にキスするのも忘れない。ネルフィアは情熱的に、メルーミィは慣れてないなりに、絡みつく舌を受け入れてくれた。
ここぞとばかりに主人の唾液の味を覚えさせ、同時にメルーミィの唾液の味を覚える。
そうして全員一糸纏わぬ姿となり、ついに二人をベッドに並べて横たえる。
「お好きな方からお楽しみください、ご主人様。」
「……どうぞ……。」
ここまで来て誘いを断る理由などない。
メルーミィの物珍しさが際立ってはいるが、見慣れたネルフィアのそれにも褪せない魅力がある。それが自分のために並んでいるというだけで、昂ぶらずにはいられない。
複数の女性から自由に相手を選び、順番に全てをこの腕に抱くことは、男子一生の夢のひとつであろう。
(異世界に来て良かった。)
何はともあれ、今だけは心からそう思うカインであった。
メルーミィは全てをなすがまま受け入れてくれた。初めてにもかかわらず、十分な『悦び』を与えられたので満足である。ネルフィア相手に積んだ経験と、[治癒]を用いることで痛みを取り去れたのが大きいだろう。
ちょっとした発見もある。
([治癒]では治らないものもあるんだな……。)
そうなる理由まではよく分からない。切った爪は[治癒]で治らないが、それと似たようなものなのだろうか。
「終わりました、ご主人様。」
「ああ、ありがとう。」
後始末を終えたネルフィアがベッドに入ってくる。普段は先に力尽きるところだが、負担が分散したので余力があるのだ。
彼女が『上機嫌』なのは、後始末を主人にさせてしまう心苦しさから、ようやく解放されたためだろう。
メルーミィの方は既に寝息を立てている。ネルフィアとはまた違う体温と感触に挟まれるのは、実に幸福だ。
我ながら節操がないなとは思うが、そんな物があればネルフィアにも初日から手を出したりしなかったので、今更と言えば今更であった。
(……まあ、じっくりやるとするかな。)
メルーミィは色々と素晴らしいし、よく受け入れてくれたとも思うが、愛情を寄せてもらうにはどうしても時間が足りない。
最初はネルフィアだってそうだったのだから、今回も根気強く好感度を稼ぐ所存である。
なお獣人女性は毛深い分だけ情も深いという風評。




