09.謳
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確かに死んだはずの。
二度は額を撃ち抜かれたはずの。
それなのにそこで艶やかに嘲笑う少女の。
その不気味さに。
その異様に。
その異常に。
男たちは薄寒い表情で引いていた。
もっとも、少女に恐れをなし、引いているのは男たちだけでなく、傍観している客や職員も同様だった。
奇妙で。
奇怪で。
異常であるだけに。
それ以上に、滑稽で。
だが笑うことなど決してできない。
異形。
「お、お前!」
不意に声が響いた。見れば、先程リーダーに金を回収するよう命じられた男の一人が、あの若い女性職員を羽交い締めにし、そのこめかみに銃口を押し当てていた。
そちらを見た客や職員は総じて息を呑んだが、少女は、おや、と眉を軽く上げただけだった。
「お前、それ以上妙な真似してみろ。この女を殺すぞ!」
これもまたテンプレートだ。だがそれが笑えるのはフィクションだけであって、現実に目の前で誰かに死なれるのは恐ろしい。
ましてやその女性は、恐らくは少女とは異なり、一度死んでしまえば、もうどうにもならない。
背筋が凍る。
銃を突きつけられた女性職員は、恐怖からもはや完全に泣いていて涙を流しまくっていたが、声を上げることだけは気丈にも唇を引き結んで堪えていた。
少女は。
はン、と。
やれやれ、と。
肩をすくめてみせた。
外人肩すくめポーズだ。
しゃらり、と腕輪が肘まで降りていった。
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