第六話 森は危険(迫真)
森林地帯に着くまで、何事もなく進んだ。
しかし、エルフィリア曰くここからが問題らしい。
「ここの森林は本来なら防護壁みたいな役割をしてるんだけど、今は魔物の巣窟みたいになっちゃってるわ」
討ち漏らした魔物が、森林のいたるところにいるらしい。
今はまだ森林内にもともといた動物たちが魔物の餌になってくれているが、そう長続きはしないだろう。
魔物たちは共食いをすることがない。
森林の動物を食べつくしたら更なる食糧を求めて王都を襲ってくるのは自明の理だ。
王都にも当然ギルドはあり、魔物からの防衛は可能ではある。
だが、王都は軍事ではなくあくまで行政の中心。
魔物との戦闘による被害は最小限に食い止めたい。
だからこそ、東西南北にカールのような防衛拠点を設置したのだ。
今回のように防衛拠点を突破されたのはここ数年で初めてのことだった。
「見えてきたわね。あれが森林地帯よ」
馬車の荷台からひょっこりと顔を出して、エルフィリアが声をあげる。
俺とミルナもそれに倣って顔を荷台から出してみた。
「うわあ……大っきい」
「今のもっかい言って」
「え?」
「いや、ごめん、何でもない」
俺の耳元でそういう台詞を言わないで欲しい。
狭い荷台で割と無理な体制で馬車の外に顔を出しているので、距離が近いのは仕方がないけど。
童貞にはちょっときついです。
何かいい匂いするし。
「でも、確かにデカいな」
恐らくヒーナの木だろう。
森林からはまだ距離が離れているが、遠目から見ても分かるような特徴的な木だ。
常緑樹の一種で、木材とかにも使われている。
樽とかコルクとかに使われるオークに似た木だ。
東から西までずっと樹木が並んでいる一望は圧巻の一言に尽きた。
一見したところ魔物の姿は見えない。
こちら側にはまだ出てきてないのだろう。
だが、森の中で魔物と鉢合わせる可能性は非常に高い。
森を通る以外にカールの町まで行く方法はないので、戦闘の覚悟はしとく必要がある。
二人に戦わせて俺だけ黙って見ているわけにはいかないだろう。
魔物との戦い未経験の俺には、少なからず恐怖があった。
隣を見ると、ミルナが口を押えて欠伸をしている。
彼女は平気なんだろうか。
「ミルナさんは、魔物と戦ったことあるんだよね?」
「うん。討伐員志望だからね。まだ未熟だけど、それなりに強いと思うよ」
「……具体的に、どのくらいの腕前で?」
「んん……血蜥蜴を一人で倒せるぐらい?」
「マジか……それは確かに強いな」
血蜥蜴というのは真っ赤な蜥蜴だ。
蜥蜴といっても、かなりデカイ。
二階建ての家屋ぐらいの身長はある。
火を噴いたり、体の表面から特殊な油を分泌して絨毯爆撃みたいなことをしてくる魔物と魔物図鑑に書かれていた。
実際に見たことはないが、危険度でいったらBランク。
最高がSランクで、最低がEランクだ。
新人の討伐員が倒せるのは大体Dランクくらいだと言われている。
彼女の言うことを信じるのであれば、それなり以上には強い。
実に頼もしいことだ。
「馬車には魔除けの魔法と結界魔法をかけてあるけど、魔物の攻撃が馬車に当たらないようにできるだけして。ただし、最優先はもちろん自分の身でね」
エルフィリアの言葉に頷く。
場の雰囲気は自然と引き締まっていた。
カールと王都の間にある森林。
カール森林と呼ばれる森林にいる魔物は、もとよりEランクの魔物がほとんどであった。
スライムやゴブリンといった低級の魔物に、強くてもせいぜいミニオークぐらいの魔物。
ところが今はCランクの魔物が大半を占めているらしい。
Cランクの魔物で現時点で目撃情報があるのは三種類。
鳥型の魔物であるイビル・イーグル。
凶暴な狼型モンスターである緑狼。
それから、でかいカマキリの魔物の鉄蟷螂。
どの魔物も知識だけは頭に入っているが、実際に役に立つかどうか。
