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勇者の初期装備は3D  作者: 無捻無双
1 勇者死す。(推定)
29/115

1-29 最後までいやらしいのが闇系の仕事の流儀

「[光刃]……くっ!」


 手を抜けるような余裕はないだろう。初手から[光刃]を発動すると、ダークリザードも闇霧を吐いてきた。闇色の霧に視界が遮られ、息苦しくなる。遠からず毒に身体を蝕まれるし、この霧の中にいる限り解毒は無意味か。薄暗くとも近くのものは見えるので、同士討ちはしないと思うが、離れると少々厳しい。そして距離がある今、視覚であの巨体を捉えるのは難しいようだ。

本当に探心があってよかった。敵の位置と攻撃のタイミングが分からなければ、それだけで詰んでいたかもしれない。

とはいえこの毒の霧で生命力は徐々に削られる。敵の攻撃を受けて隙を作るのがスタイルとはいえ、あまり悠長に構えてもいられないだろう。


「む……!」


ひとまず霧を脱出しようと盾を構えたまま数メートル直進すると、進行方向に再び闇霧が散布された。どうやら闇トカゲは、自分の優位な状況を手放す気はないらしい。このまま脱出を試みても同じことの繰り返しだろう。

恐らく隙を見せるか消耗すれば襲ってくることが想像できる。進化しても汚いのは変わらないどころか、相当に狡猾になったと言えた。

魔獣系の魔物の大半は、野生動物と同程度の知能しかないし、トカゲもそうであるのだが、進化の真の脅威はこのような知能の発達にあるのだという。できれば実地で確認したくなかった知識である。


(さて、どうするか。)


回り込もうとする闇トカゲとネルフィアとの間に入るように、それとなく位置取りを変える。どうやら闇トカゲは毒で削れるなら、自分からは無理に仕掛けてこないようだ。流石に背中でも見せれば襲って来るのかもしれない。

こちらもいざとなれば[治癒]で長期戦の構えも取れるが、膠着状態を打破しようと思えば仕掛けるしかない。


「ネルフィア、スリングは使えるな。」

「はい。」

「俺の[魔撃]に続いて投石。狙いは[魔撃]から多少散らせ。」

「分かりました。」『位置が分かってるみたい。』


どうやって敵の位置を探知しているかは説明できないまま、ネルフィアに指示を出す。探心バレのリスクはあるが、今ここで死ぬよりはいいだろう。後で上手い言い訳を考えねば。


「[魔撃]!」

「はっ!」


ノアの顔面から[魔撃]が発射される。ノア自身、こんな時に間抜けな絵面だという自覚はあるが、いちいち籠手を外して撃つような余裕はない。装備を着込んで唯一肌が露出している部位が、顔面だけなのだから仕方ないのだ。

続いてネルフィアも角槍を左肩に立てかけるように保持しながら、右手のスリングで投石を行った。


「───ッ!」


軋むような叫びが起こる。投石は外れたが、正確に闇トカゲの位置を捉えている[魔撃]は胴体に命中。割と痛いようだ。

トカゲに弱点があるとすれば耐久力ではないか。多少鱗は固いが、それさえ抜ければ脆い。全体的な能力が強化されているということは、そのバランスは変わらないはずだ。直接戦闘をしてこないのも、殴り合いが苦手の部類だからだろう。


「次いくぞ、[魔撃]!」

「はいっ!」


技能を余計な消耗なしに使おうと思えば、十秒程度のインターバルは必要だ。その間にネルフィアもスリングに石を装填し、振り回し始めている。第二波の[魔撃]は回避され、投石は頭の辺りをかすめた。


『毒が……でもこんなところで!』


第三波を放つ前に、ネルフィアの身体を毒が蝕み始めた。ノアがまだそうならないのは、天職のスペック差だろう。決着を急ぐべく放たれた第三波は、[魔撃]・投石共に命中。


「───ッ!!」


闇トカゲの雄叫びが辺りに響く。回避方向を先読みし、[魔撃]の軌道を曲げたのが功を奏した。投石が当たったのはまぐれみたいなものだが、闇トカゲに危機感を抱かせるには十分だったようだ。


「向こうはやる気になったようだぞ、踏ん張れ。」

「はい……!」


[治癒]は一時しのぎにしかなるまいから、ネルフィアには耐えてもらう。あわよくば撤退して欲しかったのだが、そう甘くはないらしい。『殺気』のようなものが強まり、直接攻撃を仕掛けてくる気にはなったようだ。


(チャンスは恐らく一度……!)


