08.で
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「何なんだ、お前は」
絞り出すように、掠れた声で覆面男の一人が言った。
「さて、何なんだと思います?」
少女は問い返した。あのとき彼にそうしたのと同じように。
ただし、多分に芝居っぽく。
「私はたった今頭を撃たれて死んだはず。右から左へ、脳髄を残さず余さずぐるっとまるっと滅茶苦茶ぐちゃぐちゃに掻き分けながら銃弾が貫通して頭が爆砕して死んだはず。しかしそれなのに私はなぜかなぜだかどういうわけだか死んでいない。さてさてさあさあ果たしてこれは一体全体どういうことなのでしょう」
歌うように言いながら、無造作にその覆面男へ向かって歩き出した。迫る少女に対して、思わず一歩下がってしまった覆面男Eは、苛立ったように唇を歪め、
「もう一度殺せばわかるだろうさ」
撃った。狙いは正確で、衝撃で仰け反った少女の額から血が、間髪おかず後頭部からも爆発するように、内臓が宙を舞った。
そして、再び瞬いた次の瞬間にはその姿は消え失せていて、鈍い音につられて視線を覆面男Eに戻す頃には、覆面男Eは先程の覆面男Dと同じく殴り倒されていた。
何度見ても、少女が消える瞬間と現れる瞬間がわからない。それは彼だけではないようだった。少女は瞬きの一瞬で消失し、同時に死角に現れる。
いや、少し違うだろうか。
現れる、というよりも。
瞬間移動、というよりも。
まるで初めからそこにいたかのような。
そんな在り方で。
床に転がる男たちには、何が起こったのかわかっていなかったかもしれない。
「さあさあこれで二人目ですね。いやはや人間というものは、思いのほか呆気ないものです」
口元に手を当てて、くすくすと嗤う。彼女が動くたびに腕の銀輪がしゃらしゃらと音を立てる。二発の銃声で外がやけに騒がしいが、恐らく外で機動隊が想定している最悪の状況とは、まるで違う状況が展開されていた。
銃を持った男たちが。
たった一人の少女に圧倒されていた。
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