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タイトル一文字。 同音異字から連想する物語、あいうえお順に書いてみた。

「ん」

作者: 牧田沙有狸

「保存っと」

あたしはネットに小説を投稿している。

料理上手な友達が来て台所勝手に使うねと、いろいろ準備をしてくれた。

「冬至鍋できたよー」

「冬至鍋?」

「そう、冬至に『ん』がつく食べ物を食べるといい運を呼ぶんだって。

にんじん、レンコン、カボチャはナンキン、南の瓜でカボチャ、らしいよ」

「冬至にはカボチャだもんね」

あたしは机のパソコンをそのままにして、テーブルで湯気を立てる美味しそうな鍋の前に座った。

「キリいいの?」

「うん。保存したから大丈夫」 

「何、書いてんの?」

「小説。ネット上に投稿してるんだ」

友達は、興味津々でパソコン画面を覗いた。

「へえ、あ、このサイト知ってる。でもここって、ライトノベルとかじゃないの?

 ファンタジー路線が多そうだね。こういうの苦手じゃなかった?」

「苦手だけど……」 


あたしはゲームっぽいファンタジーやヒーローものが苦手だった。異世界に転生とか、無理。

 ハリーポッターでさえ受け付けない。

 あり得ない現象にワクワクできる心を失ってしまったのか、都合のよすぎるドラマに心地よさを感じない。 

 物語は虚構であってほしいけど、自分たちがいる世界で地に足付いてる話が好きだ。 

「けどさ、いつだかの夏休みにさ、ツイッターで鎌倉市図書館の人が書いたのあったじゃん。

 死ぬほどつらい子は図書館おいで、マンガもライトノベルもあるよっていうやつ。

 あれ読んだとき、あのラノベを読みたいから、死ぬのやめようって思ったら

 どんなにすごい文学作品よりも力があるんじゃないの?

 異世界に行きたくて現実世界で生きようとするんだから、それはそれでいいんじゃないの

 って思ったよ。君が笑ってくれるなら、僕はラノベでもエロ漫画でも描く~って思ったよ」

 昔の名子役で話題になったドラマの主題歌に載せてあたしは歌った。

「その例え、今の中学生には分かんないだろうね」

「中島みゆき、分かるっしょ」

「で、エロ漫画描いててるの?」

「そこは例え。ここ小説投稿サイトだから」

「ラノベぽいの、ファンタジーとか書いてるの?」

「いやあ、書けない。あたしは普通の話書いてる。区分けが純文学しかないんだけどさ。

 別に芸術性とか、そういうの追求してるわけじゃなくて、伝えたいことを物語してるだけ」

 なぜ小説を書くのかと聞かれれば、それが表現ツールだからだ。

 極端なこと言えば、手話とかモールス信号とかと同列。小説という道具を使ってる。

 言いたいことを物語の人物に代弁してもらってる感じ。

 なんのネームバリューもないあたしの発言を届かせるには面白い物語を作るしかない。

 あと、虚構の世界ですって前提がないと、ちょっとジャーナリズム語ると、

 揚げ足とって正論並べて平気で傷つけるやつがいるから、そういうのから逃げるためかも。

「ふーん。お姉さまが味方になるよ。私の物語で誰かが救われたら嬉しいってやつ?

 だから、あえて中高生が書いたり読んだりするところで書いてるのか。

 プロが新しい表現の開拓の場として別名で書いたりするみたいだもんね」

「え。そういうつもりではない。プロじゃないし」

 確かに、ここに書けば読んでほしい世代にダイレクトに届くかもしれない。

 あたしが書いた物語で救われる人がいたら、この上ない喜びだ。

 でも、そんなこと考えたことなかった。それは結果であって目的にはしたくない。

 だって、そういう上から目線の作品ってすごくダサく思える。

 たいした経験してないのに先輩面して的外れなアドバイスして勝手に悦に入ってるみたい。

 先に走ってゴールで待ってて「俺も辛かったけど、絶対大丈夫だから頑張れ」って無駄な経験談語る奴。

 誰もお前なんか目指してないよって。

 異世界で妄想繰り広げるよりも、人の心に届かないと思うから。

 常にあたしも、同じ立場で書いてる。

 人間は、些細なことで傷つき、些細なことで立ち直れる。

 大人になっても変わんない。

 ずっと、それを繰り返してきて、みんな同じように悩んで、くじけて生きているんだ。

 そういう、普通の話を書き続けたい。

 大人目線、作家目線、そういうの感じないように。

 はたしてそれは面白い話なのかと聞かれたら微妙だから、やっぱり純文学なのかな。

「まあ、あたしとしては自分が超リアル異世界転生してるよ」

「え?」

「だって、話の中じゃ、中学生になったり、恋人に逃げられるほど有能な女だったり、失恋して道で泣き叫んだり

 ぜんぜん違う自分になってるから。たまに実話挟んで設定がリアルすぎるから、読んでる側は、

 この作者はこういう経験してきたんだろうなとか思ってたり、と思うと、騙してるみたいで楽しくなる」

「女優みたいだね」

「そう。自分が楽しいから書いてるのかな。ここで」

「ふーん。作家先生の頭ン中は分かんないや」

「そう? さ、たーべよ。美味しそう。ニンジン、レンコン、ダイコン、ナンキン」

あたしも、よくわかんない。

書くという行為は、この野菜たちみたいに自分の調子をよくしてくれる。

だから書き続けたい。

「いつかあんたの『ほん』も味わいたいですな」

「うん!」


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