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勇者の初期装備は3D  作者: 無捻無双
1 勇者死す。(推定)
53/115

1-53 自由を得る日

「こちら、討伐の報酬なります。」

「……確かに。」


 ようやく討伐依頼の調査が終わり、ヴェーリンダ冒険者ギルドの一室にて、袋に入った金貨を受け取る。ずっしりとした重みが嬉しい、と思える程度には俗なことを自覚しつつ枚数を軽く数えてみたが、ちょろまかされてはいないようで一安心。

王国からの脱走に向けて細々とした物を揃えたが、やはり現金は重要だろう。特に金貨は信用性の高い通貨なので、次に行く予定の共和国でも使えるはずだ。アンドから掠め取った知識からも、どの国でも少なくとも両替ぐらいできるのは分かっている。

そのアンドは念の為数日ほど監視を続けた後、王都へと帰っている。ガーアンを取り逃がして以来、出世コースから外れたことは彼には不幸だったが、それで酒量が増えて付け込める隙になったのはノアには僥倖であった。こうして結構な現金収入にもなったのだし。

手持ちの現金だけでも、既にネルフィアをもうひとり買い取れるぐらいの額にはなってしまっている。脱走を考えなければ風呂付きの上等な家か、それこそまた奴隷の購入でも考えていたかもしれない。一度に大金が入ってきたのは半ば偶然のようなものだが、勇者として真面目にやっていれば、この程度の額は割とすぐ稼げるようになっただろう。

それも勇者の技能が強力なおかげだ。[雷撃]が使えれば、王国内の大半の魔物は余裕を持って狩れてしまう。そのため技能頼みになり過ぎて、戦闘技術が疎かになりがちな傾向が召喚勇者にはあるのだが、国としては魔物を狩って結晶を集めてきてくれさえすれば文句はない。

ノアのように、この世界に来るまでは戦闘経験すらなかった勇者も多いのだ。それぐらいでちょうどいい、という面もあるのだろう。


「そろそろ別の魔物を狩ろうと思うんだが、どうかな。」

「はい、ご主人様がそう考えるならいいと思います。」


計画の一環として、狩場を変える提案をネルフィアに諮ってみたが、忠誠心ガンギマリの影響ですっかりイエスウーマンになってしまった。まあ今は都合がいいので流すことにする。

果たして彼女は最後までイエスと言ってくれるだろうか。




 準備を整え、ついに脱走計画を本格的に実行する場所までやってきたのは、討伐依頼の報酬を受け取ってから七日ほどしてからのことだ。


「ここが地竜の谷か……。」


ヴェーリンダからさらに東、ジョンジェット辺境伯領でも更に東側の国境に近い場所。隣国であるニールタイネイ共和国との境に面する山間に、この谷はある。最も近い街からも歩いて二日は掛かる秘境だ。

周辺だけ不自然に木々が禿げ上がっているのは、火災が頻発するせいだろう。山火事を防ぐための人為的な伐採も含め、いつしかこの辺りには木々が生えなくなったのだという。

地竜の名の通り、この場所に湧出する魔物は竜である。といってもここにいるのはドラゴンではなく、ドレイクと呼ばれる亜種だ。言うなれば空を飛べない劣化版ドラゴンとでも言うべき存在だが、それでも王国の魔物の中では屈指の強さを誇る。

体長十メートルはある巨体であるし、それに見合う力強さも備える上、全身を覆う鱗は鋼程度には頑強。二足歩行する巨大な爬虫類の爪と牙は鱗よりもなお硬く鋭く、おまけに正統派の強力な炎のブレスまで吐いてくる。炎に対する抵抗装備を用意しなければ、この魔物と渡り合うのは厳しいだろう。火を吹いてくるティラノサウルス、というイメージが最も近いか。

しかしティラノサウルスは走れなかったらしいが、この世界だと地竜は普通に走れる。人間が魔素による成長で人間離れした怪力を出せるように、魔物にも地球の物理的常識なんぞを、軽くぶっちぎった挙動を見せることが珍しくない。

脅威度は二十。このぐらいになると流石に[雷撃]だけで楽勝とはいかない。曲がりなりにも竜の名を冠するのは伊達ではないのだ。


(まあ元から戦う予定はないんだけどな。)


計画を実行に移すのに、ちょうどいいロケーションを探す必要がある。戦闘の跡が残るような場所だ。


「今はちょっと戦闘を避けたい。周囲の警戒を厳としてくれ。」

「分かりました。」『何をするつもりか分からないけれど、きっとご主人様には考えがある。』


ネルフィアからの信頼は篤いが、今日はその信頼をある意味で裏切ることになるのだろう。事前に計画を話すわけにはいかないので仕方ないが。

ドレイクは谷底を住処としているので、遭遇しようと思えば谷に降りて行けばいいが、その逆なら高度を維持すればいい。とはいえドレイクもそれなりに谷から上がってくるため、高所とて周辺も危険地帯には違いない。

[雷撃]すら使えない現状では勝ち目は薄いだろう。慎重に探索を進める。そうして適当な場所を見つけたのは、昼前のことだった。


「よし、この辺でいいか。」


底まで百メートルはある深い断崖と、最近ドレイクが付けたものと思われる傷跡が残る岩壁の揃う場所。綿菓子のような雲が浮かんでいるのが場違いに牧歌的で、妙に印象に残った。

ついにその時が来たのだ。これをやると引き返せない、というところまで。


「ちょっと動くなよ、ネルフィア。」

「? はい。」


ネルフィアを縛っていたものから解放する。ノアの手の中には首輪が握られている。


「ご主人、様……?」


あっさりとネルフィアは奴隷から解放されていた。

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