新生飼育部3
昨日、ミラーブレーカーズに、はじめて、ポイントが入りました。うれしい。
ブックマークをしてくれた方、ほんとうにありがとうございます(^^)
できれば、直接お礼を言いたいのですが、作者のような変人と言葉を交わしたくない気持ちも大いにわかりますので、無理にどこかへ書き込めとは言いません笑
さて、そろそろ、この回で、バトルが始まるようです。矢来の言動も支離滅裂具合に拍車がかかってきます。
3
店を出て駅から北へ、矢来が歩いていく。僕たちは、黙ってついていった。この辺りは、僕がリコさんを負ぶって山林まで行った道筋なので、知っていた。
水上さんが、みんなに言った。
「誰かのお家にいくんですか?」
僕は、先頭を歩く矢来を見たが、答えなかった。僕は、首をかしげた。
「どうして、そう思うの?」
「みなさん、鍵の話をしてませんでした?」
それはそうなんだけど。
「広くて動きやすいところにいく」
矢来はへらへら笑って言った。
矢来が、向かうその先には、大型スーパーマーケットがあった。地面をアスファルトで固められただだっ広い駐車場に入った。ほとんどの車は、店の出入り口近くに固まって、停まっている。
一台だけ、駐車場のど真ん中にポツンと停まっている車があった。これは、買い物客のものではないだろう。従業員駐車場は、ここから反対側にあるし、わざわざ、フロントガラスの内側に日よけが張ってあった。
駐車場は、すこぶる風通しがよかった。駐車場の柵の向こうには細い川が流れていた。生活廃水用の水路だ。
「さて、さっきの続きだ。リコちゃん」
矢来は、マスターキーをリコさんに差し出した。
「あんたは、もう刺したの?」
「ああ。別に化け物なんかになってないだろう?体調も抜群だ」
リコさんが、矢来からマスターキーを受け取った。僕は、さりげなく矢来のそばにいた。やつの姿は人間だが、中身はどうだか。
リコさんが、アイコンタクトしてくる。
僕は、息を止めた。どうせ息ができなくなるのなら、始めから止めよう。力を使って殴られるだろうか?死んでしまいたいくらい痛いかもしれない。僕の力が、傷を治してくれることを信じてみて、身が吹っ飛ぶことを覚悟しても、物怖じせずにはいられない。
僕は、矢来につかみかかった。捕まえたけれど、リコさんが、パラライザーを当てる前に矢来が、空高くジャンプした。僕は、振り落とされないように矢来にしがみつき、二人いっしょに空中に浮きあがった。
リコさんの背後へと矢来は着地し、僕は、その衝撃のせいでやつから手を放し地面に転がった。リコさんは、パラライザーを持ったまま、僕たちを見て、自分が失敗したことを悟った。
「お前らは、ほんとうに、わかりやすいのな。トイレでなにか口裏合わすことくらい誰だってわかんだろ。俺がどうして、わざわざ草加くんの胸ポケットにそいつを差したとおもってんだ。トイレに戻ってきて、なくなってりゃ、何かしてくるって嫌でも気づく」
それは、そうだが、僕は、パラライザーをもう一つ持っていた。昨日、雨に濡れて、使えなくなったと思っていたやつだ。僕は、それがまた動くようになったことをトイレで確認していたのだ。
「くだらんおもちゃで俺をのそうなんて、四枝の無謀な入れ知恵に過ぎないのよ。俺と対等になりたいんだろ?なら使え。マスターキーを自分に刺せよ。喜んで相手になるさ」
僕は、立ち上がりたかった。しかし、それを矢来に見られたくない。リコさんがマスターキーを刺すふりをしてくれれば、矢来の注意がリコさんに向けられるはずだ。リコさんは、マスターキーを逆手に持った。
すると、機械が唸るような音がした。僕は、パラライザーに手も触れていない。上着のポケットにある。
「なんだ?」
矢来は、僕の顔を見た。
どうして、こんな時に!
