月曜日:存在4
「でも、おじさんが俺の共犯になる必要なんてないだろ、いくら地球が終わるからって犯罪を犯すなんて、間違ってる。俺が言うのもなんだけど」
慶介は、僕を見て言った。
僕にそのようなことがわかるのか不思議だけれど、彼の瞳は綺麗でこれから人殺しをするようには思えなかった。
僕は、頷き答える。それが義務なんだと思った。
「いいんだ、どうせ僕は天国に行けやしないよ」
「どうしてだよ」
「親にたくさん悪いことをしたからね」
「何もしてないのに…?」
きっと、この少年にはまだわからない。だけれど、いつか分かる日が来てしまうのだろうと思うと何だか悲しくなった。
「ああ、何もしてないから悪いんだ。何かをしてあげるのが良いわけじゃない、だけど…」
ああ、どうしてこうなってしまったのだろうか。
ああ、どうして。
「何かをして、いや…何かを成さなきゃいけなかった…」
「僕は…。……君にこんなことを言っても仕方ない、さあ行こう」
僕は逃げるように、彼を促した。
彼も、僕が逃げるのを許してくれるようにうなずいた。
きっと、それが『情』なんだと思った。そして、きっと彼は愛情の塊だ。僕が親に忘れさせてしまった愛情をこんなにも持っているのだ。
それは、行き過ぎた愛情であろうとも、彼の行いは決して間違ってると僕は自信をもって言えなかった。殺人は悪いことだとは誰もが知っているはずだ。どんな人間でさえも知っているはずだ。
でも、彼の友人は死んだと言った。そして、それは彼と彼以外にあると言った。なら悪いのは彼と彼以外だ。なら、彼の友人のように死んでも誰も文句は言わないのではないだろうか?
勿論そうではないことは知っている。いや、そうであってはならない。それが人間が共存するためのルールとして規定されてしまっているからだ。
僕らはそのような社会で生きて行かなければ「人間」と呼ばれる動物にはなりえない。
なぜなら、僕らは本能で生きてはいけないからだ。理性で生きなければならない、それが僕ら人間だから。
公園から出て少し歩くと国道に出る。その国道には、まるでアリの行列のように車が何台も何台も止まっていた。
その時僕は、昼に母親が言っていた「逃げる」という言葉を思い出した。
そうだ、この人たちはきっと逃げるのだ。
「逃げる車さ…おじさんの両親はどうだか知らないけど、俺の両親はパニックになって急いで車出してた。多分、昼に呆けてたか、ニュース見てなかった人たちが一斉に逃げ出したんだと思う。まあ、大部分は前者の方だろうけどね」
慶介が淡々と言う。
「君の御両親は…?」
「逃げたよ」
「……君を置いて?」
「じゃなかったら、俺はここにいないでしょ」
慶介が笑う。
それから、「おじさんも…」と喋りかけたが慶介はすぐに口を閉じて、首を振った。
国道は、まるで川のように流れている、向こう岸にわたるには今や車の合間を縫うか、歩道橋を上るほかない。慶介は、歩道橋を指さすと一言、上ろうと言う。僕もそれに答えて、上ろう、と言った。
歩道橋を渡り、対岸に着く。まっすぐ行くとキャンプ用品店がある。勿論やっていないため、いつもは客に媚を売る自動ドアも固く閉じ、昼なのに輝く蛍光灯も暗く消沈していた。駐車場にも、車のくの字もない。
慶介は、自動ドアをこんこんとノックした後、
「割ろう」
と一言つぶやき、大き目な石を探しに行った。
僕は、どうすればいいかわからず、ただ暗くなった店の中をじっと眺めた。
(僕は…何をやっているんだ)
それは、どういう意味で『何をやっているんだ?』と思ったんだ僕は?
死ぬ前に親の顔に泥を塗る行為に対してか?それとも、たった一人の少年にさえアドバイスができない自分の不甲斐なさに対してか?
いや、どちらもだ。きっと。
僕は、自分が逃げないという選択肢以外を見つけるために少年を利用するにすぎない、と言い訳して何かしたかったのか?
