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始まりの日:母になったもの

ヒーローを求める世界と、それになり得る少年。そして、その母親。

彼らまつわるお話を、母親サイドで書いて行きます。

マザーグース:パンドラの底:母なるもの



世界の一切が均一化され、残されたものは心だけになった。

とはいえ、かくいう残された唯一も、地に足がついていないせいか、心もとない。


今自分がいる世界が闇なのか、それとも無と呼ばれる類のものなのか、まるで検討がつかない。

それでも、目の前にいる少女は一振りの劔だと悟った。



「全ての物語は、いずれ一点へと収束する。ここは、それら物語の始点であり、また、同人に終点でもある」




無に降り立つ少女は、小柄だった。年の頃は6歳くらいで、肌の色は透き通るのような白地。

目は青く輝き、浮かび上がる長髪は、燃えるような銀色でーーーー




「ようこそ、絶望の底へ。ようこそ、偉大なる者よ。

そなたはーーーーこの瞬間をもって、そなたは、「母」となる。」



語る劔は、銀の言葉を紡ぐ。

その言の葉の一旦一端に見え隠れするのは、彼女の涙だろうか?




「これは、感傷ではない。これは、ただの切望でもない。これは、ただの反抗だ。

ただ語られ、あるべき結末へと向かうだけの、救いない物語・・・・・・それを読み聞かされることに、嫌気がさしたんだよ・・・・・・ただ、それだけのことだ。それだけのために、私は、この匣の底にいる。そして、そなたを招いたのだ。この絶望の底にな?」




揺れ動く世界に、胎動するなにか。

少女の背後にはーーーーー「何か」が、いる。




「母なるソナタは、子の幸せを願うだろうな。それは、当然の権利だ。義務ではない。

義務ではなく、当然の権利だ。しかしながら、それを享受する定めに、そなたは居らぬ。そなたはーーーーいや、そなたの息子は・・・・・・これから先、幾千幾万の不幸と合間見えることになる」




無に蠢く何かが、私に手を伸ばした。

そこに、一切の情は感じられない。そう、そこにあるのはーーーーー純粋な、悪意だけだった。

そんな、純粋無垢な絶望の手が、私の眼前に迫る。





「これより先、無数の「願い」が、そなたの息子へと到達することだろう。それらの根元に善悪の境はない。故に、慎重にならねばならない。もし、そなたの子が、ただの「優しさ」のみでそれらに向かうとなればーーーーー世界は、ここへと流れ着くことになるだろう」





差し伸ばされた悪意が、私に触れかけた、その瞬間。

銀の炎が私と悪意の間に膨れ上がり、両者を隔絶した。



炎に触れた悪意はその身を焼かれ大きく悶えていたけれど、かの銀が私の肌を焦がすことはなかった。

銀の炎は悪意を取り込みながら、さらに輝きを増した。その光は世界を照らし、少女の背後にある者をーーーー浮かび上がらせる。




私は、「それ」を見て思わず息をのんだ。

なぜなら、そこにあったのは・・・・・・




「私が言うのはお門違いだとは思う。だが、これだけは言っておきたい。その子を守ってやってくれ。

その子の心を無数の「願い」から、守ってやって欲しい。今は何のことか、まるで検討がつかないかもしれない。だが、そなたは母だ。いずれ、わかる時がくる。だから、頼む。その子を。我らの希望をーーーーどうか・・・・・・」




爆ぜる銀は世界を焼き、私の視界はフラッシュアウトした。

閃光が世界を焼き、視界が白に染まる。


私の目には、何も映らない。何も、見えない。その代わりに、声が聞こえた。

私を呼ぶ、あの人の声が。そして、それをかき消すように、もう一つの声が聞こえる。

荒々しくて、てんでデタラメで、そして、憎たらしいほどに精一杯な、自分を呼ぶ声。



それらが呼び水となって、私の意識は少しずつ浮かび上がって行った。

戻ってきた世界の中、あの人のくしゃくしゃの顔が見える。

「おめでとうございます!」と、笑いかけてくれる看護師さんの顔が見える。


そして。



「んびゃ! あんぎゃー!! アンギャー!!!!」




そして、私の腕には。私の腕の中には、その子が居た。

私の、大切な子。私とあの人の、大切な子供。その子が、声をあげて、精一杯に、世界に産声をあげていたんだ。



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