07.み
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強盗Dの背後に立った少女が自分を撃った強盗Dの頭を提げていた学生鞄で殴り飛ばした。
側頭部から全力で殴られた強盗Dは鈍い音とともに声もなく床に転がり、リーダーの男は目を剥き、悲鳴を上げようとしていた人々は反射的にその悲鳴を呑み込んだ。
ただ一人、鞄を振り抜いた少女だけが楽しげにくねくねしていた。
しゃらしゃらと腕の銀輪が騒ぐ。
「ふふふ、これで大判の百科事典は凶器になり得ることが証明されたわ。こんなこともあろうかと日々鞄に忍ばせていた甲斐がようやくあったというもの。さすがに殺人凶器にするのは忍びないから手加減しようかしらとか思いながらも気にせず全力フルスイングしたけど、もしもし、生きてます?」
床に転がり、泡を吹きながらびくびくと痙攣している強盗Dを覗き込む。それから少女は頷いた。
「生きてますね。息はしてますね。よかったよかった。さすがに人殺しにはなりたくありませんもの」
誰もが何も言わずその光景を見つめていた。射殺したはずの少女に昏倒させられた男。
まるで悪い夢だった。
だが、彼はこういう光景を既に一度見たことがある。
これよりもよっぽど凄惨な光景を。
あのときと同じく、床には彼女の血や肉片が派手に飛び散ったままだ。赤黒い鮮血は当然のことながら全く固まり始めてすらおらず、蛍光灯の光を鈍く返しながら波紋すら立てている。だが、彼女には、撃ち抜かれたはずの彼女のこめかみには、まるで傷一つない。
さながら、今の今まで変わったことは何ひとつとしてなかったかのように。
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