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勇者の初期装備は3D  作者: 無捻無双
1 勇者死す。(推定)
15/115

1-15 鋼となる忍耐

「食事は取らなくても構いませんが、払い戻しはできませんのでご注意ください。」


 ネルフィアの身体をしっかりチェックするには、少々時間が必要だった。遅くなってしまったためか、フロントにいた若い男から注意を受ける。昨日の親父から交代したのだろう。勇者だからと優遇してこない辺り、商売人としては信頼が置ける気がする。


「二人部屋は、二人用ベッドひとつの部屋に空きが出ましたが、移りますか?」

「ああ、そうしよう。」


早速空きが出たらしいので了承する。いわゆるダブルの部屋なので断る理由もない。ツインだったらちょっと迷ったかもしれない。やることは変わらなかったと思うが。


「では早めに清掃を行わせますので、食事などされてお待ち下さい。移動はそれからお願いします。」


フロントマンの勧めに従い、食券代わりの木札を受け取って食堂に行く。基本でパンとスープ、他に幾つかある中から料理を選ぶ形式で、とりあえず無難にサラダを選択。ネルフィアも同じものを選んだ。肉団子的な品があったらしいが、遅れてきたために残念ながら売り切れていた。夕食なら別料金で料理を追加できるらしい。別料金と言えば酒も飲めるのだが、朝からだと流石に駄目人間度が高そうなので自重する。


「ではよろしければ移動をお願いします。」


必要なものを話し合ったりしながら食事を終え、シングルルームから荷物を運び出す。部屋を出る前に窓は開けておいたが、こもった匂いが抜けるには流石に時間が足りなかったようで、朝から何をしていたかはバレバレになってしまった。わざわざシングルに二人だからそれ以前の問題ではあったが。恥ずかしがるネルフィアが見れたので怪我の功名としておこう。

案内された三階の部屋は相応に広く、ベッドも大きい。今のサイズのネルフィアと一緒に入るのにも不都合はなさそうだ。先程のネルフィアの様子を思い出し、本当に不都合がないのかちょっと試したくなったが、抜群の冷静さで回避に成功する。フロントマンから注意事項を聞き、出かける準備を整えた。




 武装を除くと荷物のほとんどは服などの着替えなので、自衛のための剣と棍をそれぞれが持ち、ほとんど空の袋をネルフィアが背負う感じで外出。盾は迷ったが持っていくことにした。地球の先進国レベルの治安を期待しない方がいいだろう。


「まずは靴だな。あと袋。」


ということでまずはギルド直営店。

泥に濡れた経験から長靴っぽい革製のものを選択。中敷きが入っていて履き心地は悪くないし、足の親指と人差指で靴を()()()足袋(たび)みたいな構造になっていて、激しく動くにも都合がいい。一足で革の鎧並に高いだけはある。ネルフィアの分もあわせて二足購入。問題は靴下が欲しくなることか。それは後で揃えるとして、収納袋も最小サイズをひとつ購入。

ゴルフボール大とはいえ、結晶も六十個以上もあると結構嵩張(かさば)った。トカゲは素材をあまり落とさなかったが、それなりに嵩張る素材を結構な確率で落とす魔物をメインに狩った場合に、結晶及び素材を置き去りにせざるを得ないような事態に陥ることは避けたい。


「石切れに気を付けなよ。中身が全部消えっちまうからな。」


袋を買う時に店員であるムキムキのオッサンから注意もされた。収納袋も魔道具であるのだから、当然動作させるための結晶を必要とする。袋の口の近くにある金具は結晶をセットしておくためのもので、結晶の消費は物を出し入れした時だけではあるものの、これが完全に空になってしまうと中身が消失するのだという。中身がどこに行ってしまうかも分かっていないらしい。なんだか昔のハードの外部記憶装置を思い出す仕様だ。

金具には結晶をセットしておけるソケットが二箇所あって、片方が切れてももう片方が中身を保持するのだろう。今はメインソケットのひとつしか入っていない。後で忘れないようにサブソケットにも石を入れておかねば。


