01.悪
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日常と非日常を隔てているものは何かといえば、まあ様々に考えられるであろうが、そのうち一つに『我が身の危険』が含まれていることは確かであると思われる。
戦争しかり、不治の病しかり、交通事故しかり。
世界のどこかでは常に誰かが生まれ、誰かが亡くなっていっている。紛争が続く地域もある。だが、自分が、あるいは知人友人近親者が含まれていないならば、どのような悲惨な出来事も他人事としてしかとらえられない。そういった出来事に本当に心を痛め行動できるのは、それこそほんのひとつまみの人間だろう。
人間誰しも我が身が大事。
それは別に当たり前のことで、責められる謂れは一切ない。自らに火の粉が降りかかりさえしなければ、どこで火事が起きていようと知ったことではないのだ。それどころか、燃えている炎を見物しに行こうとまで考えてしまうものである。
が、しかし。
こちらにまで火が迫ってくると話はそうはいかない。
望んで炎に呑まれたがる者などそういない。
戦争しかり、不治の病しかり、交通事故しかり、だ。
そして、例えば。
例えば、銀行強盗ならどうだろう。
それも集団犯で、銃器装備かつ前科あり、というスペックなら。
例えば銀行強盗なんてものは、テレビの向こう、ニュースの中の話であって、まさか自分がその現場に居合わせることになろうとは、普通は夢にも思わない。
例えば何の気なしにお金を下ろそうとして銀行を訪れたまさにその日に、偶然、銀行強盗が襲来するなど、たちの悪い冗談だ。
例えるまでもなく、ただの不幸だ。
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