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3/14

部活動3

作者は、主人公、草加のうだうだした思案やキャラクターの細かい仕草がわりと好きですね


ライトノベルとしては、蛇足で斬る捨てるべきところなのでしょうけれど。



3



 翌日の放課後、部室へ行っても四枝さんは来ていなかった。これは帰るしかない。そう思ったけど、足はリコさんの家の近所に向かった。後から、犬を失くした責任を押し付けられ、探さなかったと非難されるのもしゃくに障る。


 今日は温かくいい陽気だった。河川敷で野球をしている小学生や川まで飼い犬を連れて散歩に来ている近所の住民がいた。立ち上がって、散歩している人の犬を観察していると、僕の方へ向かって女の子が歩いてくるのに気がついた。


「あ!」


 今は、肩まで伸びた髪を頭の後ろへピンでまとめ上げているけれど、あの意志の強そうなはっきりとした目鼻立ちには身に覚えがある。二日前、窓から僕たちを見下ろしていた赤間リコだ。


 彼女は、足を止めないで、僕に言った。


「待ち伏せしたって、学校へは行かないわよ」


「違います。僕は、犬がいなくなったから探していてですね」、彼女の後をついていく。


「この前、あなたの家で四枝さんがあんなことするもんだから、怯えて逃げちゃったんですよ」


 彼女は誤解をしているようだし、四枝さんの代わりの犬を用意するという間抜けな考えが判明して、さらにひどい状況にならないように正直に話した。できれば、彼女にも犬探しを手伝って欲しい。


「犬なら家にいるわ」


「え!ほんとですか?」


 どうして、もっと早く言ってくれない?四枝さんのことを相当、根に持っている証拠だ。


「それで…どうしましょう?」


 彼女はカーゴパンツの尻のポケットから鍵を取り出して僕の鼻先にぶら下げた。


「あたしの部屋にいるから学校につれて帰ってあげて」


「わかりました。家には誰かいるんですか?」


「誰もいないわ」


 無用心な人だ。初対面に近い僕に自分の家の鍵を渡して、なんとも思わないのか。それに、女の人の部屋に男一人が勝手気ままに入っていいものだろうかどうか。


「鍵はポストに入れておいて」


「今からどこへいくんです?」、見るから彼女は、荷物はもっていないし、履物だってサンダルだった。そんなに遠くには行かないに違いない。


「あなたには関係ないことよ」


「僕一人でいけませんよ。そんなに時間がかからないなら、ここで待ってます」と言って、僕は彼女にキーを返した。


「馬鹿ね。雨が降るのに」


 それを聞いて上を見たが、雲はあるものの快晴だ。


「え、晴れてますよ」


 彼女は黙った。気まずい。だが、話を続ける。


「そういえば、あなたは、どうして飼育部へ?」


 彼女が話さないものだから、僕は、四枝さんが、入学式に学校の正門で易者の格好をしていた時のことを話して聞かせて、それから、自分の手相を見せた。手のひらの対鏡線を差すと彼女は、「どうせデタラメよ。あたしにはそんなものないもの」と切って捨てた。そして彼女は、自分のときは、易者姿ではなかったし、普通に制服を来て飼育部のプラカードを掲げていたという。彼女はそれを見て、動物の世話ができると思って飼育部に入ったということを話して聞かせてくれた。そして、飼育部の部室を先生に尋ねた時、おかしな用紙を届けられたところは同じだった。


 鏡についても聞いてみた。僕は、朝に鏡に自分の姿が映らなくて、身だしなみを見るとき困らないかと。それにしても、彼女の髪はしっかり整えられていたし、綺麗だと思った。彼女はその解決方法を知っていた。鏡に赤いフィルムを張ってやれば、自分の姿は見えると言う。原理ははっきりしないけど、実用的なことはそれで間に合うらしい。


 歩きながら話して、橋を渡り、商店街にたどり着いた。ここは学校に近いから下校途中の生徒もちらほら見える。アーケードの中を進み、いくつかの商店を通過してまた質問した。


