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木屋町ホンキートンク Ⅰ  作者: 鴨川 京介
プロローグ
2/79

02 そして雨が降ってきた

 アイドリングをしばらくしてから、チョークを切った。

 とりあえずどこかで飯でも食おうと走り出し、国道171号線に向かった。


 「あれ?こんなとこに店なんかあったかな」


 前にパチンコ屋があった空地に、一軒の店が建っていた。

 パチンコ屋がつぶれて、もう5年ほどになるが、そのあと更地になってからは、何も建てられていなかったはずだ。


 不思議に思い、立ち寄ってみることにした。看板が「八百万屋やおよろずや」。見た目は洋風アンティークでも売っているかのようなおしゃれな感じ。

 結構古い外観だと思うんだが、こんな店見たことないな。


 店の前にバイクを止めて、ヘルメットを脱ぎ、グローブと一緒にバイクに取り付けてあるケースに入れてハンティングをかぶった。


 店の玄関は普通の家のようなんだが…

 ドアを開けるとドアベルがカラコロと鳴った。


 そこに背の曲がった、小柄で毛糸の帽子をかぶり、目の細いおばあさんが店番をしていた。何ともこじんまりとした、かわいいおばあさんだな。なんとなく縁側で日向ぼっこしているような…。


 「いらっしゃい」とおばあちゃんは笑顔で語りかけてきた。


 「何かお探しかえ?」というと、店内をゆっくり見まわした。


 それにつられるように何気なく店内を見渡すと、骨董品のような古めかしいものがたくさん棚に並んでいた。一見何に使うかわからないようなものばかりだった。


 その中に一つのめがねを見つけた。黒い縁の四角張った眼鏡だった。ちょうど眼鏡屋に行く途中でもあったので、何気なくその眼鏡を手に取ろうとしたら、おばあさんが話しかけてきた。


 「眼鏡をお探しかえ?」


 「ええ、まあ。ちょうど眼鏡を買いに行こうかと思っていたんです。ところで、こちらのお店はいつから始められたんですか?今まで気づかなかったもので。」


 するとその問いには答えず、俺が手に取った眼鏡について説明しだした。


 「その眼鏡は何でもよく見えるようになるよ。」と言われ、思わず笑ってしまった。


 そりゃ、眼鏡だ。見えるようになってくれなければ困る。もちろん、目に合わせたレンズを入れてからだろうけど。


 俺はこういうおばあちゃんは嫌いではない。仕事柄、様々な人の案内や運営を行っている。お年を召した方は、得てして聞こえずらくなっていたり、歩きずらくなっていたりするが、話を聞くと意外に物知りで面白い話をしてくる人が多い。少し自分本位の話をしたがる傾向はあるが。


 話をしていくうちにおばあさんに気に入られ、わずか1,000円でその眼鏡を譲ってくれることとなった。

 フレームさえあれば、レンズはどこの眼鏡屋でも入れてもらえるだろうと、安易に購入を決意した。先ほど手に取った時から、手によくなじむのだ。ためしに掛けてみて、鏡をのぞき込んでみた。うん、悪くない。


 「本当に1,000円でいいんですか?」と、再度尋ねるとうんうんと首肯し、俺の手から眼鏡を受け取りカウンターに置いた。


 お金を払うとき、おばあさんは眼鏡の上に手をかざし、何やらつぶやいていた。すると少し眼鏡のフレームが光った気がした。気のせいかもしれない。

 それを布の袋に包むと差し出してきた。


 「モノは使ってこそ価値のあるもの。大事にしてやってね。」と、差し出してきた。


 お礼を言って、店を出ると、急に雲行きが怪しくなってきて今にも雨が降り出しそうだった。眼鏡屋に行くことを断念し、急いで家に帰ることにした。


 あぁ、飯も食べに行きたかったのに。今日はラーメンでも作って食うか。

 降り出しそうな空をにらみながらバイクを走らせた。もう12月も半ばを過ぎた今頃に、雨に降られて走るなんて、風邪を引き込むもとになる。


 何とか降り出さないうちにマンションの階段下の、いつもバイクを止めているところまでたどり着いた。が、バイクを仕舞いカバーをかけているときに雨が降り出した。


 幾分か濡れながらも、慌てて屋根のあるところまで駆け寄り、エレベーターを使って部屋に戻った。

 雨雲のせいかと思ったが、ずいぶんあの店で話し込んでいたようだ。もう周りは宵闇が迫っていた。


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