部活動1
この作品は、過去書いたものであり、すでに完結済です。
しかし、直しに時間がかかるもので、一日一回のアップの連載形式で完結までに至りたいと思います。
ミラーブレーカーズのスケールは、全部で11万文字くらいで、やたら長いです。
(作者が、いまここのサイトで上げている10万文字のバーサスクリアラーほどの密度はないから、読みやすい方だと思いますが)
昔の自分では、物語や文章をシェイプアップするという考えがなかったためにこういうことになってしまいました。
しかし、そこを真面目に直していくと、作者は、妥協を許さない状態になって、おそらく、物語の構造や、構成、キャラクターにも手を入れないといけなくなりそうで、一作書くほどの時間と労力を要してしまうのではないかと思いますので、やめておきます笑
入学式が終わり、早々に帰り支度をして、正面玄関を出た。新しく入学した一年生を待っている先輩が大勢いる。それぞれ部活を特徴付ける服装やら道具を身につけ、家路に着こうとする新入生に呼びかけていた。部活の勧誘合戦だ。
僕は、部活に入るつもりはなかった。何か他にすることがあるわけでもないが、理由がなくても部活動をしなければならないことはない。
たくさんの呼びかけをかわして行くと、部活の勧誘集団とは離れたところに机と椅子を用意して座っている生徒が、一人いた。その人は、どういうわけか易者の格好をしていた。年期の入った紺色の渋い着物だ。どんな部活か見当もつかない。そもそも勧誘をしているようにも見えなかった。興味をそそられて、その易者をじっと見ながら通り過ぎようとしたところ、目が合って、呼び止められた。やっぱり部活の勧誘なのかな。
彼は、言った。
「そこの君、手相を見せてくれないか」
人を引き入れようという熱意は、感じない。手招きに僕は素直に応じた。
「手のひらを出してくれ」
「お金取りますか?」
「学校で商売はできないよ」
「何部です?」
「見せてくれれば教える」
「いいですよ」
易者は、僕の手のひらを見ながらしゃべった。
「この学校どう思う?」
僕は苦笑いした。その手の質問は苦手だ。
「別に…ここの学校がいいって思って入ったわけじゃないので」
「そうじゃなくて、なんというか、印象の話だよ。いいイメージか悪いイメージかそういうこと」
「いいイメージなんじゃないですかね」、今日は入ったばかりで考えようもないから、適当なことを言ってはぐらかした。
彼は僕の手の筋を意味有り気に見ていた。
「はい。いいよ」
「それで?」
「終わりだよ。さようなら」
「何か言ってくれるものだと」
「さ、いってくれ」
「これ何部なんです?」
易者の顔を見つめた。言いたいことがあるような表情だ。そんな顔をされておいそれと帰るわけにはいかない。せっかく見せた手相なのだから、意見を聞きたいに決まっている。僕たちは見つめあった。間の抜けた雰囲気だった。
「何の部なんです?」、相手が黙っているので食下がった。向こうは、約束を忘れている。
「飼育部だよ」
それを言うと、机と椅子をかついで校舎の方へ去っていった。
この学校に飼育部という部があることを今、知った。飼育部というのだから、何かの動物を学校で飼って世話をしているのだろうか。だけれど、その飼育部が、部活の勧誘合戦の最中、肝心の動物(勧誘するのは、動物を連れてこないと、その活動の目的を新入生に伝えることはできないのでは?)はどこにも見当たらなかったし、コスチュームだって部活動とはなんら関係のなさそうな着物だった。占いに関連する部で、僕の手相がよくわからなくてでたらめなことを言って逃げたのかも。変人にからかわれたのだろう。
翌朝になっても、飼育部のことが忘れられなかった。隣の席に座っているクラスメイトに聞いてみた。トシは、同じ中学で顔見知りだった。自分よりはこの学校について知っていることも多いかもしれない。
「飼育部って知ってる?」
「なに?」
「飼育部って知ってる?」
「しいくぶ?なにそれ?」
「飼育部だよ」
「聞いたことない。どんな部なんだよ」
「僕も知らないよ」
知らないから聞いたのだが、聞き返されてしまった。
「部活、なにやるか決めたか?」
「いや、部活しないから」
「聞いてないのかよ。この学校、何か部活に入らないとだめなんだって。校則で決まってる」
「え?知らなかった」
そんなことは、入学式でも聞かなかった。先生が話しているとき、ぼうっとしていたかもしれない。
「中学の時もレギュラーだったから、高校でもレギュラー目指してるんだよ」
いつの間にか彼の中で話題が進んでいるようだ。彼が、中学時代に何の部に所属していたのか俺は知らないし、興味もなかった。
「へえ」、気のない返事をする。
「お前もサッカーやれよ」
「そうだなあ、考えとく」
「おもしろいぞ」
ホームルームが終わり、担任にも飼育部について聞いてみた。昨日のことは、あの易者のいたずらにすぎなくて、本当は飼育部なんてものはなかったりして。先生に向かって、すっとんきょうなことを言っていることになるかもしれないが、この学校にいた人に聞いてみるのが一番だ。
「すみません。先生」
「はい?なんですか?」
「この学校に飼育部って部活があるって聞いたんですが」
飼育部といったら、先生が、生徒の話を聞こうとする優しそうな眼差しから一変し、罰の悪い感じが起こって、僕から目線をそらした。
「あのー」
「わかりました。昼までに用紙をもってきます」と先生は、僕と目をあわさずにあわてて行ってしまった。
「ちょっと先生」、今のやりとりを見ている生徒がいないか、まわり見回した。誰も彼も、クラスメイトと話したり、授業の準備をしている。
用紙ってなんだ?
