17.踊
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機動隊や警察、マスコミ、救急隊員らに食いついている人々をよそに、彼だけはこっそりとそこから抜け出していた。
あの少女を探そうと思ったのである。もっとも、どこにいるのかなどの当てはなかったし、十中八九もうどこにもいないだろうと、半ば確信さえしていたので、その銀行の裏手に少女の姿を発見したときには本日で一番驚いた。
「おや、やっぱりあなたでしたね。いつ以来でしょうか」
こちらに気づいた少女は、立ち上がらないままににっこりと笑んだ。あの嘲るような笑みではなく、純粋な笑みだ。
少女は、そこにしゃがんで猫と遊んでいた。
「今日はお互い、災難でしたね。まさか今時あんな古典的な強盗に鉢合わせるとは思いもよりませんでした」
実に楽しそうに、猫をじゃらしながら笑う。初めに呑気に笑っていた彼なら大いに同意したところだろうが、最後まで居合わせた彼にはあまり頷けなかった。
フィクションにおいてはあまりに古典的で笑えさえするような展開も、現実に目の前に繰り広げられればあまり洒落にならない。
そんなことを、彼は学んだ。
役立つことなどないだろうし、そんな機会にも巡り逢いたくはないが。
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