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木屋町ホンキートンク Ⅰ  作者: 鴨川 京介
第1章 次元のほころび
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09 まだ話があるそうです

 「それはこの土地が、地球の中でもかなり特殊な条件を備えているからじゃ。」


 「特殊な条件というと?」


 「水じゃ。」


 「水?」


 「そうじゃ、水じゃ。この京都の土地は地面の下に大きな水瓶(みずがめ)を抱えておる。この水の一番底のほうには、いまだに魔素がたまっておっての、それが少しづつ地表に染み出てきておる。そういう場所に結界として神社を立てておるのじゃがな。この魔素に引き寄せられるように『怨念おんねん』が集まってきよる。人の言葉でいうところの『じゃ』であったり、『おん』であったりするのじゃが。そういった思念体の負の部分(・・・・)が集まって、あのような『次元のほころび』ができてくるんじゃ。そのほころびが向こうの世界とつながろうとする。地球にある魔素より、かなり濃い魔素が、あの世界にはあるからの。」


 京都の地下に水瓶がある話は聞いたことがある。20年ほど前、京都の大学のあるチームが、京都全域の地質調査を行い、琵琶湖に匹敵するほどの水瓶が、京都の下にあるのを発見したとニュースを見た記憶がある。そのことなんだろう。


 「これは人が住む都市としては、地球上でここだけじゃ。じゃからわしらはこの京都に住んでおる。結界としての神社を住処にしての。わしらが生きるために必要な魔素の供給もそこから受けておるんじゃ。」


 なるほど。そういうことか。それにしてもまだわからないことがある。


 「それにしてもなんで『怨』や『邪』は魔素に惹かれるんだ?」


 「それは本質的には同じものじゃからな。『負』の思念体が『邪』であり『怨』なのじゃ。『正』の思念体というものはない。普通に『思念体』、『魂』といわれるものだ。これは生物すべてが持っておる。だからこそ枯れぬし、いつの時代でも『負』の思念体は生れ出てきよる。それほど濃い『邪』はなかなか生まれるもんでもないが、少しづつ少しづつそれらがたまっていきよる。するとそれらが異界へと結びつこうとして、あの『次元のほころび』ができるというわけじゃ。」


 「『邪』が魔素に惹かれるのは何となく理解した。要は磁石に惹かれる砂鉄みたいなもんなんだろうな。漠然としてるけど、まあいい。それにしても、その異界との分離の境目がそう簡単に、ほころびるのか?」


 「それはな。異界は魔法で作り上げたものじゃからな。境目は『邪』との親和性が高い。要するに異界との結界に張り付いて、徐々に浸食していくことで繋げてしまいよるのじゃ。ほとんどの『邪』は水瓶に惹き寄せられ、その水をくぐるうちに浄化され、魔素へと変化していく。しかし神社で結界を張るほどではなくても、その魔素が地表につながって細い道筋ができてしまうことがある。そこに『邪』が群がると『次元のほころび』ができてしまうのじゃ。」


 「う~ん。一応理解した。納得したわけじゃないけどな。ところでそうすると、なんで俺はそんな世界が突然見えるようになったんだ。さっきの話だとここは『異界』だよな。向こうの世界には戻れるのか?いや、それより俺の体は大丈夫なのか?さっきいきなり情報が頭の中に流れ込んできてえらい気持ち悪かったけど。」


 「それは先日お(ぬし)に託した眼鏡が起こしたことじゃ。その眼鏡は「万眼鏡よろずめがね」と言ってな、わしたちが苦労して作り上げた魔道具じゃ。」


 「魔道具?」


 「そうじゃ、魔道具じゃ。魔道具とは、魔素を込めることでその力を使えるようにする道具のことじゃな。魔素は魔力のもと。魔力は魔素を使う力。魔法はそれらを発現させる言霊(ことだま)じゃ。もっとも言霊は口に出さんでも魔法は使えるがの。」


 「じゃあ、俺は魔法が使えるのか?」


 「さっき大まかに説明した時に行ったじゃろ。お(ぬし)は『魂の適合者』じゃと。魂の適合者とは、その魔道具を使えるほどの魔素を溜め込める魂の大きさを持つ者のことを言う。そうじゃな。わかりやすいように数字でいうと、他のものが1からせいぜい5ぐらいのところを、お(ぬし)は10,000を超えて溜め込めるようじゃな。恐らくお(ぬし)に流れる血のせいじゃろう。」


 「血?血脈って意味なのか?」


 「そうじゃ。恐らく先祖のどこかで、あやかしの血が混じっておるのじゃろう。父系、母系どちらもな。それらが合わさることで先祖返りのようなことを起こしたんじゃろう。今まで何か変わったことはなかったか?たとえば人より感が働くとか、気配を感じるとか。」


 指摘されて驚いた。身に覚えがあるからだ。仕事の運営の現場で、危ないと思うところには、事前に対処できていた。なぜか根拠はないが、その危ない場所を感じることができる。しかし、これを人に話したところで、うまく説明できないし、場合によっては「頭大丈夫?」と言われかねないので、人に話したことはない。考えてみれば10代のころ、生き残ったのもこれのおかげのようだ。企画書を書いてても、同じように危ない状況が浮かび上がって、それを回避するための手段をマニュアルなどで対応していた。事前に回避できていたからこそ、今まで事故は起きていなかったが、その一歩手前という状況には何度も出くわしていた。その度に「ここまで考えておいてよかった」と思えることが多々あった。そういうことだったのか。


 「それと先ほどの問いの続きじゃが、お(ぬし)はもちろん元の世界に戻れるよ。先ほどもざっくり話したが、その万眼鏡を使ってな。『転移』と唱えれば思い描いた先に移動できる。」


 「この眼鏡ってどんだけ機能があるんだよ。」


 「まあ、それはおいおいじゃな。しかし、それだけではこれからのことは少し荷が重いようじゃな。懐にもっとるものを出してみろ。」


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