自分は、飼育部というものが、この学校にあるのかそれだけを確かめたかっただけなのに、先生ときたら、とりつくしまもない。とんでもないことをしでかしたのではないかと、冷や汗が出てくる。
入学早々、気分が悪かった。
授業中ずっとイライラしてしまう。僕は、飼育部のことを聞いたことによって届けられる用紙について考えをめぐらせた。先生は、僕が飼育部の勧誘を受けて、部に入りたがっていると、そう勘違いしているのだ。考え事をして、当てられたことに気づかず、先生に怒られた。
昼休み。購買部で買った食事をしていると、先生がやって来て、前にもまして、よそよそしく、用件を言った。
「これに記入して、自分で提出に行ってね」
「先生、待って。僕は別に飼育部に入りたいわけじゃなくて」
「いいえ、しっかり、みてもらいなさい。話は終わりよ」
何かを恐れているようで、先生は急いで教室から出て行った。
「みてもらうってなんだよ…」
何人かのクラスメイトが、先生の様子を見ていたが、あらぬ誤解をしているらしく、女子たちが、非難がましく僕を遠巻きから眺めていた。僕は、無理やり笑顔を作った。
「何にもしてないのに…」
受け取った封筒を裏返してみる。封はしてない。口をあけて、中身を覗いた。これが用紙か。
「草加!」
大声で誰かに呼ばれて、とっさに机の中に封筒を隠してしまった。なぜ隠したのか自分でもわからない。
「サッカー部入る気になった?」
隣の席のトシが、椅子に座って言った。
「おどかすなよ」
「先生に何したんだ?」
「なんもしてないよ…」
そのあとの昼休みは、彼のサッカーの話を聞いて、終わった。
授業中、先生の目を盗んで、例の用紙に目を通した。入部届けではなかった。それは、いくつかの質問項があるアンケート用紙だった。なんの前置きもなく一番初めの項目にこう書いてある。
『この学校はあなたにとっていいイメージですか?悪いイメージですか?』
どこかで聞いたことのあるような質問だった。次ぎの項目。
『あなたは自分の名前が好きですか?』
『身の回りの人間関係に満足していますか?』
『夜ぐっすり眠れますか?』
『自分の字は綺麗だと思いますか?』
質問の意図が、はっきりしない心理テストのような問が一枚の紙に、あらん限りのた打ち回っていた。そして、封筒にはもう一枚、紙が入っていた。学校の東棟の地図だ。そこには、飼育部の部室の場所が書かれていた。地図の下には『提出期限は受付から三日以内を厳守』とも書かれてある。僕には、この用紙を提出する義務はないので、見なかったことのしてしまおう。机の引き出しにしまった。
午後の授業が終了した。昨日に引き続き、部活の勧誘が正面玄関で繰り広げられていた。また、校門の手前に易者が陣取っている。しかも、昨日の自分と同じように他の生徒を呼び止めて手相を見ている。どうせ、からかわれるだけなのに、かわいそうなことだ。僕は彼らを無視した。
翌日。
昨日はたっぷり寝たはずなのに、授業中に居眠りをしてしまった。数学の先生に教科書で頭を小突かれて僕は、椅子から飛び上がった。自分の寝惚けぶりをクラスメイト全員に笑われ恥ずかしい思いをした。
先生は、黒板の問題の解けと言う。簡単な代数方程式だ。でも、小突かれたのが痛くて腹が立ったから「わかりません」と言って、それから、靴下を脱いでもいいかと聞いて、足の指を使わないと計算ができないとかそんなことを言った。僕が、おちゃらけたのでみんなが騒ぎ出し、先生は僕を叱って、座らせた。
「草加、馬鹿なこといっとらんで、速めに用紙を提出するんだぞ」
思いもよらないことを言われたので、呆気に取られてしまった。どうして数学の先生があの用紙について知ってるんだ?もしかして数学の先生は、飼育部の顧問なのか?