「買い物ですか?」


「もう帰って」


「ここまで来たら付き合いますよ。荷物持ちますし」


「いいから!」


 リコさんは家の鍵を僕へ押し付け、急に大きな声を出した。話し方にはとげがあるが、それは悪意があってのことではないのは十分理解できた。ついさっきは、あんなに優しく自分を鏡に映す方法を教えてくれたのだ。何かを案じている心が強いという感じだった。彼女が行ってしまうのを僕は突っ立って見送った。


 横にあるゲームセンターから物音がした。僕と同じ制服を着た男が、店先のゲーム機を蹴った。腹立たしさを物にぶつけている。まずいことにその二人の男は、学校で犬に石を投げて遊んでいた三人の内の二人だった。当然、向こうも僕のことを覚えていたようで、怒りをこっちにもってくる。


「あ、お前、この前のやつ」


「なに眼くれてんだ、てめー」


 一人が、ずいぶんエキサイトして、僕の胸倉をつかんで、がなった。もう一人の方は薄笑いをして僕の反応をうかがっていた。


「音がしたから見ただけです」


 僕はうろたえて、言った。


「舐めた口きいてんじゃねーぞタコ」 


 二人がかりで路地に僕を引きずりこんでいく。


 すると、ゲームセンターの斜向かいにあった薬局のマスコットのプラスチックのカエルの人形が、彼らの背後に飛んできた。カエルは、体全体で男の頭をなぎ払い、もう一人の男も殴り倒した。完全に不意をつかれて、動けずにいる。僕も驚いて硬直した。


 威勢のいい金髪のほうが、立ち上がってきたので、リコさんが、二度ほどカエルがくっついている土台をぶつけ、やつの顔を地面に叩き潰し、それから腹に三回蹴りを入れた。


「逃げるわよ!」


 止めに彼女は、カエルを丸ごとやつらへ投げつけた。僕たちは、全速力で商店街のアーケードを駆け抜け、信号を無視し、次々、路地を曲がった。さびれた小さな公園にたどり着き、滑り台の陰へ身を潜め、息を整えた。僕は、息が切れ切れになりつつも、リコさんがカエルを振り回して面食らっていたやつらの表情を思い出して、おかしくなった。リコさんも僕につられて、笑っている。


「あの顔見ました?あーおっかし」


 笑みもつかの間、彼女の表情がけわしく変わり、僕を怒鳴りつけた。


「あんた、なんであんなところでからまれるわけ!」


「四枝がどこかにいるんでしょ!あいつのやりそうな手口!」、リコさんは滑り台にのぼって、近辺をぐるりと見回した。


「なにを言われてきたの?」


 滑り台を降りて、僕に詰め寄ってくる。


「あの…僕はただ犬をですね」


 あたりが暗くなってきたので、空を見上げた。日が暮れるのにはまだ早い。濃い灰色の雲が流れ込んできた。風下の方は日の光が漏れている。視線を下ろすと、リコさんがその場でうずくまっていた。彼女は頭を押さえて滑り台の主柱にもたれていた。


「だめだめだめ…ここじゃ、だめ…あなたのせいよ…」


 彼女は泣きそうな声をして言った。


「頭が痛いんですか?」


「早く帰れっていってんでしょうが!」


 また怒鳴られた。しかし、体調が悪そうな上にこの情緒不安定ぶり、放って帰るわけにはいかない。


「そんなに怒鳴らなくったって…気分悪いんでしょ?帰りましょうよ」


「だめ。ここから離れなきゃ、たくさんいるわ、人も家も」


 彼女は立ち上がろうとしたが、しっかり膝を伸ばせず、座り込んだ。首筋に汗をかいている。彼女が何を気にしているのかわからない。


「どこへいきたいんですか?」


 深い沈黙。彼女は何かを考えているようだった。


「あたしをおぶって」


 リコさんを背負うこと自体はよかったのだが、彼女は家に帰りたがらず、僕に行き先を指示した。病人らしいので、始めは強引につれて帰ろうとも思ったが、彼女の言う道を外れようとすれば、髪の毛を引っ張られた。こんなに小柄で体重の軽い女の子であるはずなのに―二人の不良を殴り倒したことが信じられない―気性の荒い人だ。もし彼女が女ではなかったら、即座に怒って帰っていた。あと「可愛くなかったら」も付け加えたい。


