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木屋町ホンキートンク Ⅰ  作者: 鴨川 京介
プロローグ
6/79

06 バーボンとタバコの煙

 衣装を抱えたまま、俺たちは店に向かった。河原町通り沿いにある雑居ビルの6階だ。一本筋を挟んで向かいには、大きなカラオケ屋がある。ここは奈良屋町になるのか。となりのビルの地下には名古屋から来た手羽先屋がある。俺はもう一方の有名どころの方が好きだ。只々塩辛いだけって。無理だって。みんなあんなのよく食うね。


 三条から四条にかけてのあたりは、木屋町の飲み屋街だ。学生やサラリーマン目当ての店が多い。観光客もたまに見かけるが、あまり気軽に入ってこれる雰囲気じゃないんだと思う。特に桂川の周辺。いかがわしいよね、雰囲気が。キャバクラなども多い。まあ、そういう町だ。


 木屋町通りを三条まで突き当って少し西に行くと、龍馬受難の地である池田屋跡の石碑がある。その名前まんまの居酒屋があるが、全然関係がないと思う。その名前を使ったその場所にある居酒屋。料理は普通においしかったな。あと店内に当時のレプリカの衣装や鎧や刀などが展示してあって、観光客向けの写真撮影の場になっている。


 こういう店が結構多い。


 明治維新のころの名所旧跡が、この木屋町にはたくさんある。瑞月ちゃんの店の近所には土佐藩邸跡や彦根藩邸跡などがある。要するに、ものの150年も前には血みどろ(・・・・)の世界が繰り広げられてた町ってことだな。


 木屋町通りの一本東側、鴨川のほうにある通りが、有名な先斗町だ。この辺りには鍋物屋が多い。すき焼きなどは結構うまい店がある。

 昔はこの先斗町の御茶屋がメインで、桂川一本挟んで各藩邸が並んでいたようだ。

仕事場の目の前が飲み屋街って。そりゃ金を落とすわな。


 鴨川の西、河原町通りまでが、最近の俺のテリトリーになる。洛中に飲みに出てくると大概この辺りでうろついている。仕事関係の人間が京都に来た時も、大概この街だ。


 お姉ちゃんを横に座らせて飲める店から、雰囲気のいいバーやビアホール、個室の商談なんかに向いている料理屋などもある。祇園は少し高いイメージがあるけど、木屋町はもう少しチープだ。メイン客はサラリーマンや学生なので、俺が使うにはちょうどいい街になる。祇園も昔は散々行ったけど、()価値(・・)が合わない。もう行かないだろう。


 俺が今言っている祇園とは、祇園北町(正確には祇園町北側)のことだ。四条通を挟んで北側。一般的に観光客が訪れる『祇園』は祇園南町(同、祇園町南側)のことだ。花見小路などはこっちにある。御茶屋さんが並んで人力車が走ってる。


 まあ、縁のない街だな。


 さてようやく酒が飲める。


 キープしてあるボトルはワイルドターキーだ。意外にこのバーボンウィスキーを置いている店は少ない。この店でもわざわざ買ってきてもらってキープしている。他の客はまず飲まないそうだ。最近出るのが多いのは焼酎や酎ハイ、スコッチ、ワインらしい。

 昔から日本ではあまり馴染みがないよな、バーボンって。


 俺はイベントで日本各地を回ってるときは日本酒。それも地酒を飲むのが楽しみで、よく居酒屋めぐりをした。バーボン飲み始めたのっていつごろからだろうか。


 …恐らく、大学に行った頃だと思う。


 俺は人よりだいぶ遅く大学に通い始めた。俺が22の時だ。高校卒業してから4年遠回りしている。まあ、あんまり思い出したくない時期だな。


 ほとんどチンピラだったからね。朝から酒飲んで女と寝て、たまに仕事してた。

 そんなことしてたらもちろん、ドン詰まるよね。何度か死にかけた。正確には殺されかけた。


 役立たずで怠け者、甲斐性無しで碌でなし。


 そういうのから足を洗うために『大学』という、人生ロンダリング(・・・・・・)システムを利用した。

 それまで碌に勉強してなかったから辛かったけど、何とか大学には入れた。

 それからは勉強漬けだったね。『人の役に立つ』ための勉強。知らないことを知っていく。貪欲に。


 二度と役立たずにならないために。


 そのころやってたプロジェクトの打ち上げなんかで散々飲んだ。大学行くまでにも散々飲んでたから自重してたんだけど、偶の打ち上げにはしこたま飲んだ。誰もついてこれなかったけど。その頃きつい酒を飲んで、他のやつらと同じように酔うためにバーボンばかり飲んでた気がする。うん、あの頃からだな、俺のバーボン好きは。


 俺が公言してはばからない、俺が生きていくために必要な栄養素は『ニコチン、カフェイン、アルコール』だ。俺はこれを3大栄養素と呼ぶ。


 昼間コーヒーばかり飲んでいるのは、朝から酒を飲むのを止めたからだな。

 タバコはもう30年以上吸ってることになるな。


 世の中の製薬会社や医師会、広告代理店に騙されていることの一つが、この煙草の害だと思う。

 世の中でタバコを吸って肺がんで死ぬやつより、交通事故で死んでいくやつのほうがよっぽど多い。だからと言っていきなり車の価格の100%を課税するようなことはない。要するにそういうことだ。


 日本で戦後、肺がんの死亡率が高かったのは、どう考えてもたばこじゃない。公害(・・)だ。

 俺が小学校の頃、よく光化学スモッグ(・・・・・・・)が発令されて、外に出ちゃいけない時間帯があった。外の空気を吸ってると倒れるから外に出ちゃ駄目だったんだ。もちろん大人たちは平気で外で仕事してたけどね。子供が吸っちゃ悪いものを、大人は吸わないと仕事できない。

 今の世の中からは想像できないんだろうな。あ、そういえば最近隣国の大きいほうの迷惑な国の公害が、よく話題になってるよな。あんなとこに人は住めない。そういう時代が日本にもあったってことだな。もう40年も前の話だけどね。

 結局、国の後手に回る公害対策の付けと、製薬会社や医者の思惑が合致したんだろうな。まあ、これは日本に限ったことじゃなかったけどね。世界中の思惑が一致したんだろうな。

 タバコの害で副流煙ってのがある。これは確かに害になるんだろう。だってタバコが嫌いな人が、煙草の煙にまみれるのが嫌なのは、当たり前だと思う。


 俺は煙草が好きだ。喫煙は文化だと思う。


 特にバーボン飲みながら話をし、たまにタバコをくゆらせながら、また酒を飲んでいく。


 …たまらないね。


 思考を深くまでめぐらせて、意識を浮上させながらアルコールとニコチンで刺激を与えて、発想を膨らませる。


 考えてみれば、酒とたばこがなかったら、俺って企画書、書けないんじゃないだろうか。


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