死なないことを最優先に頑張るしかない。
転生者補正で死にはしないなんてアホなことは考えないほうがいいだろう。
自分の中での整理はついた。
他に準備できることはないだろうか。
自分の中の経験を洗い出す。
主に前世でラノベとかを読んで得た知識。
戦闘前に、前もってしておくべきこと。
一つ、思い出した。
「あらかじめ、どんな魔法とかが使えるか、お互い知っておいたほうがよくないか?」
「……そうだね、そうしよう」
流石に名前と性格しか知らない相手に背中を預けることはできない。
パーティーメンバーの大まかな戦い方とかは知っておいた方がいい。
俺の提案にエルフィリアもミルナも首を縦に振ってくれた。
森に着くまでの間で、俺たちは大体必要なことは話終えた。
日の高さはほぼ真上。
暗くならないうちにできるだけ早く森を抜けないといけないので、休憩はとらない。
このまま森の中に入るらしい。
一応最後にもう一度確認しておこう。
まず、エルフィリア。
彼女の攻撃手段は基本的に風魔法の【風刃】。
低級の魔法ではあるが、本人曰く最も使い慣れた魔法らしい。
他にも補助魔法と回復魔法が得意だから、後方支援も任せてほしいとのことだった。
そして、ミルナの能力。
彼女は主に【魔法武装】という固有魔法をメインに戦うようだ。
名前の通り、魔法の武器を用いて戦うらしい。
能力の関係上、完全に前衛向きなので、魔法を発動する際は自分に当たらないように気を付けて欲しいと言っていた。
誤爆は可能性としてはあるので、実際気を付ける。
最後に、俺。
使うとしたら、それぞれの属性の低級魔法だ。
中級までの魔法とかも使えるが、余り規模が大きい魔法は使わない方がいい。
あとはまあ少々の支援魔法。
いわゆるバフやらデバフやらといった魔法だ。
固有魔法については本当にいざというとき以外は使うつもりはない。
また、俺が魔物との戦い未経験者であることは話しておいた。
ミルナには少し驚かれたが、「じゃあ、私がカオル君のこと守ってあげるね」とキュンってなるようなことを言われた。
男女の立場が逆だったら惚れていただろう。
哀しい。
ただ、俺も対人戦の経験だったらある。
殺し合いとかではなく、模擬戦闘ではあるが。
チャンバラみたいなお遊びではなく、割と本格的な訓練だった。
役に立たないことはないはずだ。
できる限りのことはする。
足を引っ張ることだけはしないようにしたい。
それにしても、緊張してきた。
女性陣二人も強張った顔をしているが、俺ほど体を硬くしてはいない。
エルフィリアはともかく、同期のミルナがここまで自然体に近い状態でいられるのは素直にすごいと思う。
やはり、場数がちがうのだろう。
ミルナは父親がギルドの討伐員で、魔物討伐に関して色々仕込まれて育ったらしい。
何でも自分より強い同年代には会ったことがないそうだ。
可愛らしい見た目に反して、自信に満ちた声で言っていた。
「さあ、森に入りやす。しっかり頼みますぜ」
御者が大きな声で言うや否や、視界がやや暗くなる。
いよいよ森林に入ったようだ。
木々の間隔はそこまで狭くはない。
馬車が余裕をもって通れるぐらいには道幅は広かった。
足場も良好そうで、揺れがひどくなったりとかもしない。
魔物と戦っている最中に足場不安定で振り落とされたりはしなさそうだ。
ちなみに、戦闘の際はミルナは馬車の屋根の上だ。
割と頑丈な木製の屋根だから、踏み抜いて間抜けな恰好をさらす心配もしなくていい。
俺とエルフィリアは荷台の中から外の様子を伺って魔法で迎え撃つ。
余りスマートな迎撃体制ではないが、仕方がないだろう。
そもそも本格的に戦うわけではなく、あくまで森を抜けるまでの安全確保のためにすることだ。
三人。
御者も含めれば四人。
無事に森を抜けられるか、正直不安な部分は多い。
少数精鋭の理由について。
