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森の中で迷った葉山界はやまかいは、猫又の双尾鈴奈に拾われ、山奥にある人気のない館で過ごす事になる。


妖怪や悪魔達との日常コメディです。

蝉の声が止む。


 山の中を歩き、途方に暮れいていたある時のこと。

 俺は大学研究のため、妖怪で有名な山に登っていた。なにしろ、伝記物に載っていた超有名な名高い山と言われるほどで、俺は夏休みを利用し、自宅から遠くの街へとやってきた。

 夏の強い日差しが体を襲い、汗だくになりながらも道を歩いた。


 そんな時。


 暑さが消え失せ、冷ややかな温度をが訪れる。

 目の前に広がったのは、緑が生い茂る森だった。


「どこだよ……ここ」


 俺は周囲をきょろきょろと見回すも、見えるのは先の見えない道が四つ、綺麗に東西南北へと伸びている。ゼOダの伝説にでる迷いの森かと言わんばかりの風景だ。俺は小道へと足を進める。

 しかし、どれだけ歩いても森は光を見せない。試しに目印となる小石をスタートラインにおき、再び小道を歩いてみる。

 その結果、俺はなぜか、小石のあった場所に逆戻りしていた。


「もしかして、心霊現象……とか? はは……。ありえねえ……」


 と、その時である。


「あのー……」


「ひっ!?」


 突然、後ろから声をかけられる。


 俺は恐怖に顔を歪め、後ろを振り向く


「にゃ、にゃっ……!?」


 時が止まった。

 俺の目は、捉えた輝きをはなさなかった。

 茶色の髪を軽やかに垂らし、鈴が特徴的な着物をきている少女が、俺の目の前にたっていた。つぶらな瞳で俺を捉え、不思議そうに眺めている。少女が髪を揺らした背に、小さなしっぽが二本見えた。

 幻か、現実か。

 俺が見たのは、一人の可憐な、少女だった。









「そこだあああああああああああああああっ!」


『ジェネシックヴァイパァーー!』


 緑の鎧をまとった騎士が遥天空に拳を放つ。


『ウリィィィヤアアアア!』


 対して、額にスペードのマークを掲げた鉢巻を巻いた戦士が山を越す勢いで吹き飛ぶ。しばらく浮き上がったあと、地面にひび割れを伴いながら、体がのめり込んだ。


「……なにやってんだお前ら」


 古びた蛍光灯の下、たたみ6畳半の部屋で、ピコピコと軽快な音が耳に届く。部屋の奥に、二人の人影がちょこんと座っている。古いテレビの青い光が輪郭をうつしだす。


「あ、あぁぅ……」


 雛鳥が怖がっているような声をあげるのは、首から上のない、背の高い女。


「よし!」


 勢いよくガッツポーズをとっているのは、頭に二本の角を持った眉毛の太い活気あふれる少女だ。

 まずは一言。

 彼女たちは、妖怪である。

 唐突な言いだしであることは認める。しかし現実なんてもっと唐突な出来事が多い。


「ま、まだ終わってない……」


 首なし少女は愕然としてあたま……ではなく体をおこし、手にコントローラーを持ち直す。


「おっ! いいねー! そうこなくっちゃ!」


 眉毛が明るく跳ねた少女は同じようにコントローラーを持ち直す。

 2人は再び、テレビに向かって、生死を分けた戦いを繰り広げるように手元を動かす。


「おーい!」


 俺の名前は「葉山 界」(はやま かい)。


 そして、畳が広がるこの部屋は、『きたろう館』と呼ばれる部屋のひとつである。

『きたろう館』は、俺の住む都会街の近くにある大きな山にある館で、現在、俺を含め、妖怪が5人住んでいる。

 ちなみに俺は、れっきとした人間。大学生である。

 俺は講義で出された研究論文を掻き上げるため、夏休みを利用し、妖怪話の多い山に訪れた。幼いころから、何故か『見えないもの』が『見える』俺にとって、『妖怪』や『心霊』は当たり前の存在だった。

 特にやりたい研究もないため、自分の身の周りに関係していることを記事にしようと、俺は決めた。今どき、妖怪をテーマに書く大学生なんていないだろう。おまけに講師陣の眼からすれば、妖怪は普遍的なテーマでなくギャップ性が高い。しっかりと書けば再提出はありえない。珍しさと着実性を兼ね備えれば問題なく事を終えるだろう。あとは、平和な日常が目の前だ。

 そうなれば万々歳だ。やりたいことのない俺にとって、平凡が一番。

 しかし、そんな野望も、山の神に遮られた。

 山の中で、俺は迷子になってしまったのだ。心霊現象など気にしないタチだが、リアルに『迷子になる』のは初めてだ。迷子になった子供の気持ちがようやく理解できた瞬間でもあった。

