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木屋町ホンキートンク Ⅰ  作者: 鴨川 京介
プロローグ
3/79

03 不思議な眼鏡

 俺が住んでいるのは2DKのマンション。東西に一つずつ部屋があり、真ん中にキッチンとユニットバスがある。


 タオルで髪や革ジャンについた水滴をぬぐいながら、内ポケットにしまった袋を取り出した。買ってきた眼鏡を見る。

 黒いフレームがなぜだか波打っているように見える。光の加減だろうか。

 しばらくいろんな角度から眺めた後、ユニットバスの鏡の前でかけてみた。うん、悪くない。いろんな角度から見ても、かなり気に入っている。


 あれ?度が入っていないのによく見える。いつものめがねより鮮明にユニットバスの内部を見て取れる。ユニットバスから出て、ベランダのほうに向かい、そこから外を見てみる。遠くもよく見える。近くも。最近少し老眼が入ってきたからこれは助かる。

 もう一度ユニットバスまで戻り、鏡を見てみる。なかなか知的に見えるかもしれない。


 …でも、なんでだ?


 俺に合わせたレンズも入れていないのに。一度はずしてよく見てみる。レンズ部分には、透明なガラスがはまっている。度がついているようには見えない。

 もう一度はめてみる。うん、よく見える。

 しばらくかけたり外したりしながら、試してみたが一向にわからない。


 …不思議だ。思わず笑ってしまった。なんだこれ?


 まあ、わからないものはいくら考えてもわからない。ましてレンズを入れる前からよく見えるんだから何も困らない。むしろレンズを買う分だけ安くついた。いやそれよりもこの眼鏡が1,000円だった。あってないような値段。これは儲けた。


 それ以上考えることをやめ、お腹が空いていたことを思い出し、インスタントラーメンを作り出した。 ラーメンをすすっていると、また不思議に気付いた。いつもならラーメンをすすっていると、メガネが曇って真っ白になるのに、このメガネ全然曇らない。

 レンズに触ってみても、指紋すらつかない。なんだこのやたら高性能なメガネは。

 ま、お腹が一杯になったんで、あまり考えないでおこう。いい買い物をしたってことでいい。

 まだ徹夜明けの疲れも取れてないことから、今日はもう早々に寝ることにした。


 翌日から2日ほど続けて雨が降っていた。

 仕事を終えてやることもないので、ネットで興味のある情報を探しながら、情報タブレットを抱え込み、ベッドでゴロゴロ過ごした。暇があったらいつもこうしている。


 ここで少し俺の仕事、イベント企画について説明しておこう。

 イベントの企画は、情報量と発想が勝負どころとなる。99%の膨大な『情報』と、1%の『ひらめき』が必要な仕事だ。ある課題に対して、その課題が持つキーワードを起爆剤とし、どれだけ今まで溜め込んだ知識から、連鎖的にイベントに結び付けられるかが、勝負となる。


 企画提案で時間が確保されていることは、まずない。大抵が翌日とか、下手したらその日のうちに企画書提出を求められることがある。それもクライアントの営業が聞いてきた課題を又聞きしながら。

 自分でヒアリングができるときはまだいい。相手の表情を見ながら会話していき、本当に必要なものを見つけ出す作業ができるからだ。しかし営業が聞いてくるのを又聞きするとそうはいかない。大抵が『自分のところが有利に儲けられる』為のヒアリングをしてきているので、クライアントが本当に必要としている所が見抜けていない。


 今、ほとんど専属で仕事をしている会社は、大阪にある中堅のイベント運営会社だ。俺が会社を興した時には既にあったから、もう20年は創業から立っていると思う。そこの社長と会社を興したての頃、よくイベントの現場で出会い、よく揉めながら、仕事した記憶がある。おかげで『妥協しない』、『頑固だ』という評判がついてしまった。

 それからというもの、何かあるごとに俺に声をかけてきては、仕事を振ってきた。俺が会社を畳んだ時も「一人になるんやったらこれからはもっと気軽に頼めるな。」とむしろ喜んでいたぐらいだ。


 イベントにかかわる会社は一つのイベントでも複数にわたる。


 まずメインクライアント。イベントを欲していて、その効果を期待している。そこに提案していくのがイベント運営会社や広告代理店だ。まあ、大抵の広告代理店の下には、イベント運営会社がついているので、役割的にはよく似ている。運営会社はメインクライアントがイベントを行いたいときの選択肢となりえるが、広告代理店はイベントそのものを行うことで、メインクライアントがこうむる利益を提示し、イベント実施を働き掛ける。つまり出発点が異なる。もちろん広告代理店は『すでにある』イベントに対しても、働きかけてくる。大きな顔をして…。


 俺はこの広告代理店の連中が嫌いだ。入社一年目から『プロデューサー』の肩書を付けた名刺を配り、あることないこと吹きまくってヘコヘコしている。こいつらの下に就くと、まず碌な目に合わない。


 無理・無茶・無謀しか言ってこないからだ。


 あぁ、だめだ。つい愚痴に走ってしまう。奴らのことは考えないようにしよう。


 話を元に戻す。運営会社の下には、レンタル機材の会社や、人材派遣の会社、ケータリングの会社、輸送の会社などがついて回ることになる。


 俺はここに入る。運営会社が仕事を受注するための企画書を作成し、運営実施までを行うことになる。


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