五時間目の体育は、体育館で授業を受けた。器械体操をしたのでマットを倉庫に片付けていたところ、体育教師にこう言われた。
「用紙出したか?」
「いえ…まだです」
「今日中に出せよ」
質問を切り返す間もなく、教師は、体育教官室に去っていった。二人もの先生になぜ、こうもうるさく急きたてられるのかがわからない。僕は、黙殺しようと思っていたあの用紙を無視できなくなった。
六時間目、あの質問用紙を読み返して頭を抱えた。心理テストの山なのだ。これに何の意味がある?やはり、この用紙へまともに回答を書き込む気にはなれなかったが、六時間目の終了の合図で駄目押しされた。
現代社会の先生の去り際、
「次ぎの授業までに十三ページから二十五ページまで目を通して置くように。それと、草加、用紙はしっかり書いて出せよ。今日はここまで」
「はい」
僕は、呆然として返事を返した。どうやら、教師全員で、僕がこの紙を出したか出してないかを見張っているらしい。しかし、一体何のために?
トシが、僕に聞いてくる。
「なあ、用紙ってなんだよ?」
「さあ?誰かと間違えてると思う」
「じゃあ、なんで返事したんだよ?」
「いや、なんか悪いと思って…」、笑って、とぼけた。
このまま、この用紙を放って置いたら、明日も授業が終わるたびに、このことについて言われ続けるかもしれない。こうなったら、直接、飼育部に行って、用紙をつき返すしかない。
放課後になって、僕は、封筒の中の地図を広げた。学校の東棟は、特別教室が集まっている建物だ。しかし、そんなところに部室があるというのも変な話だと思った。この学校には文化部専用の立派なクラブハウスがあるというのに、その反対側の東棟に部室を設けるのはおかしい。四階の自分の教室から、階段を下りて、一階まで行き、玄関を通り過ぎて渡り廊下を行き、東棟へ。
左に折れて東棟廊下の奥の奥まで歩いた。掃除当番の割りふりが行き届いていないようで、廊下には、たくさんの埃が落ちていた。東棟は日が落ちるにつれて、とても暗くなる。東棟一階の廊下の先は、完全な行き止まりになるので、特別教室に用がないかぎり人通りはなく、電灯もつけられてはいない。
地図に表記されている部屋のドアにたどり着いた。ドアには、部の表札すらない。扉をノックした。応答なし。人の気配なし。
何かの冗談だ。でも、三人の先生で、新入生を寄って集って騙して遊ぶなんてことがあるわけがない。もう一度、地図を見る。この場所であっている。廊下の向こうから誰かが歩いてくる。
「君か」
校門にいた易者だった。けれど、今、彼は、学校指定の制服を着ていた。
「どうも」
易者は、扉の鍵を開けて、僕をなかにすすめた。はっきり言いたいことを言って、早く帰ろうと思ったが、なかなかきっかけが作れず、部室に入った。易者は、お茶を煎れてくれた。
「それで手相のことかな?」
「違います。この用紙を返しにきたんです」、今までの不満をぶつけるようにぶっきらぼうに返した。
「入部ね」
「そういうわけでは、なくてですね。なんというか、先生たちに勘違いをされているらしくて」
易者は、机に上に置かれた用紙が入った封筒を手にとってなかを広げた。もちろん項目には、何も記入されてはいない。それを見て、うなずく易者。
僕は続ける。
「飼育部について、担任の先生に質問したら、その用紙を押し付けられたんですよ!どの先生からも用紙のことをいわれるんです。けど、質問しようとしても、聞けるような雰囲気じゃなくて」
「飼育部の問題は、飼育部で解決にしなくちゃならない。生徒手帳を持っているか?」
「はい」
「書いてある。校則だ」
易者は、自分の手帳をめくり、僕に見せてくれた。彼の言ったことが、印刷されてある。なんだ、こりゃ。
「と、とにかく僕は部活に入るつもりも、心理テストして悩みを打ち明けたりすることもないんです」
「悩みを打ち明けることはないってことはないんじゃないかな?だって君の手相、あれは…」
易者は、肝心なところで口をつぐんだ。意味深に僕と目を合わせてから、はぐらかすようにお茶を飲んだ。
「まあ、試しにアンケートに答えて行ってよ」、彼は、用紙とボールペンを机に置いた。
「手相がなんなんです?」
「いいじゃない。所詮、占いじゃないか」
