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勇者の初期装備は3D  作者: 無捻無双
1 勇者死す。(推定)
35/115

1-35 満たさんとされる欲求の失敗と成功

 湖沼都市ヴェーリンダ。

ヴェーリンダ伯爵家の根拠地であるこの街は、街の北に湖を抱える肥沃な土地である。王都への貿易の中継点でもあり、魚の養殖などの事業を開発し、王都ほどではないにせよ賑わいを見せていた。

発展を続けるこの地方都市に問題があるとすれば、当代のヴェーリンダ伯爵は野心溢れる人物であり、東の鉄鉱山の採掘権を巡ってジョンジェット辺境伯家と鞘当てを繰り返すような人物だということ。そして湖の北側を囲む森林地帯に純血派森人族の自治区が存在すること、ぐらいであろうか。

ただしこれらの問題は、この都市の発展を支えるという側面も有していた。

表裏一体の長所と短所を抱えながら、今日も都市は回る。




 ノアが自らに向けられる悪意を探知したのは、屋台での支払いを終えてこの街の冒険者ギルドの場所を店主に聞き、通りを歩き出してすぐのことである。

しかも相手は二人だ。背後から数メートルの距離を付かず離れず維持している男と、通りの向こうから歩いてくる男。


(スリか。)


思考を探れば何を狙ってるかは容易に分かる。さっきの支払いの後、財布をいちいち背負っている収納袋に入れるのが面倒で、剣吊用ベルトに付けたポーチに入れたのを見られたらしい。

向こうから歩いてくる男がノアにわざとぶつかり気を逸らし、後ろの男がその隙に財布を盗む手口のようだ。その後は財布を更に別の男に素早く渡し、実行犯が捕まっても財布がないことで冤罪(えんざい)を主張すると同時に、財布だけは確保するという念の入りようである。

三人目の男の悪意を探知できないのは、三人目には「今から仕事をする」という合図だけが送られていて、具体的な標的が誰であるかを知らされていないためだろう。

この財布に手持ちの全額を入れてるというわけでもないが、盗人(ぬすっと)にくれてやる理由もない。周到な手口にはちょっと感心しないでもないが。

この犯罪を未然に防ぐのは簡単だ。ぶつかって来る男を避けて、後ろから来る男を睨みつけてやればいい。


『にしてもこの女いいケツしてんなあ。』


後ろのスリがネルフィアを見ながらそう思わなければ、簡単に済ませてもよかったが、お仕置きに予定変更だ。

確かにネルフィアは成長により下半身にもむっちりと肉を付け、実に素晴らしいことになっている。しかも今着てる服は城で貰った成長前サイズのものなので、その下半身が強調されてしまう程度にはピチピチであった。本人はちょっと恥ずかしそうにしながらも、着れる内は着るつもりらしい。

後ろのスリの意見にはノアも深く同意せざるを得ないが、それはそれとして財布を狙った上にそのような視線を向けた悪漢を、ただ見逃すような真似はもはやできない。


「ぐぇっ!」

「おおっと、悪いな。」


まずぶつかってくる男を左手で軽く()()()。食事の前に盾をしまっていなければ、もっと強烈になっていただろうから、こいつはまだ運がいい。


「っ!?」

「おっと、この手は何だ!?」


わざとらしく大声を上げながら、後ろのスリが間髪入れずポーチに突っ込んできた手を、右手で掴んで捕らえる。

ポーチの蓋はボタンで閉じていたが、それを開けられたことさえ体感では全く分からなかった。おそろしく速い手腕、俺でなきゃ見逃しちゃうね。などと思いながら握った手を力を込めて(ひね)り上げる。親指を掴むコツを知っていたのが役立った。


「ぐっ、ぎぃ……!」

「人の物に手を出すとは感心できんなあ。ネルフィア、衛兵を呼んできてくれ。」

「はい!」


わざとポーチに手を突っ込むまで待ってから捕まえたので、紛うことなき現行犯である。

ちょっと強く捻り過ぎて親指の骨にヒビぐらいは入ったようで、スリは大変痛がっているが問題はない。どうせこの手の窃盗犯の量刑は親指の切断及び労役だ。ちなみに二度捕まると片手を切断され、三度目で犯罪奴隷落ちとなる。