そして、またブーっと震えるような音がした。水上さんが、ポケットから携帯電話を取り出して、言った。
「わたしじゃないですよ?」
携帯だ。リコさんは、固まっていた。どうすればいいか、まったくわからないようだ。次ぎは、ブーという音が一、二、三と続いた。
その鳴り方は、日曜日に四枝さんと打ち合わせした電話の合図だった。リコさんの方から音がすることに気づいた矢来は言った。
「取らないのか?」
その合図を知っているのは、僕たち、三人しかいない。四枝さんが旧校舎から出たのか。矢来は、怪しがっている。
「誰からだい?」
「誰だっていいじゃない」
「電話、みせてくれないか?」
マスターキーは今、リコさんが持っている。僕が、パラライザーを矢来にかまして、みんなで逃げられることが出来たら、あとは四枝さんがなんとかしてくれる。
「女の子のケータイ、見たがるなんて、あんた変態じゃないの」
これには、矢来も堪えたようだった。頭を掻きむしった。
「あー、もういいや。めんどくせえ」
軽トラックが、駐車場に入ってきた。僕たちが、話している間にも、スーパーの客の車が、入ってきたが、入り口付近で駐車した。僕たちのいる奥まったところまでは、こない。しかし、この軽トラックは、僕たちに向かってくるように駐車場を走った。
僕は、立ち上がって、その車の動きを目で追った。リコさんも、水上さんも、矢来も、同じようにした。軽トラックは、駐車線を沿わずに斜めに止まった。
運転していた人物が、降りてくる。和服姿を見て、僕は、安心した。四枝さんが、来てくれた。けれど、いつもの四枝さんとは様子が違って見えた。
矢来が、冗談めかして、言った。
「誰だ?てめえ」
風を切る音が微かに聞こえる。なんだろう?
「矢来から離れろ」、四枝さんは言った。
僕たちが、一歩も動けない内に、ものすごい音とともに地響きがして、矢来は、駐車場の中央に止まっていた車の上まで、吹っ飛んで行った!
駐車場に何か大きなものが落ちてきた。
それが、地面へ斜めに突き刺さっている。鏡のようにつやつやで、光沢のある尖った金属の槍のようだった。槍といっても、人が振り回せるような、大きさではなかった。全長五メートルはあろうか、平らで野太い。
僕のいる、ほんの二、三メートル先が、その槍によってアスファルトを砕き、大きなひびを入れて、土をむき出しにしている。水上さんとリコさんは、悲鳴も上げられずにぼうっと突っ立って槍を見つめていた。僕は、腰が抜けた。
矢来は、フロントガラスにめり込んだ自分の身体を起こして、服についたガラスを払った。
「てえーな!」
ちゃらちゃらと、ガラスが地面に落ちる。車のルーフ前方は、矢来の身体の形に、潰れていた。矢来は、槍を避けるために自分で車まで飛んだらしかった。
「邪魔しやがって!あとちょっとでリコちゃんが落ちたってえのに!ちくしょうが!」
乗用車のボンネットの上に佇んで、四枝さんを睨みつける矢来。
「ごっこ遊びは仕舞いだ」
四枝さんは、靴を履いておらず、足袋で地面を歩いた。てくてくと涼しい顔をして、銀色の槍の側へ。
「ごっこ遊びだ?言ってくれるぜ。始めにお前のゲームに付き合わされたことを忘れんじゃねえ。俺のやり方で何を始めようが、お前に言えたことか」
「お前は、病気なんだ。力に使われている」
「だから、なんだってんだよ…へへ、へへへ…泣きついて、詫びろってえのかよ。お楽しみをふいにして」
「昔は、ちがったろ」
「お前のおかげで、今の俺がいるんだぜ。鏡に、自分の姿がうつらねーってのは皮肉なもんだよナ、四枝。他人を通してでしか、自分がわからないなんてのは。へへ、俺に昔のお前を見ながら、俺を殺すか?」