 大通りを歩いているうちに小雨がぱらついてきた。彼女が言っていたとおり雨が降った。僕はそれをまた引き返す口実にしたけれど、彼女は聞く耳を持たなかった。彼女はこれにあきたらず、さらに走れと命令した。


 通りの脇に木々の生い茂った山があった。山というよりは、小高い丘みたいだった。側道に入り込み、山の案内図と駐車スペースを行き過ぎた。ひと気はない。彼女を背負って一キロくらい進んだのでさすがに疲れてきた。足が止まりそうになる。しかし、お構いなしに彼女は僕を山奥へと急がせた。リコさんを背負って初めの頃は、僕の背中に胸が当ることを気にして腕を置いていたのが、今では、僕の首筋にしなだれかかってきて、自分の苦痛と戦っているようだった。病人に下心を抱いている場合ではない。すぐ止むとも思ったが、雨が本降りになってきた。この雨だと余計に具合を悪くしてしまう。


「リコさん、いい加減にしましょう」


「わけは後で話すから、行って、はやく」


 暗雲が、ごろごろと鳴り始めた。僕は、足を止めた。駐車場に屋根のある休憩所があったはずだ。きびすを返すと、リコは僕の耳をつねった。


「おろして。あっちいって、できるだけ遠くに」


 僕の背から降りて、山道の脇の藪の中へ入っていった。僕は、雨を受け、しばらくそこに突っ立っていたけれど、心配になって後を追った。雷鳴がとどろいている。藪をかきわけていき、木の生えていない窪地に出た。僕のいる窪地の先の太い木にリコさんが抱きついているのが見えた。僕は窪地に降りた。制服が泥だらけだ。リコさんは僕が寄ってくることに気づいて叫んだ。雨音のせいでよく聞こえない。辛うじて、雷、お願いという言葉だけが聞こえる。


 その瞬間、ものすごい轟音が耳をつんざいた。白い光が視界を覆った。僕は後ろを振り返った。山のどこかに雷が落ちたのか?耳がキーンと鳴った。暗雲は、ごろごろと電気をたくわえている。


 前を見ると、リコさんが消えていた。ここは危険だ。僕は低い木の枝をつかんでくぼ地から這い上がった。リコさんはどこへいったのだろう。雲が、うるさくて仕方がない。頭から伝ってくる雨水を手の甲で拭った。

 木の下になにかへばりついている。このカットソーはリコさんが着ていたものではないか?


 拾うと、ひらりと地面に落ちる布が一枚…おいおい、これって、パンツだよな。女物の。リコさんは真っ裸ってことか?なぜ?そう思った時、僕は、目の前が真っ白になって、足元のくぼ地に転げ落ち、意識が飛んだ。







 体の節々が痛い。まどろみの中、寝返りを打つのが億劫だった。喉がからからだ。薄目を開けた。自分は、明るい広い部屋でベッドに寝かされていることがわかった。隣に誰かが座っている。僕のまばたきするところを見て、母は慌てて、先生を呼びに行った。仕切り用のカーテンが揺れていた。


 医者は、ペンライトで瞳孔を見て、形式的な触診をした。背中が、がむずがゆくて掻こうとしたら、医者に止められた。火傷をしているから、触れてはだめだと冷淡に言った。僕は、ぼんやりと先生を見ていた。


「外傷は軽いですけれど、記憶障害があるかもしれません。とりあえずは、二、三日入院ということで様子を見ましょう」


 クリップボードに何か書いて、医者はさっさと共同の病室から出て行った。


 肘の関節の皮膚にも火傷の跡があった。枝分かれした形をしていて気持ちが悪い。母は訴えるようにして僕を見た。


「いったいなにしてたの!?あんた雷に打たれたのよ?」


 僕はその質問には答えず、目をつむった。体が痛くて口を動かす気になれない。それから親父が来て、僕と二言三言言葉を交わし、母を連れて帰った。




 向かいのベッドにいるおじいさんの咳がうるさくて目が覚めた。どうやら一日じゅう眠っていたらしい。どこもかしこも軋むような痛さだ。足が張っていて、動かしづらい。でも、立てないわけではない。下半身の風通しがいい。いつのまにか患者着を着せられていた。恥ずかしい思いもあったが、尿意があったので、歩かないわけにはいかない。ベッドから降りると、向かいのおじいさんに話しかけられた。僕は、大丈夫ですと言った。力ない足取りでトイレを探して、用を足して帰った。手洗い場の鏡を避けて、手を洗わなかった。医者には、ばれてないみたいだ。


