15.女
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呆けた様子で突っ立つ男の前で、少女はにやりと嗤い、「いっせーの、」とふざけた掛け声をかけて、思い切りよく例の鞄を振り上げた。
鞄は男の顎を引っ掛けるように命中し、そのまま男は仰け反り、ひっくり返り、もう動かなかった。
「――――っとと」
勢い余って鞄は少女の手からすっぽ抜け、あらぬ方向に飛んでいった。あらあら、などと言いながら少女は失神した男にしゃがみこみ、淀みない手際でその手から弾の尽きた拳銃を抜き取り、軽く男のツナギを漁るとあっさり予備の弾倉を探し当て、手慣れた様子で空の薬莢と入れ換えた。
「うわあ、本物の拳銃って初めて持ったけどこうなってるのねー。重ーい☆」
実にわざとらしくきゃぴきゃぴはしゃぐ。しゃらしゃらと腕輪を鳴らす。それに対して、残る男たちも換えの弾倉は持っているのだろうが、彼らは全員が完全に呆けていて、ぼけっと少女を眺めるだけだった。
今この場で自由に動き、音を立てているのはこの少女だけだった。
「さーあーてーっと」
少女は指を引き金の輪に通し、重さを確かめるようにくるくると回すと、一つ頷いて両手で水平に構えた。
構えは完璧に様になっていた。
適当な覆面男に狙いを定め、ウィンク一つで、
「はい、バキューン☆」
パァン、と。
少女が撃った弾丸は、全くバキューンどころか腹の底に響く重い音を閃かせ、あっさりと覆面男の腿を、そのど真ん中を撃ち抜いた。さらに続けて少女は素早く狙いを変えていき、間断なく次々と残る男たちの腿を撃ち抜いていった。
初めに撃たれた男が腿を抑えて絶叫するまでには、もう一人として無事な強盗はいなかった。
最後に、煙など上がっていない銃口をふっと一息吹き、それで全ての興味を失ったようにぽいと拳銃を放り捨て、強盗たちの悲鳴を背景にぼけっと見ていた人々へにやりと嗤い、さん、はいと両手を上げた。
「きゃー、こぅわーい。たすけてぇおぅまぅわぅり、すっわぁーん」
思いっ切り棒読みだった。
それからふいふいと、しゃらんしゃらしゃらりと銀輪を鳴らしながら右腕を振り、
「そういうわけで、はい、ほら逃げて逃げてー」
実に気の抜ける号令だった。だがそれで人々は一斉に我に返り、誰もが悲鳴を上げながら入口へと逃げ出した。彼はその場に踏みとどまろうとしたが、周りの半狂乱の人々に押し流されてそのままに入口へ進まされていった。
同時に、度重なり連続した銃声にとうとう突入を強行してきた機動隊にぶち当たり、人々の狂乱はさらに激化した。感極まって泣き出す者が続出する。
そんな中で、唯一人冷静な彼が振り返って見ると、既に少女の姿はどこにもなかった。
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