四枝さんが、大きな銀色の槍に手を触れた。槍は、四枝さんの手が触れた部分へと急速に収縮し、バスケットボールくらいの大きさの球状になったと思ったら、更に変形して、先の尖った十字架になった。リコさんが今、持っているマスターキーとまったく同じ姿形をしたものだ。変形のせいで熱を持ったらしく蒸気を放って四枝さんの目の前を浮かんで、横切っていく。
矢来は、四枝さんのマスターキーの変形を目の当たりにして、笑った。
「いいね。最高だ。待った甲斐があった。やるか」
「ああ、これ以上、話すこともないだろう」
「ちょ、ちょっと待って」
一触即発のところ僕は、口を挟んだ。矢来が、そんなうろたえた僕を見て口の端を歪ませ、ズボンのポケットに手を突っ込んだ。数枚の硬貨を取り出して手の中で弄ぶ。
「ええい、しゃーねえか」、持った小銭を空中に放り投げ、その硬貨に向かって拳を放った。拳によって巻き起こった突風が、硬貨を弾丸のように勢いづかせて水上さん方へ飛んでいく。
だが、しかし、その前に四枝さんが、反応していた。彼の前に浮かんでいたマスターキーが回転しながら平べったく円盤型に膨脹し、水上さんの前へ割り込んで盾になって硬貨のつぶてをさえぎった。マスターキーの盾は、またしてもアスファルトに刺さって固定された。
その隙に矢来は、ボンネットからリコさんの方へ飛んでいた。
彼女を肩で担ぎ上げ、川と駐車場を隔てるフェンスの上へと飛び乗る。
四枝さんの注意を水上さんに向けさせて、その隙にリコさんを捕まえた?
「マスターキーが、俺の手元にもなきゃ、勝負する意味ないだろうからさ」
リコさんは、矢来から逃れようと暴れた。やつは、上着を脱いでいて、リコさんの上半身にそれを被せていたから、思うようにいかない。それでも叫び声が漏れてくる。足をバタつかせて、スカートの中が丸見えだ。
「まったく!うるさいかみなり娘だ!」
矢来がそう言うと、リコさんの声がしなくなり、足のバタつきも弱まっていった。
「あなたって人は!女の人には優しいと思ってましたよ!」
四枝さんが盾を元の形に戻したら、その向こう側で水上さんが座り込んで放心している。
リコさんも矢来の肩の上でぐったりして、動かなくなった。まさか。息をできなくされたのか?
「リコさんになにをしたんです?」
「ちょっと眠ってるだけだって。しっかり、考えてる。要は、常勝してこそヒーローだろ?出来る限りのことをして勝つ。今の俺が、カミカゼへの至る道は長く厳しい。これからだ。学校にも、四枝にも、なにものにもとらわれない正義を作るんだ。なりたいものになるために何が必要なのか。草加くんも、もうすぐわかる」
矢来は、むき出しになった卍のバックルのベルトを指でコツコツと叩いた。『宇宙武者カミカゼ』に彼がこだわっていることは知っているが、やっていることは、むちゃくちゃだ。
「わかりませんよ!」
「俺がやつを倒せりゃさ!」
矢来が、四枝さんに向かって突進していった。気圧の変動で、鼓膜に圧がかかった。四枝さんは、マスターキーをまた野太い槍へ変形させて矢来を迎え撃つ。
槍を横薙ぎして、矢来を跳ね返した。
矢来はリコさんを担いだまま攻撃してきたので、四枝さんは全力を出せないでいるようだ。
四枝さんは、矢来の第二撃が来る前に上へ向いて構えたが、やつは、後ろ向きに空中を走って上へ上へと遠ざかっていった。だいぶ離れると、くるっと背を向けて空へ昇っていく。
あれ?リコさんを連れて逃げた?
