01 いつものように
3日がかりで仕上げた企画書を、最後には徹夜までして、クライアントにメールに添付して送っておいた。
俺は俗に言う『イベント・プランナー』という職業だ。
紆余曲折、いろんなことがあって現在一人で仕事している。
イベントの世界ってのはかなりいい加減で、なおかつシビアな世界だ。
企画を起こし、クライアントを説得し、実施・運営に向けてヒト、モノを手配し、教育して準備し、当日を迎え、様々な喜怒哀楽を巻き起こしながら終了する。
企画段階ではかなりアバウトなものが、実施運営ともなるとかなりシビアになってくる。
予算管理、時間管理、人員管理…
やらなきゃいけないことは山ほど出てくる。
このアバウトなところってのがかなりの曲者で、おかしく怪しい奴らがうごめいている世界でもある。
裏切られたことは数知れず。
何度やめようかと思ったことか。
それでも毎回俺の弱いところを突いてくる連中のおかげで、どっぷり首までつかる羽目になっている。
浪花節には弱いからな。
エンドユーザーであるゲストの顔が浮かんじゃうと、つい引き受けてしまう。
ここ数年、俺に依頼してくるクライアントである男も、御多分に漏れずいい加減で、いつも二進も三進もいかないところで俺に仕事を振ってくる。
安請け合いし過ぎだ。
まあ、だからこそこの余裕のない世の中で、イベントの仕事をとってくるんだろうけど。
それもそろそろ限界だろうな。
今朝送った企画書を最後に当分仕事は入っていない。
今回書いた企画も通るかどうかもわからない。
通ったところで、俺が運営まで出るかどうかはまだまだ先の話だ。
大きく伸びをして椅子から立ち上がり、仮眠するためベッドに向かった。
ベッドに寝転がり、大きくため息をついた。
あぁ。背中が伸びて気持ちいい。
やがてそのまま眠りについた。
昼過ぎにお腹が空いて起きだした。
もう13時だ。
ユニットバスに入り、熱いお湯でシャワーを浴びた。
そうだ。眼鏡を新しくしないとな。
今朝までの徹夜で、目がかなり疲れていた。
最近50を過ぎたこともあり、老眼も進んでいるのだろう。
近視に乱視におまけに老眼。
裸眼ではパソコンの文字も見れない。
スマホなんかはもってのほかだ。
仕事柄、屋外作業も多いことから、京都に本社がある会社のタフなスマホを使っている。色は赤だ。
前に黒いスマホを使っていて、現場で落として探すのが大変だったから、それ以来派手な色のスマホを使うようになった。
何はともあれ、眼鏡だ。
目に合っていないと、肩こりがひどくなる。
早急に買い換えないといけない。
シャワーから上がり、ようやくリフレッシュして着替え、バイクのカギと財布とスマホを取り、革ジャンとハンティングをかぶって外に出た。俺の住んでいるところはマンションの6階で、一番北側の部屋だ。部屋の北向きの窓からは、京都タワーが小さく見える。遮るものが何もないからな。桂川のほとりで近くに競馬場がある。
この街に暮らし始めてからもう10年が過ぎた。
階段を降り、1階の階段のわきにあるバイクのシートを外した。
数年前にネットオークションで買った国産のアメリカンバイク。250㏄だ。
15万円ほどだったか。買ってから少しずつ直して現在はかなり調子がいい。
バイクにまたがり、チョークを引きキーを始動位置にし、セルを回すとすぐにエンジンがかかった。