 その時に、『きたろう館』の住人……妖怪と出会った。

 それから訳あって俺は、きたろう館に居座っている。


「今いいところなんだから黙ってろよ!」


 角をはやした少女『色ヶ島桃果(しきがしま ももか』は、俺に向かって一喝をかまし、再びテレビ画面へと目を向ける。となりに座る首なし少女『リアン』も真剣なまなざしで勝負に集中している。

 二人がプレイしているのは、対戦型格闘ゲーム『やっぱり俺の確定反撃は間違っているはずだ』だ。名前は長いものの、キャラの豊富さとスター性で日本中の人気を掌握しているゲームである。確定反撃とマニアな言葉を使う所が、格ゲーファンを唸らせている……らしい。

 あと、タイトルで『間違っているはずだ』とちょっとうやむやにしている所が可愛いとかなんとか。なんだ可愛いって。

 話を戻し、桃果が使うキャラクターは、緑色の鎧を着た戦士である。

 対してリアンはやや黒めのマントをひるがえしたキャラクターだ。

 2ラウンド目が開始、ファーストアタックが桃果が先手を取り、そのままの勢いでリアンのキャラを端まで追い込む。


「このまま行くぜえええ!」


『エメラルドォォ! インストォォォル!』


 突然、桃果のキャラクターが自らの鎧を破裂するような衝撃音とともに破り、筋肉ムキムキのマッチョになった。全身から出る緑色の光の放出が画面を支配する。最早ハOクのようなアメコミヒーローを感じさせるキャラクターは、リアンのキャラを苦しめる。


『ウリィイアイアイアイア! アアアアウ!』


 若干意味不明な言葉を発しながら、リアンのマント戦士はもがき苦しむ。


「まだです!」


 しかしリアンは桃果の一瞬の攻撃の隙をつき、必殺コマンドを入力する。というかコマンドを正確に素早く入力する辺り、ガチ度が非常に伝わってくる。


『ウウリィヤッハアアアー! 鮮血のぉぉぉぉ! 崩刃撃ィィィィィィィ! ぶっつぶれろよぉぉぉぉぉおおおおお!』


 人間とは思えない雄たけびを上げ、桃果のキャラの体に、長い足を差し込んだ。


『ぐ、ごおおおお! テメエ……!』


『ウリャッヒイイイ! 血が実になじむ! なじむぅぅぅぅぅぅ!』


 リアンのキャラはその長い脚で桃果キャラをそのまま蹴り飛ばす。桃果キャラはあっという間に壁際まで吹っ飛ばされた。


「おお! やるじゃん、リアン!」


「桃果さんこそ……」


「おーい、そこまでにしておいたほうがいいんじゃないかー?」


 声をかけてみるも、最早二人はゲームに夢中で届きやしない。

 すると、部屋の外から軽快な足音が響く。 

 タッタッとかける脚はやがてこの部屋の襖の前で静止する。勢いよく扉が開いた。


「二人共! なに呑気にゲームなんてやっているんですか!」


 上がりこんできたのは、小さな人影だった。身長は桃果と同程度。猫耳を生やし、かわいらし尻尾は逆立ち、つぶらな瞳は怒りを渦巻いている。


「あっ、すずなん! 今良い所だから、邪魔すんなよ!」


「邪魔すんなよ、じゃないですよー!」


 少女は桃果に向かってきらりと八重歯を見せながら怒る。

 彼女の名前は、双尾鈴奈ふたお すずな

 『きたろう館』の住人で、大家を務めている。

 住人の中で一番長く滞在しており、その経歴の長さから大家に任命されたそうだ。それ以降、皆のまとめ役として、館で暮らしている。

 俺が山に迷いこんだ時、初めて会った相手が鈴奈だった。妖怪でもない俺をきたろう館まで案内し、居座らせてくれた命の恩人でもある優しい妖怪だ。

「界さんも! 黙って縮こまらずに、言ってやってくださいよっ!」

 しかし、ただ優しいだけではなく、時には厳しく怒る一面も存在する。


「いや、俺も止めようとしたんだけど……」


「まったくもう……。うにゃっ!」


 鈴奈は俊敏に滑空し、テレビの近くへ移動する。ガッ! という無理やりさを感じる音と同時に、ゲーム機に繋がっていたコードが勢いよく抜かれた。


「ああっ!」


「あ……」


 二人の表情は哀しみに包まれた。熱きバトルファイトを強制的に中断され、桃果は怒り、リアンはしょんぼりとしている。


「も、もう少しやりたかった……」


「すずなん! オマエ、電源抜きやがったな!? ゲームの生命は電源なんだぞ!? 命をなんだと思っているんだ!」


「はいはい。文句を垂れません! 桃果ちゃんは霊力集めに、リアンさんはいつもの薪割りをお願いしますね」


「ぐぬぬ……、仕方ねえな。リアリア。続きはまた今度な」


「うん……」


 リアンは首のない体を持ち上げる。

 ……ってあいつ、顔忘れてね?