「僕の手を見たとき、どうしてあんな顔をしたんです?」
「聞かないほうが身のためだと思うけど」
落ち着き払って頬をかく易者。
「いってください。僕のことなんでしょ?かまいませんよ」
「君の手には、まれに見る対鏡線というのが、走っていて、その線を持つからには、数奇な命運を背負うと言われている」
「どの線です?」
僕は、両手を差し出した。易者は、僕の両手それぞれに、人差し指と中指の間、薬指と小指の間の下に刻まれた三センチほどの縦線、合計四箇所を差した。線は確かにあった。
「数奇な命運って例えば?」
「その前に、これからすることを誰にも話さないと約束してほしいね」
僕は、うなずいてみせた。
「じゃあ、いくか」
「どこへ?僕が聞きたいのは手相についてですよ」
「ついてくれば、わかる」
もったいつける易者に好奇心がまさった。二人で部室を後にして、東棟の廊下を進み、上履きのまま外に出た。
東棟の横の木々を歩いて抜けると、古ぼけた木造の建物があった。一世紀以上も前の建造物らしく、昔は、この建物も学校として使われていたが、新しい校舎が建って、現在では、【旧校舎】と呼ばれている。いまだ取り壊されず残っているのが不思議なくらい老朽化が進んでボロボロになっていた。黒ずんだ壁や瓦が不気味だ。
「君の名前を聞いていなかった」
「草加正です。あなたの名前は?」
「四枝。数字の四に木の枝で、シエ」
「何年生ですか?」
四枝さんは歩きながら質問に対して、どう答えていいものかと遠い目をした。
「たぶん三年だ」
四枝さんの体格は、百七十センチの僕より少し高いくらいだ。一見して、先輩とも言いがたい。
彼は、旧校舎の玄関を避けて裏口の鉄の扉を鍵で開けた。埃っぽい臭いがした。
「こんなところになにがあるんですか?」
僕らは、廊下の奥の階段を上って、二階にたどりついた。東棟よりかは、日当たりが良くて明るい。真っ直ぐな廊下を歩き、いくつかの教室の扉を通り過ぎた。僕たちは、今までに見た教室の木製の引き戸とは、違った観音開きの扉で立ち止まった。
「ここだ」
重くて頑丈そうな鉄の扉だった。四枝さんは、鍵でそこを開錠した。
扉の先の部屋は、不思議な作りだった。窓から日の光が差し、床が反射して、輝いていた。というのも、その部屋の床一面が鏡でできていたからだ。そして、上を見てみても、鏡だった。天井も鏡が張られていた。
つまり、上も下も継ぎ目のない大きな鏡が隅まで広がっていて、合わせ鏡になっているのである。鏡に映るものは、上も下も部屋の空間を際限なく写し続ける。
「どうだ?」、四枝さんは、部屋の中央に佇んだ。
「あの、僕は手相のことを聞きたいんですよ」
この部屋には、奇妙な違和感があった。それが、なんなのか、はっきり言うことはできないけれど。
「鏡に聞いてみればいい」
「冗談は、いいです」
「それは、どうかな。試してから言ってくれ」
この部屋に入って下を見てみた。鏡に触れれば、四枝さんが言うように何かわかるのだろうか。しゃがんでみると、僕は違和感の正体に気づいた。鏡に自分の顔が映っていなかったのだ。制服、上履きは映っているのだが、服に覆われてない肌が出ているところだけが、抜けてなくなっている。
「あれ?」
四枝さんの立っている場所も観察してみて、驚いた。天井を見ると、四枝さんの頭が、映っていない。鏡の中では、彼は透明人間だ。
「なにこれ」
「そういうこと。他に説明しようがない。不思議なものだとしか」
もう一度、鏡で自分の顔をのぞいてみようとした。やはり見えない。顔の向こう側にある天井の鏡が見える。合わせ鏡になっているから、天井の鏡は、僕の着た制服だけを映し、等間隔に増やし続けている。
「とにかく触れてみろ」
恐る恐る、鏡の向こうの透けてなくなった手に重ね合わせた。なにも起きない。四枝さんへ不平の視線を向けた。
立ち上がると、気分が悪くなり、全身が落下していくような感覚におちいった。ただの立ちくらみだと思った。気持ち悪いのが収まらない。どうしてだろう、今朝から体調は悪くはなかったはずだ。僕は、立っていられなくて膝から崩れ落ち、横になった。
倒れた僕を見下ろして四枝さんは、呟いた。
「大丈夫だ。抗うな。目を閉じて、身を任せたら気分は良くなる」
強い眠気が僕のまぶたを落とした。




