18.る
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「大丈夫、なのか」
気付けば、いつぞやと同じ台詞を口にしていた。少女も覚えているらしく、くすくすと笑いながら、
「大丈夫ですよ。ていうか、『大丈夫じゃない』と大変です。何発も撃たれてましたからね。頭とか、心臓とか。たくさん貫通してましたし、そこら中爆発してましたし、あれは間違いなく即死ですよ。蜂の巣でしたから」
少女もまたあのときのように、まるで他人事のように答えた。
「それにしても、あなたとはよく会いますね」
言いながら、彼女は片手に猫を抱き上げ、もう片手で鞄を拾い上げながら立ち上がってそんなことを彼に言う。
「よく会うというか、これで二度目だけど」
彼女は片目を閉じ小首を傾げ、軽く肩をすくめてみせた。
しゃら、と小さく銀の輪が鳴る。
「私は普通、どういうわけか私が死んだ現場を目撃した人とは二度と会ったことがないんです。よっぽど親しい人を除いてね。だからあなたは、奇遇にもよく会う珍しい人なんですよ………ふうん」
ふんふん、と少女は頷いた。
「これはこれは。前回私は、これは何の伏線でもないと言っていたと思いますが、存外そうでもないかもしれませんね。二度あることは三度あるとは言ったものですし。またどこかで会うことがあるかもしれません。もしそうなら、次回はもっと穏やかなところでお会いできるといいですね」
腕の中の猫の喉をくすぐりながら、そんなことを少女は言って。
「ではこれにて。銀行強盗にお気をつけて――――と、言っても気をつけようがありませんね。では、夜道の犯罪者にお気をつけ下さい。拳銃でなくても、刃物だって立派な凶器ですからね」
では、と少女はまた悪戯っぽい笑みで手を振って背を向け、あの日のようにスタスタと、迷いなく、淀みない足取りで、夕闇の中に紛れていった。
少女の姿が見えなくなっても、銀輪の鳴る涼やかな音だけはしばらく響き続けていた。
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