エルフィリアから説明はなされたが、やっぱり疑問に思う。
新人の俺たちに、護衛を付けることもしない。
エルフィリアが護衛なんていらないほどめちゃくちゃ強いとかだったら納得できなくもないが。
それでも戦力は多いほうがいいのではないか。
秘密にしているもう一個の理由とやらが本命の理由なのかもしれない。
町に着いたら説明してくれるんだろうか。
「……そろそろ、外にでます」
ぽっかり空いた窓から軽い身のこなしでミルナが屋根に上る。
彼女の着る白い衣服の裾が窓の上端に見えるだけとなった。
馬車は結構な速度で走っている。
馬には強化魔法がかけられているので、平均的な馬車の速度よりもかなり早い。
普通の野生動物だったらまず追いつけない。
しかし、魔物は身体能力が高いうえ、魔法も使える。
速さだけで逃げ切るのは難しいだろう。
しばらく、沈黙の時間。
エルフィリアと俺は二つある窓に一人ずつついて、外を見張っている。
上からはミルナの動きに合わせて、軋むような音が聞こえる。
準備は万全だった。
森に入ってからどれぐらいたったか。
一時間は経ってはいないと思う。
ただ、エルフィリアと屋根上のミルナの雰囲気が変わるのが分かった。
「……来たわね」
この世界には魔法があり、魔力がある。
魔力というのは生命エネルギーのようなもので、誰でもがもっているようなものだった。
魔力は、目には見えないが感じ取ることができる。
気配がする、というのは魔力の存在を感じ取るという意味だし、殺気がする、というのも魔力の感知によるものだ。
魔物の魔力は、分かりやすかった。
(……これが野生の魔物の魔力か)
相当、純粋な魔力だ。
ただひたすらに、悪意の色だけで構成された魔力。
学校の授業で見た魔物からはこれほどの魔力は感じ取れなかった。
まああの時見たのはEランクの魔物だし、今回はCランクの魔物が主だそうなので、その違いかもしれない。
落ち着いて、冷静に。
そう頭では考えるも、動揺は抑えきれない。
エルフィリアとミルナの姉御を信じよう。
エルフィリアから指示されたことを繰り返す。
俺は援護するだけ。
自分の窓側から襲ってくる魔物の数を報告して、後は誤爆だけしないように適当に魔法を撃つ。
程よい緊張が最高のパフォーマンスを生み出すと聞いたことがあるが、割とこの時の俺は過度気味の緊張だった。
「緑狼の群れ! 馬車に並走しています!」
ミルナが叫ぶ。
俺の窓からも見えた。
森の緑に隠れるような、瑞々しい緑色。
具体的な数は視認し辛いが、こういうときこそ便利な魔法の出番である。
「【鑑定】使います! 十、二十……両側に約十ずつ!」
ミルナにも聞こえるように、声を張り上げる。
初めてのパーティー戦闘だからか、なぜか敬語になっていた。
「数が多いわね……カオル君、指示は覚えてる?」
「オフコースであります」
「ふふ、何その口調」
この軽口は緊張とか関係なしに、ただの性格だ。
面白いとは全く思わないが、エルフィリアの笑みにつられて俺も笑う。
こういうのも、連携には必要だろう。
言葉のコミュニケーションは疎かにしてはいけない。
コミュ障はこの業界ではやっていけないのだ。
「さあて、腕が鳴るわね」
「近づいてきます!」
「じゃ、二人とも頼んだわよ!」
俺が右の窓で、エルフィリアが左の窓。
ミルナは屋根上で魔法で撃ち漏らした奴の駆除を担当する。
なお、彼女は遠距離の魔法は得意ではないらしい。
完全に接近戦専門だった。
緑狼の弱点は至極明快。
炎属性の攻撃が効果的だ。
だが、ここは森林地帯。
火炎魔法を使ったら山火事という災害が待っている。
だから、次点で切断系の魔法や斬撃だ。
エルフィリアの使い慣れている【風刃】なんかがそれにあたる。
俺も似たような魔法を使えるので、魔法のチョイスは決まっていた。
知識だけの存在だった『緑狼』。