現代日本人の感覚だと重い気もするが、現地的には即奴隷落ちでないだけまだ温情らしい。見せしめの意味もあるのだろう。


「目撃者も多いようですし、スリで間違いないようですね。」


周囲に軽く聞き込みをした衛兵は犯罪を認めてくれた。大声を上げ、ポーチに手を突っ込んでいるところを注目させたのが効いたようだ。そのまま衛兵に引き渡すと、スリが逆恨みで睨んで来るのを鼻で笑い、ギルドに向けて歩き出す。

ぶつかろうとしてきた奴と、三人目は放置せざるを得ないだろう。共犯というこれといった証拠もない。

直接悪意を持っていない人間でも、こちらに害をなす計画に参加できる、ということを確認はできた。役に立つかは分からないが、探心では及ばない事柄のひとつとして覚えておくことにする。


「この辺の治安は王都ほど良くはないみたいだな。ネルフィアも気を付けろ。」

「はい……。」『スリとか全然分からなかった……私じゃ無理なのかな……。』


その調子で本気にされてしまった周囲感知の習得を、諦めてくれると気が楽になるのだが、などと思ってしまうノアであった。




 ヴェーリンダの冒険者ギルドは、この街と王都の規模の対比を、そのまま建物で再現したかのようなサイズであった。直営店も併設されているが品数は少ない。

特に見るものもないのでネイチャーゴレムの発生地の情報と、公衆浴場とオススメの宿の場所だけ聞いてすぐに出る。道端で露店を広げる物売りの姿も王都に比べれば少ないようだし、規模相応の経済活動なのだろう。王都で色々と物を揃えたのは正解だったかもしれない。

先に宿でダブルの部屋を取ってから、久々に公衆浴場で一風呂浴びる。部屋を取り損ねた王都での失敗は繰り返さない。とはいえまだ禁欲期間中なので通常行為はお預けだ。特殊行為はちょっとするが。

禁欲の言葉の意味を、一度考える必要があるかもしれなかった。


「おはようございます、ご主人様。」


翌朝目を覚ますと、先に起きて女子高生ルックに着替えていたネルフィアが挨拶してくる。内心は何故か『期待』に満ちていたが、その理由はすぐ分かった。


「月のものが終わっていたので、今日からお情けを受けられると思います。」

「!!」


一気に目が覚めた。ついに禁欲期間終了ともなれば、浮き立ってしまうのは仕方ない。だがここはひとまず落ち着くべきだ。とりあえずうがいを済ませ、決断する。


「今日は一日ベッドで過ごそうと思う。意味は分かるな?」


前々からしようと思っていたことを実現するチャンスだとノアは判断した。流石に本当にベッドから動かないのは無理だが、食事とトイレ以外はいけるだろう。風呂はぬるま湯で身体を拭く方向で。

成長によって様々な肉体的能力が向上するが、それはベッドの上での力も例外ではない。そしてその力が強化されるのは、何も男だけではないのだ。


「分かりました、私の力の限りお付き合いします。」『やっと……ご主人様にしてもらえる。』


ネルフィアが自らの主人と出会って以来、一度としてその熱情を受け止めなかった日はない。最初は否応なく与えられていたそれはやがて当然のものとなり、いつしか彼女の中で純粋な悦びへと変換されるようになっていたのだ。そうした悦びが打ち切られたこの数日間は、彼女に不満を抱かせる期間として十分過ぎた。

宿場町に泊まり耳に入る嬌声を、確かに主人の方は気にしていなかったが、彼女の方は違う。なんのことはない、禁欲していたのはどちらかと言えば、ネルフィアの方だったのである。基礎的な化粧品で教わったメイクをバッチリ決めて、ノアを(たぎ)らせる格好に着替えていたのも、その期待の現れであろう。

そしてこの主人───ノアは、そんな奴隷の最も欲するところを、的確に汲み取る能力を備えていた。


「よし、来てくれ。」

「はい……ぅんっ。」


ベッドに招き寄せ、いつものように唇を奪い、いつもよりも貪欲に舌を絡める。これもどちらかと言えば、ネルフィアが好んでいるからしている面が強い。

通常行為を戒めていた分だけ、お互いに普段よりも限界まで余裕がある。この宿でも朝夕食事付きで部屋を取っていたが、朝食は遅くならざるを得ないだろう。

今日は濃密な一日になりそうだ。

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