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月曜日:存在2

 外を出ると町は静まりかえっていた。

 簡素な住宅街の一角にある僕の家は他の家よりもうるさかったのかもしれない。

 僕は歩き出した。

 ゆっくりと、前へ進むと子供のころよく来ていた公園につく。その公園は滑り台とブランコと鉄棒しかない小さな公園だ。よく幼稚園の頃に母さんとここに来て遊んでいたのだ。なんとなく目が湿った。あの頃の母さんは、よく笑う人だった。そして僕は未来に希望を持っていたし、それは母さんも同じだっただろう。でも未来はこうなった。そして、母さんも僕もあまり笑わなくなった。それは地球最後という巨大な壁が希望の道を遮ったからではない。僕という存在が母さんや父さんの希望の道を邪魔してしまったからだ。

 

 それは、覆せない事実で…僕が死んでもこべりつく汚れで…。


 公園に入ってみた。

 子供のころよく乗ったブランコがいまだに有ったがそれは少々形の異なるものであった。市が遊具を新しくしたのだろう。

 そして、そのブランコに一人の少年が暗い顔をして座っていた。

 高校生ぐらいだろうか?制服を着たままブランコに座る少年はどことなく自分に似ているように思えた。だからか、僕は気づくと声をかけていた。


 「ど、どうした、の…?」


 知らない人に声をかけるのは中々緊張する。少し挙動不審になっている僕を少年は見ずに答えた。

 

 「別にどうも」


 少しの間が生まれる。いやな雰囲気だ。


 「地球、最後だから…怖いのかな…?」

 「怖くない人間なんているかよ、あっちいけよ」

 「はは、ごめんね」

 

 帰ろうと思った。だけど少し興味があった。

 何が、この少年をここまで暗くしているのかだ。勿論、地球最後の週というのもあるだろうがそれ以外にもあると思えたのだ。根拠はない、しかし僕と同じような目をしているこの少年はおそらく何か違うことも悩んでいる。そのはずだ。もし、違ったとしても別にいいと思った。どうせ地球は今週で終わるならどのような失礼も死んでから裁かれるというものである。

 それに僕はダメな人間だからどうせ天国があったとしても、そこにはいけない。

 なら、とことん失礼をしてしまおうと思った。


 「でも、何か君暗いよ、何か違うことあったみたい…親にでも捨てられた?」

 「…はあ?うるせーよ!!」


 怒鳴れた。当たり前だ。

 僕は彼に、申し訳程度に頭を下げて公園を後にした。

 そう、僕の決意とはこれほどで実行に移すかはまた別の話なのだ。



 公園を出ると、町もざわめき始めているような気がした。気のせいとも一瞬は思ったが、どうもそうではないらしい。周りの家々から、聞こえてくる怒声はどれも緊迫としており焦りを感じさせる。この世界でのんきに道を歩いているのは僕のような人間だけだろう。

 しかし、家々から怒声は聞こえてくるものの外にいる人間はさっきの公園の彼を除いては誰もいなかった。ニュースでは、各国で暴動が起きているとのことだが日本、いやこの町ではまだ起きていないのかもしれない。それも無理はなく、ニュースで発表されてまだ一時間も経っていないからだ。そして、そのニュースを見ていたとしても、それを本当のことだと信じる人が何人いるか…いや、この時代になってはもう天気予報が予告の時代になっては、嘘をつくほうが難しいのかもしれないが。

 なんにせよ、地球最後の週の一日目、月曜日の11時15分頃はまだ平和の範疇だったということだ。

 来た道を逆に戻って行き、自分の家につく。僕が玄関の扉を開けると中から怒声は聞こえてこなくなっていた。二人とも沈んでいるのかもしれない。だからといってリビングに行く気にはなれず二階の自室にこもることにした。


 あれから何時間経っただろう。少しベッドで横になろうという軽い気持ちであったが、外はすっかり暗くなっていた。けだるい体を起こし、頭をかきながら壁にかかった丸い時計を見ると、どうやら七時らしい。あれから僕は約六時間寝たというわけだ。寝るのだけは得意なのである。

 何となく、テレビをつけてみるといつもはやっているお笑い番組を中止して急遽地球最後の日について専門家たちが討論する番組がやっていた、のんきなものである。

 専門家たちは皆一様に「巨大隕石が逸れることは有りえない」と言っている。そして、その巨大隕石を壊すこともまたできないと。つまり、地球は99%終わるとのことだ。

 

 『仮に、全ての国でロケットを発射してそれを巨大隕石にぶつける策をとったとしても、巨大隕石のあまりの質量の前では無力です。さらに、今奇跡的にレーザー兵器をアメリカあたりが開発したとしても、巨大隕石を破壊することは無理でしょう。人間に期待するのは、巨大隕石が逸れることより無駄ですね』