実際に目で見てみると、ずっと禍々しい。
体表は木のような質感で、体毛も芋虫みたいな気持ちの悪い見た目だ。
目も充血したような赤色で、距離が離れていても目ヤニで汚れているのが分かる。
数は多い。
本当に適当に魔法を撃っていても当たりそうだ。
下手な鉄砲数撃ちゃ当たるとも言うし。
まあ、うだうだ考えてないでやってみるか。
「敵を切り裂け、【水刃】」
簡易な詠唱で、窓の外に向って水の刃を複数放つ。
草タイプに水タイプの攻撃は効果はいま一つということは別にない。
隣を走ってい緑狼のうちの一匹に直撃し、血しぶきが上がるのがはっきり見てとれた。
うへぇ、気持ち悪……。
魔物を殺すことには全くと言っていいほど嫌悪感は湧かない。
動物を殺している、という感覚ではなかった。
虫を殺すのに近い感覚。
本能的に、それが人間に害しかなさない存在だと分かっているからだろうか。
それでも、生々しいグロさはある。
慣れるまではなかなか精神的にクるものがありそうだ。
多分今の俺は苦虫を噛みつぶしたような顔になっているだろうが。
それほど状況に余裕はない。
俺は次の魔法を詠唱することにした。
しばらく応戦して、少しずつ魔物に魔法を当てるコツを掴んでいく。
緑狼だけなら割とどうにかなりそうだった。
俺の魔法でも、意外と通用する。
魔法は幼いころからずっと練習だけはしてきた。
異世界に生まれて、一番興味を引いたのが魔法の存在だったから。
魔法で、俺ツエーを体験できるかと期待して。
結局無理だった。
魔法の練習は家族とすることが多かった。
家族の中では完全にマリーが魔法に関してはとびぬけていた。
一緒に親の監視の下練習して、その才能の差に愕然として。
それでもめげずに勉強し続けたのが、今となって実を結んだのか。
思ったよりもやれている自分に驚いていた。
継続は力なり、というのは本当らしい。
そもそも魔法が使えるということ自体に満足を覚えていたので、魔法を勉強すること自体嫌ではなかったからな。
戦闘面に関しては卑屈な気持ちがあったが、ちょっとは自信を持てそうだ。
俺の担当している馬車の右側に並走していた緑狼は大体片付いた。
Cランクの魔物の群れを一人で一掃できるぐらいには俺の魔法の威力は高いらしい。
はっきり目に見える成果として、自分の実力がそこまで低くないことを初めて自覚できた。
「すごい! カオル君、全然強いじゃん!」
屋根の上から感嘆の声が降ってきた。
ちゃんと聞こえるように怒鳴るような声で言われたので、こちらもお礼で怒鳴り返す。
「どうも!」
「エルフィリアさんの方も終わっちゃったし、私の出る幕なかったよもう!」
見当違いな文句に笑ってしまう。
もちろん冗談だろうが、一応謝っておいた。
エルフィリアの方を向く。
すると、ちょうど最後の一匹を風の刃で切り裂いたところだった。
ヒュンッ、という音に合わせて、緑色の体が真っ二つになる。
流石、鮮やかな手腕だ。
何だろう。
Cランクとはいえ、意外と大したことがない。
まあでも、多分こっちが一方的に攻撃できる形だったからだろう。
移動は馬車に任せて、俺たちは攻撃に専念できた。
他方で、緑狼たちは俺たちを追いかけるので精一杯。
知能も大したことがないらしく、魔法とかで攻撃してくる様子もなかった。
予想以上に順調な出だし。
これなら、何事もなく森を抜けられるかもしれない。
緑狼の群れがいなくなって、ホッと一息ついた時だった。
「キャッ!」
ガタンと馬車が大きく揺れる。
同時に屋根上から悲鳴が上がった。
「ミルナさん、大丈夫!?」
「は、はい! それよりも!」
心配してエルフィリアが声をかけると、返事がちゃんと返ってきた。
どうやら馬車から落ちたりはしてないようだ。
ただ、今の揺れの原因。
それが問題だった。
「何かが木伝いに馬車を追ってきています! 今のは多分そいつの攻撃です!」
