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03.め
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男は、今どき、いや恐らくはいつの時代においても悪目立ちする、はっきり言って奇天烈な格好をしていた。
頭は両目と口のみに穴の空いた真っ黒い覆面を被り、真っ黒い革ツナギを着ていて、肩からこれまた真っ黒いボストンバッグを提げていた。
典型的な強盗の出で立ちだ。銀行強盗といえばまず思い浮かべる格好である。街を歩けば間違いなく職務質問を受けることだろう。それを見て、思わず彼は笑い出しそうになった。おいおい、銀行強盗でもするのかよ、と。
男に気を配る者はいない。誰もが男をちらりと見て、すぐに視線を逸らす。確かにあまり関わり合いになりたい格好ではない。彼は男との距離が遠かったために、特に遠慮もせず眺めていた。
彼が見ている向こうで、男は入口に仁王立ちし、銀行内をぐるりと見回した。そして何か得心いったのか無言で一つ頷いて、ボストンバッグから無造作に何かを掴み出すと、まるで銃のような黒光りするものを天井へ向け、発砲した。
発砲した。
発砲したのだ。
銃のようなもの、ではなく、どうやら本当に銃であるらしかった。
空気が凍った。
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