 

 と、一人の専門家が熱く語っていた。


 『なら、今やりたいことをやることが一番大切なのかもしれません。僕らは最後まで学んだことで話したいし、また研究もしたいし。それの一部が叶うからこの場に来たわけです。一体この番組が、どれほど視聴率をとれているかはわかりませんが、おそらくテレビをつけていても見ている人は皆無といっていいですよね?でもそれでいいんです、テレビ局的にはよくないかもしれません。それは局の人間が視聴率を取りたいと思っているからよくないわけであってね?僕と同じような理由でしょう?』


 『だから、なんというかね。もし見ている人がいるなら、こういうことを言ってはなんだけれどもう地球は絶対に終わってしまう。だから、やりたいことをしたらいいと思うよ』


 おそらく、こういった極限の状況でやりたいことをできる人間は少数だろう。そしてそういう人間はある意味幸せなのかもしれない。僕もまたその少数の一人なら幸せなのかもしれない。

 僕は、しばらくその専門家の話に耳を傾けた後テレビを切った。

 テレビを切ると、静寂が自室に立ち込める。勿論下からも音は聞こえてこない。僕は自室を出て一階に下りてみると、リビングの磨りガラスがはめられた扉からは光が漏れていた。

 僕は無言で玄関に行き、履きなれた靴を履いて家を出た。

 

 外を出て、僕は昼の時と同じように歩き昔の思い出がある公園へと向かった。

 特に理由はないが、強いて言うなら昼の少年を少し探しているのかもしれない。こんな日だからか、誰かと話たいという気持ちもあるが、それ以上に家の人以外の誰かの声を聞きたかった。

 外は昼の時よりもはるかに静かで、昼の時よりも圧倒的に不気味だった。すべての住人が、一つの脚本通りに行動しているような、そんな静寂の中で僕だけがただひたすら歩く。まるで、世界で自分だけがイレギュラーのような。

 公園につくと、ブランコには少年はいなかった。


 「いない、か…。どうしたかな」


 と一人つぶやきながら、夜の公園に入り少年が座っていたブランコとは違うほうに座り空を見た。星が綺麗に輝いている。あの星空のどこかに隕石はあるだろうか?無いのはわかるけど。

 

 「……あ」

 

 空を見ていると、横から声が聞こえてきた。僕が、ゆっくりと声のした方向に首を向けるとそこには昼の少年がたっていた。

 さえない顔に、学生服、昼と同じ格好で。


 「や、やあ…」


 と、一応声をかけてみた。

 少年は、小さくうなずき去って行こうとする。


 「ま、まって…ッ!」

 「…?なんですか…?」


 ここで少年を帰してしまえば今夜はもう誰とも話さないだろう、いや、世界が終わるまでかもしれない。別にそれが怖いわけでも、心残りなわけでもない。なぜなら僕は自殺しようとしていた人間だからだ。だけど、僕は誰かと話したかったのだ。

 それは、決して地球が終わるからとか、どうせ死ぬからとかいう理由では片づけられない、きっと小さな心の問題だ。


 「は、話さない…?いや、別に怪しくないよ…?」


 と、挙動不審になりながらもブランコから立って少年に言う。

 少年は怪訝そうに眉を潜めたが昼のような険しい感じを見せずに渋々と頷いた。


 「でも、俺はゲイじゃないですから、」

 「僕もね!」


 それから、僕と少年は公園にある自販機で120円の安っぽい缶コーヒーを買って、ブランコをゆっくり漕ぎながら話し出したのだ。

 どうやら、少年の名前は井上慶介というらしく、16歳の高校生だそうだ。

 話しているうちにわかったことが、この子はあまり地球の終わりに興味が無いらしい。


 「おじさん、死ぬの怖い?」

 「どうだろう、僕は死のうと思っていた人間だから」

 「どうして、死のうと思ってたの?」

 「僕はダメなやつなんだ。何もしていない、本当に。ただ息を吸って此処に居るだけ。存在価値がない。朝起きて息すって寝て…。目的もない、生きる意味もわからない、ただここにいるだけ。死んでいるのとかわらずに、ただ、ここに…いるだけ」

 「・・・・。俺も理由は違うけど死のうと思ったかもしれないなあ」


 少年が、空を見ながら言う。


 「だから、おじさんの死ぬ理由はわからなくても気持ちはわかるよ。でも俺は死ぬ勇気がなかった、だから違うことをしようと思った」

 「違うこと…?」


 数秒、間が生まれた。


 「うん、殺そうと思ってるんだ、人をね」

 

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