 ナースステーションにかかっていた時計は、十二時をさしていた。ベッドに戻ったら、看護婦さんに勝手に出歩くなと怒られた。用があれば、呼び出しボタンを押してくれということだった。朝に母が来ていたらしく、着る物の入ったカバンがベッドの下に置いてあることも看護婦さんは教えてくれた。そのあと、昼食を運んできてくれた。


 食事を済ませ、僕は小一時間ほど、腕の火傷を見て過ごした。そういえば、母さんが、昨日雷がどうとか言ってたな。雷に打たれたのか。落ち着いて考え始め、もしかすると死んでいたかもしれないというところまで考えが行き着いて、心臓の鼓動が高鳴った。やばかった。


 やがて、四枝さんが飄々とやってきた。


「よ。調子はどうだ」


「わかりきったこと聞かないでくださいよ」


 卑屈な思いだった。


「しかし君は大したやつだな」


「なにがです?」


「リコに借りを作ったことだよ」


 四枝さんがなんについて話しているのかがわからない。彼女と山に行った事は思い出せるがそのほかの細かいところが頭に浮かばない。


「おおよそのいきさつは、聞いている」


「はあ…」


「覚えてないのか?」


「あんまり」


「あいつの雷に打たれたことはわかるよな?」


「あいつってだれです?」


「リコだよ。大体、雷はあいつをねらって落ちる。聞かなかったのか?」


 僕は、四枝さんの言うことが飲み込めない。


「君は、木に落ちたやつをくらったらしいな。今朝、落っこちた木を見てきたけど、丸焼けになっていた」


「リコさんもここに入院してるんですか?」


「入院してない。そう考えるのも無理はないか。他の人間には、災難だが、あいつには、雷がいい薬だから」


「思い出しました。リコさんの具合が悪かったんですよ。それでも、あの人、山に登れって。どうしてるんですか?」


「家じゃないか?そのうち、くるよ。責任感じているみたいだしな」


「責任?」


「そうだ。あいつが前々から俺の忠告をもっと聞いていれば、こういうことにはならなかったんだ」


「リコさんの雷…」


「側雷撃でよかったな。直撃だと、たぶん死んでたぞ」


 四枝さんは、笑って言った。


 彼と話している間に、母が病室に入ってきた。なにかと現実離れしたことばかり言う四枝さんが母と社交辞令の挨拶をかわしているのを見ると変な気分になった。


「気失ったあんた運んできてくれたのよ。ちゃんとお礼を言いなさい。一緒に居た女の子なんか泣いて心配してくれて。もう!ぼけっとして!ごめんなさいね」


 ぼけっとしてって…傷が痛いんだから、当たり前だろ…


 僕は、感謝の言葉を四枝さんに言った。一緒に居た女の子というのは、リコさんだろうな。母は、四枝さん相手に、最近の天気は怖い、異常気象だなどと、どうでもいいことをしゃべりまくった。彼は、ニコニコしているのだが、どこか落ち着かず、居心地が悪そうだった。


「それでは、失礼します」


「あら、そう?本当にありがとうねえ」


 帰ろうとする四枝に母は財布から札を取り出して、彼の手の方へもっていった。四枝さん、は困った顔をした。しかし、母は、金を受け取らせるまで引かなかった。仕方なく、彼は金を握って出て行った。


 でも少ししてから、彼は戻ってきた。病室には入らず、開けっ放しの入り口に立って、封筒を指差し僕に目配せした。僕のベッドから入り口は近いので、よく見える。母は入り口に背を向けているので気づかない。それから、封筒を入り口の隣の壁に立て掛けた。