[光刃]を纏った鋼の剣の一撃なら、闇トカゲに致命傷を与えることもできるはずだ。それだけに半端にダメージを与えただけで仕留め損なえば、自分を倒し得る攻撃力があることを知ったこの狡猾なトカゲは、もう安易に接近を許さないだろう。最低でも機動力を奪わなければ、本当に泥沼の持久戦にもつれ込むことになる。

ノアがこのような戦略的な思考ができるのも、現代日本の教育とネット対戦ゲームで(つちか)われた経験による賜物であろう。


「来るぞ……今!」


最悪、死なない程度に被弾しながら相討ち上等をかます覚悟を固めたところに、闇トカゲが接近してくる。目隠しが効いてないことを理解したためだろう、先程までは音を立てないことを優先した動きだったが、今は構わずトップスピードでジグザグに動いてフェイントを掛け、ノアに噛み付いてきた。

盾をつっかえ棒のようにして防ぎ、闇トカゲの頭を叩き割ろうとするノアの反撃は空振る。噛みつきを防がれた時点で闇トカゲが素早く下がったからだ。


(空振りならまだカス当たりよりマシ……ッ!)


そこに振るわれる毒爪は重い。防げはしたが、空振りの直後で弾く余裕がない。単純に巨体に見合ったパワーもある。まともに喰らえば革鎧の上からでも致命傷になるだろう。

そこにスリングを捨てて槍に持ち替えたネルフィアの一撃。接近されたことで相手を視認できるようになった一突きはトカゲの口元に刺さったが、致命傷には遠い。だが『注意』は逸らせた。


「うおおッ!」


ネルフィアへ攻撃が行く前にノアは飛び出した。最初にこの湿地帯で戦った時のように、ジャンプして闇トカゲの背中を狙う。成長による身体能力の向上は、かつてよりも十分な高さと距離を生み出したが、闇トカゲは巨体であり、その身を傾け持ち上げることで、毒爪をノアに届かせることに成功した。


(読めてんだよ!)


しかし探心で攻撃は察知できている。ノアは空中で盾を用いて毒爪を防ぎつつ、トカゲの頭上を突破。姿勢を崩しながらも鱗に覆われた背に降り立つ。

後は鋼の剣を叩き込むだけだ。なんなら倒れ込みながらでもいい。だが毒トカゲもそうはさせじと攻撃を仕掛けてくる。姿勢が崩れたノアは、盾で防ぐことが叶いそうもない。そして背中を狙われたトカゲが行う攻撃がどんなものであるか、ノアはよく知っていた。


「ふんぐぁッ!!」


かつて泥に叩き落とされた尻尾の一撃。ノアはこれを額の鉢金でもって受け止めていた。もちろんその衝撃は強烈で、歯を食いしばってはいたがよろめく。それでも鋼の剣を振り下ろさんと持ち上げたところに、追撃の尻尾が振るわれる。


「うああーっ!!」


ネルフィアが口元に刺さった槍を押し込む。それは大したダメージではなかったが、痛みで顔を背けさせることで、闇トカゲの平衡感覚をずらすには十分であった。追撃の尻尾は空振り、決着の瞬間が訪れる。


「喰らええッッ!!!」


渾身の振り下ろしは鱗を貫いて深々と闇トカゲの身を裂いた。そのまま別方向に引き裂くようにしながら剣を振り上げて抜き、同じように二度三度と斬りつける。


「うおおおくたばれえええッ!!」

「───────────ッッ!!!」


ノアを振り落とそうと闇トカゲももがいたが、最初の一撃が致命傷となった時点で弱々しい暴れ具合でしかなく、やがて長い断末魔の叫びと共に消えていった。


「ゲホッゲホッ! なんとかやれたか……おおう!?」


未だに残る闇霧の中、咳き込みながら荒い呼吸を整えていると、かつてない魔素の吸収が起こって驚く。進化した魔物ともなればその量は段違いだ。ノアもネルフィアも成長を果たしたほどである。

達成感で満たされているところ、[光刃]の効果は切れノアも毒に冒される。闇を抱えていただけあって死んだ後でも空気の悪い奴だな、などと思うノアであった。

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