緑狼以外に報告されているCランクの魔物はイビル・イーグルと、鉄蟷螂の二種類。
どちらも猿のように木を伝って移動するという習性はないはずだ。
となると、また新しい魔物か。
馬車に攻撃を受けても、ある程度までだったら耐えられる。
エルフィリアの結界魔法の効果だ。
それに、御者がうまく馬を操って体勢を素早く立て直したため、今の攻撃で被害はそれほどなかった。
しかし、今度の敵は緑狼と違って姿が見えない。
馬車よりもさらに速く動いているみたいだ。
知能も高いのか、ただ直進して並走するだけでなく、時々馬車の前方を横切ってこちらを撹乱しようとしてくる。
ここまで動きが速いと【鑑定】を使って敵の位置を割り出すこともできない。
あれは視界に一定時間入っているものでないと対象にはならないのだ。
しばらくすると、また馬車が揺れる。
今度はさっきよりもクリーンヒットしたらしい。
馬車の荷台の後方が弾け飛んだ。
降りかかる木の破片が、焦りを生じさせる。
このままだと、まずい。
さっきの緑狼とは立場が逆だ。
敵の正体は分からないが、石礫を用いて攻撃してきているっぽい。
ただの小石ではなく、魔力によって投擲に威力が加算されている。
拾い物の石を投げつけてきているのかは分からないが、もう一回り石のサイズがデカくなったらいよいよヤバいだろう。
くそ、原始的な攻撃だが、その分防げないと非常にダメージが大きい。
エテ公が調子乗りやがって。
歯がゆく感じるも、俺たち三人は断続的に飛んでくる石礫をはじき返すことぐらいしかできなかった。
とはいえ、これはこれであっちからも決定打がない。
このまま森を抜けるまで耐えきればいけるだろう。
だが、人生はそれほど甘くはなかった。
「ぶつかりやす!」
いや何にだよ。
そう思ったときにはすさまじい衝撃が身を襲い、一瞬視界が暗転しかけた。
ドンガラガッシャン、どころではない転倒音と、破砕音。
いつの間にか俺は地面に横たわっていた。
幸い、軽く頭を打っただけだった。
あとは少々のかすり傷を負った程度。
だが、他の二人は違った。
一番近くにいたエルフィリアは、意識を失っていた。
強く頭をうったりしたのか、呼吸だけはしている。
こっちはまあ、心配いらないだろう。
気付け薬代わりに、横転した馬車の中から取り出したクソ苦い薬草を口の中にぶち込むと、すぐに目を醒ました。
もう一人の方。
ミルナはうつぶせに横たわっていた。
けがをしているのがすぐわかった。
何故なら。
じんわりと。
彼女の接している地面が赤色に染まっていったから。
まさか。
息はあるのか?
人が目の前で死ぬという経験は、したことがない。
魔物に襲われたら、命を失う可能性はあると頭では思っていた。
しかし、心の中では十分覚悟しきれていなかったということを、ミルナの鮮やかすぎる血の色を見て理解する。
ミルナの安否を、いや、安の要素はすでにないから、生死の確認を。
する前に、もっと絶望的な状況が俺たちに降りかかる。
「ぅアアアア゛……」
ゾンビのような声が、上から降りそそぐ。
生気の感じない声は、その実体にさえも存在を感じさせない印象を与えていた。
感じ取るのがギリギリなほど薄い魔力。
ところどころむき出しになった筋肉繊維と、骨組織。
三メートル近い巨体。
そして、最大の特徴ともいえる頭の代わりと言わんばかりのラフレシアのような花。
冷や汗が流れるのがはっきりわかる。
魔物図鑑で見たことはある魔物。
その知識が正しいものかどうか、念のため【鑑定】をすると、頭に情報が流れ込んできた。
種族名:腐花猿
ランク:A
(ステータス)
体力:D
攻撃力:S
防御力:E
魔法攻撃力:E
魔法防御力:E
速度:A
最悪の、状況だった。
字数が爆発しました。
またあとで字数削減の工夫するかもしれません。
ご勘弁を。