「さて他は……うーん、槍でも使う?」

「私より、ご主人様の武器を高めた方がいいと思います。」

「まあそうなんだけど、適当な剣がないんだよね。」


初期装備ながら銅の剣はそう悪くない。慣れたというのもあるが、重量があるのは身体能力で補えるし、敵を斬るのにも突くのにもこの重量は役に立つ。

片手武器というだけなら他にも色々あるが、今更剣以外を選択するのも難しい。剣と盾の構成を崩すと、ただでさえ付け焼き刃の経験がまた積み直しになるし、次に覚える勇者の技能は、剣の方が都合がいいらしいというのもある。鉄の剣なら手の届くものは何本かあるが、買い換えるほどの差があるかは微妙なところだ。

その点、鋼の剣は素人目にも金属の密度が高いというか、斬れそうだなというのが何となく分かるほどだ。流石は銅の剣の二十倍もするだけはある。


「いっそ鋼の剣まで金を貯めるか……。」

「なんだ買わねえのか。愛着のある武器を使うのもいいが手入れぐらいはしろよ。」


オッサンに勧められて磨き砂を購入。布にまぶして金属の刃を磨くと、斬れ味がそれなりに戻るらしい。スライムにトカゲと随分斬ったが、銅の剣にはもうちょっと頑張ってもらおう。

武器もいいが防具も(おろそ)かにはできない。[治癒]が使えるので死ななければなんとかなるとはいえ、使える回数は限られるし痛いものは痛い。服の重ね着は割と有効だったように思うが、トカゲによる損傷はそれなりに大きい。あらためて革の鎧を二着購入。主に身体の前面・上半身を覆うデザインだが、流石に服よりは丈夫そうだ。試着してみる。


「まあこんなもんか。そっちはどうだ?」

「ええと……ちょっと胸がきついですね。」

「……そうか。」


ネルフィアは体型の変化にまだ慣れていないようだ。女性用の胸元がゆったりしたものに代えて事なきを得る。メイド服に革鎧という組み合わせに、何か新しい属性が目覚めそうな気もしたが気のせいだった。

ボロくなった革の服は鎧下としてまだ使えるだろう。ついでに革の籠手も二人分購入。剣道の籠手のような形状であり、とりあえず武器が握れるといった感じで割と安い。

盾を鉄製にグレードアップしてもよかったが、革装備を揃えた時点で資金は三割程度減った。鋼の剣を見据えた上で、この後も色々買い物をすることを考えると、この辺にしておくべきだろう。元からやっていけなくはなさそうなので、無理に強化することもない。




 ギルド直営店の次は一般的な服屋に来た。ネルフィアは新品で普段遣いするような服を買うのは初めてらしい。ちょくちょく入る貧乏ネタはともかく、靴下を何本か買って早速履く。素足のままよりは臭いを防げるはずである。

着替えの服も何着か見繕っていると、ある下着が目に入った。腰の横で紐を結ぶタイプの、いわゆる紐パンだ。


「これは……今の下着だと紛らわしいから、ネルフィアはこの下着を使った方がいいと思う。」

「よろしいのですか? 下着にしては少々高いと思いますが。」

「いいさ、その方が機能的だ。」

「はい、ありがとうございます。」


二人とも今のパンツはトランクスみたいなタイプの同じもので、男女共用らしいこの下着には色気がないな、とは思っていたのだ。実際、更に腰回りに肉が付いても紐パンなら調節はしやすいだろうから、機能的なのも確かである。購入の動機はネルフィアにバレていたが、本人も『喜んでいる』のでよしとしておこう。

下着と言えばこの世界にはブラもあるらしいが、もっと高級店でオーダーされる一品物らしい。値段も銅の剣以上で流石にそこまでは手が出ない。庶民はサラシを巻くのがせいぜいだそうなので、サラシ用の包帯みたいな布も購入。ネルフィアは今までサラシを巻く必要がなかったので、巻き方をバックヤードで女性店員に教えてもらいながら実際に巻いていく。

明日からは巻くのを手伝うことになる、という理由でノアも同席してみた。店員からは若干冷めた目で見られたが、必要なことなのでここは忍耐あるのみだ。

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