いや、それは違う。
ただ、少し違う、僕は利用をしようと、いや…何を考えてるんだ。
いまさら言い訳を重ねることに何の意味がある。
「おじさん!」
慶介の声が、駐車場の奥から叫ぶ。
「来てくれ!」
その言葉に、何とか気を戻した僕は声の方向へと走って行った。
「これは、焼き肉するやつか…」
慶介が見つけたのは、四脚の肉を焼くあれだ。名前は知らないが、皆知ってるだろう。
慶介は頷き応える。
「ああ、この店はさ、駐車場でテントとか張って客に見せてたろ?その時、この道具も一緒に出してたんだと思う。向こうに、テントもあったよ」
続けて
「この駐車場無駄に大きいからなあ、奥の方に張ってあったテントを回収し忘れたんだ。こんな日じゃなけりゃ明日にでもどやされてるだろうな」
「いや、こりゃクビでしょ…?この夜で、遠目から見てもかなり立派なのがわかるよ、あのテント…」
「そしたら、一人空くからおじさんここにバイト入れば?」
笑いながら言うそれは笑顔で。
「ばかやろう、バイトっていうのはそんな簡単に入れるもんじゃないんだよ」
「へえ…俺は簡単に入ったけどなー…」
「人間には、生まれながらにして定められたステータスがあるわけですから…」
「はいはい、じゃあおじさん、そっち持ってよ。これ思いっきり自動ドアにぶつけて中入ろうぜ」
「地球最後の週、初日から火事場泥棒か」
意外に重くない四脚を持って僕と慶介はせっせと自動ドアの前にやってきた。
慶介は、いくよ、せーので思いっきりぶつけようと僕にいうと
「いくよ、せーーーーっの……っ!!」
四脚を一緒に自動ドアに思いきりぶつけた。
バン!という音はなるが、ドアにはヒビの一つもつかないところを見ると最近の防犯対策はばっちりのようである。
慶介はめげずに、もう一回と叫び一緒にがんがんぶつけて行った。
何度目かわからないが、体感で10分ほど打ち付けていると、自動ドアが割れた。
体を傷つけないように、きれいに四脚で割る作業をさらに体感で10分ほどして、慶介を先頭に僕らは店へはいった。
慶介は、キャンプ用品店の左側にある登山グッズを無視して、奥へと進んでいく。
奥には確か、包丁類と釣竿が置いてあったはずだ。勿論包丁類はガラスケースの中に入っていただろうが、また割るのだろうか?
と思っていると慶介は、包丁の入ってるガラスケースも無視してさらに置くへと入って行く
「あれ、包丁はいいの?」
と思わず声を出した。
慶介は振り返って
「いや、包丁は使うけど、その前に包丁を出すハンマーとってくる。おじさん、そこで待ってていいよ」
そういや僕は、彼に協力をすると言っておきながら彼の犯行予定をまったく知らなかった。
もしかしたら、この包丁は刺す以外に使う可能性だってあるのだ。たとえば…体を分解するとか、いや意味ないか。だって、あと一週間もすれば地球は終わるんだから、わざわざそんなことをする必要はない。
なんとなくガラスケースに入っている包丁の値段たちを見て驚愕した。
結構高いんだ。
そんなことを考えてると、慶介が家庭に一つあるような小ぶりの金槌を持ってきた。
「あぶないから、おじさんどいて」
ふつうは逆なんだろうなと思いながら、素直にどいておく。
慶介は、思い切り金槌をガラスケースを何度も何度も打ち付けた。
その間、がん、がん、とガラスの悲鳴が店内をこだまする。
その音を聞き、何故だか除夜の鐘を思い出し打ち付けるたびに煩悩が消えれば、彼もいつかは誰かを殺したいという気持ちが消えるんだろうか?と思った。
ばりん!
と、ガラスの割れる音で我に返った僕に慶介は言った。
「包丁だ、手に入れた。これでもう殺せるぜ」
それは、殺人鬼の顔だと思った。
「でも、その子が家にいるとは限らないでしょう?」
ここにきて何を…
「多分いるよ、いなくても国道を探す。この渋滞じゃ遠くにはいない。そいつのおやじは今日出勤してるのを昼に確認した。あいつの家は、おやじ以外車が運転できないって昔まだしゃべってた頃に聞いてるんだ」
「知り合いの車に乗って逃げたのかもよ?」
「かもな。でも、あいつは俺に殺されるよ。だって俺が殺すから」
こうして僕たちは、慶介の友人を最初に苛めたと思われる人間を殺しに店を出たのだ。
存在5で終わるのは無理な気がしてきました。一番無理な気がするのは、これを書き終えることです。