07 さて問題です
さて、いつものように、世の中の不満や愚痴を垂れ流したし、そろそろ帰ろうか。
俺の話は、一方的に俺が思っていることや、考えていることだ。合わないやつは合わないだろう。それでいいと思う。そういう奴等はむしろ、傍に近づかないでほしい。
人類は平等で平和を求めることは正義ですって、学校の先生は教えてたけど、世の中に出たら、すぐにわかるよね。平等なんてどこにもないし、平和なんて思い込みだけのものでしかない。地球に生物が誕生してから、今この瞬間まで世の中に『平等』なんて存在しない。必ずどこかで差が生まれるし、それが貧困や富裕につながっていく。平等であるべきだと口に出すのは簡単だ。じゃあそれをやってみればいい。まして他人の価値観まで強制するなど、できるもんではない。それをやろうとしたんだろうな、日本の戦後教育は。むしろ考え方がいろいろあるとゆう多様性を求める権利にこそ『平等』は存在するのであって、自分の正義を押し付けることが『いいこと』だって考えてるやつらが多すぎるんだよな。平和なんだろうね。殺される危険も感じないし、飢えることもない奴らは。こうやって酒飲んでる間にも、飢餓で人が死んでいくんだろう。戦争で殺されていく人たちも大勢いるんだろう。だからと言って俺は酒を飲むのをやめない。自分が楽しいと思う時を過ごすために、生きて、働いて、酒を飲む。人を救うなんておこがましくって口に出せないよ。俺がやっていることが人の一瞬の楽しみや幸せにつながればと思って生きている。それ以上のことなんてできやしない。
よくネットで炎上しているのを、コメント欄などを読んでみるとわかるけど、結局自己主張の押し付け合いが炎上のもとになってる。『こうであるべき』って他人に押し付けることなんかな。自分が理解して、戒めに思っておけば、それでいいんじゃないかと思う。権利ばかりを主張して自分の矛盾にも気づかないどっかの政党もそうだけど、いろんなところで評判聞くよ。いろんな金が動いてること。そんな奴らが『平和』を口にするたびに、笑えるよね。ヒステリックに大声でわめき散らすどっかの国のおばちゃんと同じことしてないで、弾が飛び交う戦場で平和を叫んでみたら?
ちょっと最近の日本を見てて愚痴がたまってたね。うん、もう帰るね。
エレベーターを降りて、雑居ビルの下まで来た。
…う~ん、もう少し飲んで帰ろうか。今度は愚痴こぼすんじゃなくて、静かに考え事しながら。
そう考えて桂川のほうまで歩いていく。川沿いの道を歩きながら、周りの喧騒を楽しんでいた。
すると目の前の商店の横、路地と呼べないぐらいの隙間あたりからなんか煙のようなものが見えた。火事か?近づいて行くと、どうも煙ではないようだ。
霧?靄?なんかそういう感じだな。
夜で回りが暗いのに、その暗さは際立っていて、もやもやとしている。
…なんだこれ?
火事だといけないので、改めてよく見てみる。
…う~んどうも煙ではないようだ。
隣の商店を見たら、いつの間にか電気が消えてしまっていた。あれ?いつ閉めたんだろう?
周りを見渡すと、さっきまで喧騒があった桂川の通りに人がいない。街灯の明かりだけが灯っている。
…え?音もしない。
不思議な状況を呆然と見回しながら、はっと気づいてさっきの黒いもやのほうに振り返ってみた。やっぱりもやってる。
…なんだこれ?恐る恐る手を伸ばして触れてみる。
黒いもやに触れた瞬間、周りの景色が一変した。
コンクリートの建物が木造の平家に。周りは閑散とした風景が広がっている。
えっ?…何が起こった?
周りをきょろきょろ見回しながら現状把握に努めた。
すると耳元で不意にラジオのノイズのような音が聞こえ始め、次第に大きくなりながら声が聞こえてきた。
「…次元のほころびを確認。最適化開始・・・・・・・・終了。個体名をどうぞ。」
声のするほうに振り向いても、誰もいない。
「個体名をどうぞ」と繰り返される問いかけ。
とっさに偽名である『鴨川京介』を名乗った。
昼の顔が売れてる分、夜は偽名で通していた。ましてや誰から聞かれているのかもわからない状態で、まともに対応する気はない。
「個体名を『かもがわきょうすけ』と確定。」
「情報をロードします。」
いきなり膨大な情報が頭に流れ込んできて、立っていられなくなった。
頭が割れるように痛い。え?なんで?何が起こってる?
しばらくうずくまって頭を抱え、その情報の波を耐えていた。
頭の中に次々と浮かんでは消えていく映像。これはどこの景色なんだろうか。
考える間もなく次から次へ。
怪獣やら化け物やら、人やら動物の耳が生えた人?
…なんだこれ?
頭の中をかきまぜられるような不快感と、膨大な情報の波によって起こった痛みをこらえながら、その場で吐いた。
うわ~。バーボンのにおいがすごい。
…どれぐらい耐えたんだろうか。
不意に情報の波が収まった。
でも俺はうずくまったまま、放心した状態がしばらく続いていた。