 彼は僕に鼻の穴を広げて舌を出す表情を見せてから、どこかへ行った。僕は、それに噴出した。


 封筒にはマジックペンでここの病室の番号と僕の名字がはっきり書かれていることが、ベッドからでもわかった。おそらく封筒にはさっきの金が入っているのだと思う。不思議な人だ。


 母から聞く分に、僕は雷に撃たれた後、四枝さんの手によって病院に運ばれてきた。僕の家に電話したのも四枝さんということらしい。たぶんリコさんが気を失っている僕を見つけて、四枝さんの助けを呼んだのだ。リコさんは泣いていたのか。僕は、なにも事情を知らなかったから、馬鹿なことばかりして、結果的に彼女を困らせてしまったのかもしれない。


 夕方、母は帰宅して、僕は四枝さんの置いていった金の入った封筒を拾った。入れ違いにリコさんが来た。彼女は制服を着ていた。けわしい顔をして、上着のポケットに手を突っ込んでいた。僕は、挨拶したけれど、返事がない。怖い。


「ごめんなさい」


「はい?」、態度と言葉がちぐはぐだった。


「謝ってるの」


 彼女はどうやら、謝ることに必要以上に気負い立っているからか、そんなけわしい表情になるみたいだ。疲れるので、謝るのは止めにしてもらいたかった。


「制服着てますね」


「学校に行ったのよ。犬を返しに」


「ああ、犬のことすっかり忘れてました」


 彼女がずっと立ったままなので椅子をすすめた。


「あんまり気にしないでください。ほら、助かってますから」


「本当に殺しちゃったのかと思ったわよ…」


「なんというか、四枝さんからは、すこし聞いたんですが、いまいちピンとこなくてですね…ほんとうなんですか?雷がどうとか」


「本当。あの時、あなたを信用して早くいっておけばよかったわ」


 それはそうだが、僕はそんなことをまるまる信じたかはさだかではない。今は実際に雷に打たれたというめずらしい経験をしたから信じるにたることであって、本来、にわかに受け入れられないことだ。


「それで、リコさんは大丈夫なんですか?打たれた時、僕の近くにいたのなら」


「あたしは、ビリビリきてもなんともないのよ。笑っちゃうでしょ?」


 いや、まったく笑えないと思った。


「雨が降ると毎回そんなことが。その…雷がおっこってくるんですか?」


「毎回ってわけじゃないけど、最近は周期が読めてきたわ。あたしのまわりに来そうな雷は、落ちる前にわかるの。吐き気とか悪寒がしたり」


 なるほど、雷と雨は、セットでやってくる。気分が悪くなり、それに付随して、あの時は、雨が降ることが予測できたわけか。そうなると、体調が悪くなるたびに、昼も夜も外に出て空模様をうかがってなくてはいけないし、そんな生活が中心になれば、学校どころではない。雷がくるのをずっと気にして、おちおちゆっくり家で寝てもいられないのではないか。僕はリコさんに同情した。


「どうしてそんなことに?」


「あの旧校舎の鏡になにかされたのよ。四枝の言うことを百パーセント信じるとそうなるわ」


「待ってください。リコさんは鏡に自分の姿、映らないんですよね?」


「ええ、普通の鏡でも映らないわ」


「それでその…おかしなことになっちゃったんですよね?」


「これは、呪いよ」


「僕は、おかしくなるのは、鏡に自分の姿が映らないだけだと思ってたんですよ…」


「あなたにもきっとなにかあるわ」


「僕にも雷が?」


 僕は、人をあわれんでいる立場になかったことに気づいた。四枝さんの考えが徐々にわかりかけてきた。


「それはどうかわからないけど…四枝に、はめられたわね」


「僕には、あの人がそんなに悪い人に思えないんですけど…」


「わたしたちをこんな目に合わせて遊んでるにきまってる」


 四枝さんは、リコさんと仲違いしたものだから、つぎに、僕をおかしなふうにさせて鏡を壊そうとしているのかもしれない。


「でも、鏡を壊せば、治るんですよね?」


「それもデタラメだったら、どうするの?」


 あのおどけた顔の四枝さんを思い浮かべた。彼は「直撃だとたぶん死んでたぞ」と言って笑ってもいた。僕には、わからなかった。





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