「おい、リアン。お前の顔は?」


「へ……? あ、しまった! 置いてきた!」


「何処ですにゃ?」


「……わたしの部屋」


「もう〜〜〜。早く取ってきてください。働かざる者食うべからず、ですよ。次回から見つかり次第、没収しますからねっ!」


「は、はぃ……」


 リアンは大股で部屋を飛び出す。


「うぇ〜。めんどくせ〜」


「ほら、はやくはやく」


 うなだれる桃果の背中を押しながら鈴奈も部屋を出る。


「よし、俺も何か仕事を……って、ないんだよなぁ」


 俺は、きたろう館にきて三日目になる。

 しかし、至って手伝いをするわけでもなく、ただ旅館内をぶらぶらと歩き回っているだけ。もちろん理由も明確に存在する。

 俺は何度か、鈴奈の仕事を手伝おうとはしたが……鈴奈は気を使ってか『界さんはまだ来たばかりなんですから、ゆっくりしていってください』の一言で通される。

 きたろう館に住むには、お金を払う代わりに、全員が必ず何かの仕事を行っている。しかしまだ来たばかりの俺には教えられることが少なく、今は絶賛ニート中である。


「とりあえず出るか……」


 と、俺も部屋を出ようとした時だった。


「あらあら? これは界さま。桃果さんの部屋で何をしていらしたのです?」


 部屋の中に、甘い香りが漂う。

 優雅に表れたのは、羽根を生やした帽子をかぶった少女だ。

 鈴奈や桃果よりも体は小さく、人を魅了する目が俺の顔を捉えている。思わずおかしな衝動にかられそうな……かられないけど、そんな雰囲気を見出す少女が居た。

 彼女はヴィオレット、サキュバスと呼ばれる夢魔である。

 鈴奈に続いて弐番目に移住が長く、妖怪たちの中でも異質な部類。別世界からやってきた悪魔で、その際、森の中で迷い、その後は俺と同じく、鈴奈にきたろう館へと連れてこられた。


「ま、まさか、1人で、ヤっていましたの?」


「ななななに言ってんだお前は!」


「おほほほほ! 相変わらずマセガキは面白いですわね。すぐに顔を赤くする」


 華奢な手のひらを首の下に当て、小柄な体格に似合わない、優雅な高笑いを上げる。誰よりも一番立場が上にいる人間の、あの笑い方に似ていた。

 ヴィオレットは、なにかといって俺をおちょくってくる。俺を格下と見ているのか、いついかなる時でも俺に対しては強気な振る舞いを見せ、妖美に辱めを与えようとする。ちっこいくせに、度胸だけは一人前だ。


「まぁいいですわ。界さま。私と霊力の回収に付き合ってくれませんか?」


「霊力の回収……? あ、それって鈴奈が言っていたことか?」


「鈴奈が何かおっしゃって?」


「色ヶ島に霊力を集めてこいとかなんとか……」


「ああ、そうですの。ですが先ほど、私たちも別行動で行ってきなさいと鈴奈に言われましたの」


「え? そうなのか?」


「界様の部屋に来る前、お会いしましてよ。何か不機嫌なご様子でしたが……まぁそれはいいですわ。せっかくの仕事見学のいい機会と思いまして……界様を連れていく許可を、鈴奈からもらいましたの。どうせ界様はこの三日間、ダラダラとお過ごしになのでしょう? 欲が高まれば、夜中、人の部屋に入り、お体を発散されているくらいなら、何か一つくらいお役に立ってはいかが?」

 

 ヴィオレットは帽子のつばから怪しい瞳を見せる。

 誰の部屋にも入っていないし、その辺りは別として……。

 言われてみれば確かに、この機会にヴィオレットから仕事を教わっておいたほうが良いかもしれない。

 鈴奈も来たばかりの、まだ生活に慣れていないと俺に気を使ってくれている部分が見える。しかし、皆が働いていることがわかっていて、行動しないわけにもいかない。

 霊力……。鈴奈から聞いた話によれば、それはこの森にいたるところに存在する、人間たちの欲望や想像のエネルギーが小さな塊になったもの。

 霊力の回収というのは、きたろう館の生活を保つ上で重要な要素だ。簡単に言うと、生活維持費みたいなものである。

 実は、きたろう館は、その霊力を消費することによって、電気エネルギーを作り出している。

このボロい、いかにも誰も住んでいなさそうな場所に蛍光灯が灯っていたり、テレビゲームができるのはそのためである。 

ちなみに霊力を通して電気が使える原理は不明である。まさにミステリー。


「そうだな。俺だけ何もしないわけにはいかないし。一緒に行くよ」


「そうと決まればさっさといきますわよ」


「あ、ああ……」


 ヴィオレットはつかつかと歩き、俺もそのあとについて行く。


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