僕が、宙を仰いでいるうちに、四枝さんは、マスターキーを板の形に変形させていた。彼が、その上に乗り、和服の裾をはためかせ、かっ飛んでいった。
信じられない光景だ。ものすごいスピードだったので、すぐにでも矢来に追いつくと思われたが、ちょうど、僕たちの上には、太陽の光を覆い隠すほどの分厚い大きな雲があった。矢来は、その中に飛び込んで見えなくなってしまう。四枝さんも雲に突入して消えた。僕は、じっと雲を眺めていた。矢来も四枝さんも出てこない。
しばらくして、ピカピカ輝くボードが地上に降りてきた。
「矢来は…」
四枝さんは、マスターキーを元の十字架の形に戻し、怒鳴った。
「逃げられた!すぐ追わずに外から雲を見ていれば!」
雲の中を飛び回って、濡れた髪の毛を振り乱し、矢来がつぶした乗用車のボンネットによっていった。着物の懐から、名刺を出して、ワイパーに挟んだ。僕が、見ていると彼は言った。
「おまじないだ。車の持ち主を、警察が丸め込んでくれる」
自分の乗ってきた軽トラックに駆け込む。
「君たちも乗って」
僕たちは四枝さんの車に乗った。
水上さんは、車に揺られて夢心地の状態だった。空ろな目をして真っ直ぐ前を向いている。僕は心配になって声をかけた。
「水上さん」
返事がないので、もう一度、言った。
「は、はい?」
「大丈夫?怪我は?」
彼女は、僕の目を覗き込んで言った。
「草加さんは、空飛べるんですか?」
「飛べないよ」
僕は、さっきの出来事を彼女にどう説明していいものかわからなくて、困った。
四枝さんはハンドルを握りながら、小型のモニターがくっついたラジコンのコントローラーのような機械を弄っていた。
「前見てくださいよ。それなんですか?」
「これでリコの持っている携帯の位置がわかる。スーパーの辺りだ」
彼は、駐車場に現れた時から、ずっとしかめっ面で目をしょぼしょぼさせていた。それに顔が土気色をしていて、ところどころ白髪があった。白髪だけではない。昨日見たときとは、髪が明らかに伸びて、目に掛かり、襟足が肩についていた。そして、何かがのどに引っかかったような咳をする。
「ポイントが動いてない。電源を切られたか、捨てられたな。この子は、誰だ?」
「水上さんですよ。アンケート用紙の」
「どうして、ここにいる?」
「矢来が連れてきたんです。友情を深めて力を増すとか、馬鹿なこと言って!あいつ、水上さんをあの部屋に入れたんですよ!」
マスターキーが、四枝さんの後頭部の辺りでふらふら浮いている。僕越しに水上さんはそのマスターキーを眺めて、言った。
「夢ですか?」
「残念ながら違う。友情ね。あいつらしい発想だ。なるほど…一理あるな」
激しい咳をして言う四枝さん。
「なにをしたんですか?顔色が悪い」
「こいつの呼び出し急いで、少し無茶を」
彼は、首を振ってマスターキーへわざと頭をぶつける。
「車を止めて、休んだ方が」、というか、この人、免許持っているんだろうか?
「いや、今眠ったら、数日は起きられん。それに暗くなる前にやつをなんとかしないと…マスターキーは太陽光をエネルギーにしている。夜になったら、変形も浮遊効果も鈍るんだ。このまま、矢来を止めるしかない。眠い。もっと話しかけてくれ。意識が飛びそうだ!」
「あの人、リコさんをどうするんでしょう?」
「あれを刺すか、刺させるか、するだろう。あいつは、まだ自分では使ってないな」
「え?でも、言ってましたよ!自分で刺したって」
「嘘だ。やつの力と接触してみてわかった。あの真空の力以上に然したる変化はない。おそらく、リコを使って実験したがっているんだ。元々、力を持っているものに使うと、どうなるか?力が向上するか、死ぬまで力を維持させることができるのか。化け物になるか。なにが起こるかわからない。力に関しては抜け目ないやつだ」
「そんな」
「矢来の思惑通りにいったとして、なんらかの形で力が強くなっても、あいつみたいに正気じゃなくなることだってありうる。いずれにしろ、ただでは済まん」
パラライザーを握り締めた。僕が、ぐずぐずしていたから、リコさんが連れ去られた。
「学校へ戻る。君に手伝ってもらう」
作者は、この
「お前のおかげで、今の俺がいるんだぜ。鏡に、自分の姿がうつらねーってのは皮肉なもんだよナ、四枝。他人を通してでしか自分が、わからないなんてのは。へへ、俺に昔のお前を見ながら、俺を殺すか?」
矢来のセリフが、ものすごく好きです。
これは、師弟の間柄だった二人が、今はいがみ合い争っていることを狂人矢来の感性でいってるのですが、
うまい具合に、この作品の設定をなぞりながら、二人の関係性の本質を表現しているところがとても気に入ってます。




