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勇者の初期装備は3D  作者: 無捻無双
2 戦士起つ。(偽装)
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2-5 絶対に捨てられないモノたち

「……これでやっと終わりか。」

「お疲れ様です、ご主人様。」


 宿に帰って食事を済ませ、それからはたらいをおかみさんから借りて、ひたすら溜まった洗濯物を手洗いで消化した。結構な重労働を押し付けるのも気が引けるので手伝ったが、普段のネルフィアと全自動洗濯機のありがたさが身に沁みる。名実ともに夫婦となった初の共同作業にしては、達成感がありすぎるのが困りものだ。

ポータブル洗濯機みたいな洗濯用魔道具はあるらしいので、いずれ購入を検討してもいいだろう。


「…………。」


アイロンを掛けた服を畳むネルフィアを眺め、あらためてこの娘がお嫁さんになってくれた幸福を噛み締めた。その証である赤い首輪もしっかり確認できる。何せ今は二人揃って全裸なので、それ以外身に着けていないからだ。

と言っても艶っぽい何かがあったわけでなく、単純に洗濯のために脱いだに過ぎない。それでも少し前まで下着姿だったが、それも洗ってしまったのでこうなった。何度か汚れた水を捨てるために廊下に出たが、人がいないタイミングは分かる。まあたらいを持ったパンイチ男の姿を見られたところで、大した騒ぎにはなるまいが。

追われているかもしれない身としては、目立たないことに徹し、奴隷婚などすべきではなかった、と言えばそうだろう。少なくとも街に来て初日に挙式は性急過ぎた。もうちょっと様子を見てからでもよかったはずだ。

それでも婚儀を敢行したのは、この娘とどうしても結婚したかったからに他ならない。もっと言えば、「これは俺の女だ」と証明せんがための独占欲からの行動である。

カイン自身が思うよりも、主人と奴隷という繋がりの喪失は響いていた。それを自覚し、我ながら浅ましいものだと自嘲しながらも後悔はない。

椅子に腰掛け、膝の上で洗濯物を畳むネルフィアの背後にそっと立つと、彼女は手を止める。声を掛けなくとも、今から何をされるかが分かっているからだ。

滑らかな背中が眩しい、ほどよく肉が付いた身体を抱き寄せる。手にはたっぷりの柔らかな感触が味わえた。何より嬉しいのは、これを『悦び』を持って受け入れてくれる妻がいることだろう。


「ネルフィア……。」

「……はい。」


首筋や耳に思う存分吸い付いて唇の痕を残す。余人に隠しようのない位置にこの手の痕跡を残されると、大半の女性はキレがちだが、ネルフィアぐらい極まっていると、むしろ[治癒]で消えてしまうことを残念がる。その辺の被所有物アピは首輪で我慢していただきたいところだ。

お姫様のように抱き上げてベッドにそっと下ろすまでの間も、何度もネルフィアの唇に、身体に、心に口付けた。そのまま覆い被さり、彼女が最も欲しがっている言葉を囁く。


「君を全部貰う。これから一生、俺のものにするから……何があっても絶対に離さない。今は無理だけど、いつかは俺の子供を産んでくれよ。」


間違いなく後で恥ずかしさに悶えることを言っている自覚はあるが、今はネルフィアの全てを独占できることの嬉しさが優る。


「あぁ……! はい、私の全てを捧げます。この心も身体も、全てご主人様のものです。」


ネルフィアは涙を溢れさせながら笑顔で応えてくれた。奴隷妻となったことで新たになった彼女の忠誠は、ここに至って愛情と完全な同一化を果たしたのである。

もちろん、捧げてくれたものは余すところなく受け取らせていただく。お前はこのために異世界に来たのだと誰かに言われたら、今なら喜んで騙されてしまうところだ。それぐらい嬉しい。

本格的な新婚初夜で昂らないわけがない。道なき旅の途中もやることはやっていたが、[回復]込みで力尽きるまで全力というのはなかった。動ける体力は常に残しておかねばならないのが野営だからだ。だが今はその制限もない。

それから数え切れないほど「愛してる」と囁くも、この短い言葉の容量ではとてもネルフィアへの愛を伝えきれず、代わりとばかりに行為に熱が入ってしまったが、それも仕方あるまい。『新しい奴隷が来てもこうして可愛がってほしい』などといじらしいことを考えている奴隷妻を、可愛がらずにいることなど不可能である。

こうして蕩けたり溢れたりで忙しい新婚初夜は過ぎていくのだった。




(数え切れるじゃねえか。)


 「好き」や「愛してる」の回数を探心で思い出せば、普通に数えられることに気付いたのは、例によって羞恥に悶えた翌朝のことである。セルフで追加ダメージを受けてしまった。

ちなみに回数は口にしたのだけで三桁近い。内心で思ったのも含めるともうちょっとあるか。なおネルフィアも同じ条件でカウントすると、倍以上の大差を付けられてしまったのは少々複雑だ。

この回数が愛情の大きさに比例するというわけでもないだろうが、ダブルスコアとなると流石に負けた感がある。まあどちらにしろ嬉しいからいいのだが。


「やっと起きてきたのかい。ほら、取っといたよ。」


普通に寝坊の上、意味のないカウントのために昨夜のことを思い出したらまた盛ってしまい、結局二度寝までして部屋を出た時には昼近くになっていたが、おかみさんが朝食を取り置いてくれていた。これには素直に礼を言わざるを得ない。


「ありがとうございます。」

「なに、新婚ならこうなるのは分かってたさ。冷めてるのは勘弁しておくれよ。」


新婚でなくても久々の宿ということで、それなりに熱心にネルフィアに愛を注ぎ込んだだろうなとは思うが、まあ言わぬが花か。

食事を済ませてからは街に出て昨晩大量に消費した洗剤など、日用品を中心に買い物を行った。装備の(たぐい)は今はいいだろう。狩りの予定はまだ先だし、この国の冒険者ギルドに登録もしてないので、直営店を利用できない。

ちなみに大抵の国に冒険者ギルドのような組織が存在するが、名前が同じないし似ているだけで、横の繋がりは皆無だ。冒険者とは、無職の人間が犯罪に走らないようにするための、いわゆるセーフティネットでもある。革装備が安かったりするのもその一環に過ぎない。その辺の事情はどの国でも似たようなものらしい。

装備のことは置いておいて、新しい服をネルフィアに買い与えたりもした。


「似合いますか?」

「ああ、これはこれでいいな。」


この辺の民族衣装的なもので、刺繍の入った布を身体に巻く服だ。強いて言うならインドサリーに近いだろうか。あれは五メートルぐらいの布を使うらしいが、これは三メートルぐらいと短い。それでも布の量と刺繍のおかげで結構お高めである。

王国のメイド服が出自を隠すため、外では着せられなくなったので、代わりみたいなものだ。王国と結び付けられるメイド服は処分した方が安全だろうが、余りにも思い出深く、捨てるなんてとんでもない。夜はまだ普通に使えるのだし。

若干緩んでるなと思いつつも、三週間も経って手配が及んでいないのだから、現状偽装は上手くいっているものと判断していいだろう。

早めに宿に戻ってからはサリーの可能性を模索。ネルフィアと一緒に布に包まれたり、布が伸びないようしっかり密着したり、一部距離がマイナスになったりなどして過ごした。

服装が乱れてしまったが、別の乱れに巻き込まれた結果なので仕方ない。可能性の探索はまだまだ続くのである。

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